204.大口顧客、獲得。
山の工程を省略したお陰で、夕方までには女性達を領城に連れて来る事が出来た。
更に詳しい聞き取りを行うこともあり、女性達はしばらく領城に部屋を与えられる事になった。
特に問題がなければ一日二日で、仮設住宅の方に移れるとの事だ。
俺は改めてアンナ辺境伯とユーフェミア公爵に、ニアが聞き取りした女性達の話を伝えた。
そして俺の懸念である……悪魔襲撃のどさくさで他にも領民が囚われている可能性を伝えた。
そして血を抜かれて『死人薬』を作る道具にされている可能性、無理矢理『死人魔物』にされて爆弾がわりにされる可能性なども伝えた。
「おそらく……グリムの読みは当たりだね。私もそう思うよ。かなりの領民が囚われていると考えた方が良さそうだ。アジトも既に領内にいくつもあると思った方が良いだろう。何とかアジトを見つけて殲滅したいが……」
ユーフェミア公爵が腕組みしながら、唇を噛んだ。
そして眼光鋭く、ボードに貼られた領内の地図を睨んでいる。
「『正義の爪痕』の目的は一体何なのでしょうか? 」
俺は堪らず尋ねた。
何の為にこんな酷い行いをしたり、騒ぎを起こすのか全く理解できない。
「それが……よくわからないんだよ。活動目的や動機がわからないと行動の先読みも出来やしない……。いかんせん、あんたが捕まえてくれるまでは、生きて工作員を捕まえる事が出来なかったからね。奴らは捕まると自害してしまう。自分の命を断ってまで組織を守るなんて、どういう行動原理なんだか……」
やはりまだ組織の目的等は、何も明らかに出来ていないようだ。
ただ単に騒ぎを起こす、混乱に落とし入れるだけの目的とは考えづらい。
必ずその先の本来の目的があるはずだが……
さらに公爵が続けた。
「まだ尋問の途中だが、少しだけわかった事がある。やはり『博士』と呼ばれる幹部の一人がアジトにいたようだ。その者が、あの『死人薬』製造の指揮をしていた事は間違いない。どうも『四博士』と言われる組織の幹部の一人らしい。今王都から『強制尋問』というレアスキルを持つ審問官が、ここに向かっている。審問官が来れば、スキルの力で強制的に情報を引き出す事が出来るはずだ。ただあの捕まった連中が、どの程度の情報を持っているかは分からないが……。実働部隊に属する連中だろうから、大した情報は持ってないかもしれないがね」
なるほど…… 審問官という人が来るのか。
強制的に情報を引き出せるスキルなんて凄いな……。
欲しいなそのスキル……まぁそんな事はどうでもいいが……。
俺は女性達の救出のお礼を、改めてアンナ辺境伯とユーフェミア公爵からされた。
女性達は、かなり回復しているようだ。
彼女達は長期に渡って拘束されていて、酷い扱いも受けていた。
体が治っても、精神的に大きなダメージが残るのが普通だ。
だが『気力回復薬』や『スピピーチ』が効いて、精神的にも大きなダメージは無いようだ。
まぁ心の傷が全くないとは言えないだろうが……。
彼女達の状態の報告があった後、ユーフェミア公爵が『気力回復薬』の効果に感心していた。
そして、セイバーン公爵領で購入したいとの申し出があった。
『解毒薬』や『麻痺解除薬』などを含む各種回復薬を全て購入したいという申し出だった。
昨日の襲撃事件の時に、兵士達を解毒した『解毒薬』やシャリアさん助けた『麻痺解除薬』の効果にも感心していたらしい。
使用頻度が圧倒的に高い外傷を癒す『身体力回復薬』や魔力切れを回復させる『魔力回復薬』は、常備しているが、疲労をとり体力を回復させる『スタミナ回復薬』や精神力を回復させる『気力回復薬』については、常備していないようだ。
市場にあまり出回っていないらしい。
価格を尋ねられたので、マグネの街の衛兵隊や街の備蓄として販売したのと同様の販売価格を提示した。
下級の『身体力回復薬』の『中品質』のもの———通常一万ゴルが相場だが、『低品質』の相場の五千ゴルで卸すというものだ。
『魔力回復薬』は、『身体力回復薬』の半額が相場らしいので二千五百ゴルにした。
同様に『解毒薬』『麻痺解除薬』も二千五百ゴルにした。
『スタミナ回復薬』『気力回復薬』は貴重なようだが、『身体力回復薬』と同じ五千ゴルにした。
人の命に関わる事なので、暴利をむさぼるつもりはない。
品質はどれも『中品質』なので、流通している物に比べたら半額位の設定になっているはずだ。
「おいおい、本当にこの値段でいいのかい? 」
なぜかユーフェミア公爵から、また呆れ顔をされてしまった……。
「はい。なるべく品質が良い物を安く提供する為に考えた結果、『中品質』でこの価格になりました。もうちょっと安く出来れば、より使いやすくなるとは思うのですが……」
俺がそう答えると、公爵がまたもや出来の悪い子供を見るような目になっている……。
「あんたねえ……これ以上安くしようと思ってんのかい! やめときな。利益を取らなきゃ長く続く商売にはならない。それに、これ以上安くしたら、他の薬師が食べれなくなるよ」
「わかってます。一応他の薬師への影響も考えて、この価格にしました。やはりここがギリギリのラインですね」
「わかってるならいいよ。まったくもう……焦らせるんじゃないよ。じゃー……とりあえず各回復薬千本づつ発注させてもらうよ」
ユーフェミア公爵はそう言って、半分呆れながらも発注してくれた。
「グリムさん、もちろん我が領でも導入致しますわ。同様に各千本発注いたします」
アンナ辺境伯も同様に発注してくれた。
今後も定期的に仕入れてくれるようなので、大口のお客さんを二つもゲット出来てしまった。
回復薬の効果の凄さについては、ユーフェミア公爵自身も体験しているので、性能については全く心配していないようだ。
ちなみに今回の発注は各千本なので……
『身体力回復薬』——— 五百万ゴル
『魔力回復薬』——— 二百五十万ゴル
『スタミナ回復薬』———五百万ゴル
『気力回復薬』——— 五百万ゴル
『解毒薬』——— 二百五十万ゴル
『麻痺解除薬』——— 二百五十万ゴル
合計で二千二百五十万ゴルになる。
そして二領分なので、総合計が四千五百万ゴルになった。
今回の分は、数が多い事と早期に納品してあげたいので、『マナ・ハキリアント』謹製の希釈回復薬を使うつもりだ。
今後は、『フェアリー薬局』と協力薬師達で納品出来るように、準備を進めてもらおうと思う。
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