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206.二の矢の、可能性。

 俺達は、夕食前にもう少しだけ『正義の爪痕』に対する今後の対策を話し合う事にした。


 全員一致している意見は、どうにかしてこの領内に作られているであろうアジトを見つけ出す事。

 そして構成員達を捕縛するとともに、囚われているであろう領民達を救出するという事だ。


 ただ潜伏場所であるアジトを見つける事は、極めて困難だ。


 セイバーン公爵領でも継続して捜索をしているようだが、一向にアジトらしき場所は発見出来ていないようだ。


 俺も朝の時点でスライム達に『絆通信』で怪しい人間や怪しい場所の情報を求めたが、未だに有力な情報が入っていない。


 何よりも女性達からの証言にあった“博士”を含む三人の特徴を伝えたにもかかわらず、情報網に引っかからないのだ。


 どうやって逃げたのか……不思議だ。


 可能性としてあり得るのは……


 一、スライム達の巡回エリアと偶然重ならない所を移動している。


 二、飛竜などを使って空から素早く逃亡した。

 俺が保護した飛竜達の話では、あのアジトには他の飛竜はいなかったとの事だ。

 だが、例えば他のアジトから仲間が飛竜で迎えに来て、それに乗って逃げた可能性もある。


 三、既に領都かナンネの街に入り、普通の住人として息を潜めている。

 これならスライム達の警戒網には引っかからない。

 ただこの状況であえて街に来るというのは、普通は考えづらい……。


 なんとなく……可能性として一番高そうなのは、別の飛竜で空を移動した可能性かな……。


 高さを十分にとれば、スライム達に気づかれる事なく移動する事が可能だからね。


「私がもしアジトを作るとしたら、一つは確実に西の大河沿いに作ると思うんだが……。あの大河なら船で移動できるし、捕らえた者達を領外に運び出すとしても都合がいい」


 ボードに貼られた地図を指し示しながら、公爵がそんな予想を立てた。


 前に飛竜達が西の都市の近郊に、人や物資を運んだ事があると言っていた。


 あのアジトがあった山から西に進むと『イシード市』がある。

 『イシード市』は大河沿いの都市だ。

 公爵の予想とも一致する。


 アジトがある可能性が高い気がする。


「『イシード市』かその周辺が怪しいかも知れませんね」


 俺がそう言うと、公爵もアンナ辺境伯も大きく頷いた。


「お母様、それでは偵察隊を出しますか? 」


 シャリアさんが公爵に尋ねる。


 確かに偵察隊を出すべきだが……


 今のところ……その近辺のスライム達からは、怪しい報告は上がってない。

 スライム達の情報網にかからないものを、偵察隊が見つけられるだろうか……。


 ん………スライム達の情報網にかからない………待てよ……


 俺達の発想が、そもそも間違っているのではないか……


 ……そんな考えが頭をよぎった。


「あの……今……ふと思ったんですが……もし我々の発想が間違っているとしたら、大変な事になるかもしれません……」


 確信はないが、脳裏に浮かんだ懸念を伝える事にした。

 みんな訝しげな表情で、一斉に俺を注視した。


「どういうことだい? 遠慮しないで言ってみな!」


 ユーフェミア公爵がそう言って、話を先を促す。


「確かに私も構成員達は逃げて、他のアジトに逃亡して潜伏するだろうと考えていました。でも……もし仮に、逃げないとしたら……むしろ攻めている……つまり次の作戦に移っているとしたら……」


「つまりは、二の矢三の矢があるって事かい⁈ 」


 公爵はハッとした表情になって、俺の話にかぶせ気味に言った。


「確信はありませんが、逃げる隠れるという選択をしなかったとしたら……もし攻めに出ているとしたら……行く場所は一つしかありません。再度ユーフェミア公爵の命を狙う。そしてこの領の領主であるアンナ辺境伯を狙う事が出来る場所……。それは……この領都しかありません! この領都でもし、あの『死人魔物』が大量に発生したら……。しかもそれが復興式典で人が大勢集まっている場所なら……」


 俺がそこまで言うと、全員椅子から立ち上がった!


「お母様、明後日の復興式典は既に告知されています。騒ぎを起こすには、これ以上の場はありません! 」


 シャリアさんが唇を噛み締めながら、拳を机に叩きつけた。


「確かにそうだ。盲点だったよ。もし逃げる選択をしていないとしたら、この領都で、しかも人が賑わう式典で騒ぎを起こす。確かに私でもそうするよ! 」


「言われてみれば確かに……その可能性は十分にあります。それに他の市町からの移民に紛れてしまえば怪しまれません」


 アンナ辺境伯も表情を曇らせている。


「ただその場合……逆に言えば式典までは行動を起こさないという事です。明日中に構成員を見つけ出して捕縛すれば、未然に防ぐ事が出来ます!」


 ユリアさんが冷静に、いい指摘をしてくれた。


「その通りです。式典が始まる明後日の朝までには、まだ一日半あります。限られた時間ですが、防げる可能性があります! 」


 俺がそう言うと、皆強く首肯してくれた。


「時間との勝負だね。アジトや囚われている者の捜索は一旦棚上げして、この領都で次の作戦を準備しているという前提で行動しよう! なんとしても、構成員を見つけ出し破壊活動を未然に防ぐ!それに全精力を傾ける! 」


 ユーフェミア公爵の言葉で、当面の方針が決まった。


 この後いくつかの打ち合わせをした。

 領都内を隈なく巡回し、怪しい者を報告すると共に監視する。


 アンナ辺境伯は領民の安全を第一に考え、最悪の場合式典の中止も考慮しているようだ。

 だが式典は復興をやり遂げる決意の象徴であり、中止はあくまで最後の手段だ。


 式典の開催を前提とする以上、人の流れを制限する事は出来ない。

 新しく領都に着いた者についても、厳しくチェックはするが受け入れる事になった。


 もう日が暮れているが、今から兵士達は動くようだ。




 俺は夕食までの少しの間、与えられた部屋に戻り仲間達と打ち合わせをした。


 まず領都周辺を巡回警備しているスライム達の約半数を領都内に呼んで、領都内の巡回をしてもらう事にした。


 そして仲間達のうち単独行動しても不自然ではない『スライム』のリンと『スピリット・オウル』のフウと『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラにも巡回に当たってもらう事にした。


 俺は『波動検知』を使い、『正義の爪痕』の構成員を検知してみる事にした。


 幹部であるほど、マイナスのオーラを帯びていると思う。


 全神経を集中する……


 波動検知———


 ………………………………


 ……………うん……この感じ……怪しい気配を察知した。

 だが………数が多い……。


  五十人以上はいそうだ……

 こんなに入り込んでいるのか……

 しかもあちこちに分散している……。


 さて……どうするか……








読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

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誤字報告いただいた方、ありがとうございました。助かりました。


次話の投稿は、14日の予定です。


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