表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

207/1442

198.事件後の、報告。

 領城に戻ると、会議室に通された。


 最初にアンナ夫人から、今回の襲撃への対応と救出へのお礼の言葉をいただいた。

 そしてユーフェミア公爵からも、改めてお礼の言葉をいただいた。


 まず今回の襲撃事件について判明した事を、いくつか報告してもらった。


 やはり今回の事件は、『正義の爪痕』によるユーフェミア公爵暗殺を狙った襲撃事件という事で間違いないそうだ。

 俺が捕縛した飛竜の騎乗者達は、『正義の爪痕』の工作員だったようだ。


 そして彼らも『死人薬』を持っていたとの事だ。

 この事から考えて、あの『死人魔物』は工作員による自爆テロという見立てで、合っていたようだ。

 もっとも、完全な自白は引き出せていないようなので、断言は出来ないが……。


 最初の襲撃の状況も、詳しくは分かっていないそうだ。

 夜のうちに、付近に潜んでいた可能性もあるとの事だ。


 もしそうだった場合、潜むまでの過程は普通の人として移動していたわけだから、スライム達のチェックに引っかからなかったとしてもしょうがないか……。

 何か釈然としない感じがするが……。


 リンの『種族通信』に応えて、辺境伯領にいるスライム達は、ほとんど仲間になってくれたと思う。

 新たに仲間になってくれた子達だけで、千体を超えていたからね。


 予定通り大森林で『アラクネ』のケニーに鍛えてもらい、レベルアップ後に元の場所に戻っている。

 無理に市町に集める事はしなかったのだ。

 住み慣れた場所が良いだろうし、この領全体の情報網になって欲しかったからだ。

 市町に限定しちゃうと、それ以外の場所の情報が何も入らないからね。


 ただ市町に近いエリアのスライム達には、交代で巡回警備に協力してもらっている。


 領都周辺も前より巡回警備のスライム達が増えているので、大分手厚くなっていたはずである。


 しかし、全域を常に監視しているのは、さすがに難しい。


 今回はその間隙を突かれたという事か………。


 完璧を目指してもしょうがないが……


 今後も同様の事が起こる可能性はある。


 まぁ悲観的に考えてもしょうがない。


 事前には察知出来なかったが、事後はすぐにスライム達の情報網が機能していたからね。

 そのお陰で助けに向かえて、死者を一人も出さずに済んだ。

 十分機能していると判断すべきだな……。



 最初の『死人魔物』の襲撃より不思議なのは、『巨大魔物』が突然現れた事だ。


 突然と言っても、ある程度の距離から地響きを立てて現れて来ていたが。


 周辺のスライム達は全てあの場に集まっていたから、警戒網が機能しなくなっていた。

 近づくまでわからなかったのは、やむを得ないといえる。


 それにしても……誰かが意図的に、何らかの手段でこちらに誘導したとしか考えられない。


 今回も蛇魔物が絡んでいたし、白衣の男の関与を疑ったが、今のところ白衣の男と『正義の爪痕』との関連性は見受けられない。


 奴が狙うならユーフェミア公爵ではなく、アンナ夫人のはずだ。

 アンナ夫人の後ろ盾になっているユーフェミア公爵を先に狙ったという可能性はあるけど……。


 現状『巨大魔物』については構成員達から情報を引き出せていないが、『正義の爪痕』によるものだとユーフェミア公爵も考えているようだ。


 そして追加で現れた『死人魔物』は、飛竜に騎乗して空中から爆撃の様に降って来た。

 操縦者の他に二人乗っていて、その二人が降下しながら『死人薬』を飲んだようだ。


 この飛竜に乗った工作員達は後から現れているが、もしかしたら第一陣を投下した後にアジトに戻り、第二陣を乗せて再度現れたのではないかとの見方もあるようだ。


 確かに……それならスライム達の警戒網に引っかからなかったのも頷ける。


 突然、空から降って来たらわからないよね。


 直感的には、その説が当たっている気がする……。


 もしそうだとすれば、セイバーン公爵領から直接来たのではなく、ここから近い場所に『正義の爪痕』のアジトがあるという事になる。


 だがこの点についても、工作員達は口を割らないようだ。



 そして奴らが飛竜にはめていた首輪は、ニアが言っていた通り『隷属の首輪』という極めて希少なアイテムらしい。

 現代ではほとんど作れる者はおらず、過去の時代のアイテムのようだ。


 そんな物を大量に持っている事自体が、組織の得体の知れなさを物語っている。

 『マグネの街』での事件と今回の件で、『死人薬』が量産されている可能性が高まりユーフェミア公爵も頭を抱えていた。


 強い兵士のいないところで、あの自爆テロを敢行されたら恐ろしい被害が出そうだからね。



 以上が今回の『正義の爪痕』による襲撃事件に関する概略だが、第一報という事で引き続き尋問を進めるとの事だ。


 『正義の爪痕』の工作員を生きて捕らえる事は非常に難しいらしく、今回の捕縛について改めてユーフェミア公爵からお礼を言われた。


 『マグネの街』で捕らえた工作員と合わせて十一名確保出来たので、なんとしても情報を引き出し全貌を解明するつもりのようだ。



「それにしてもニア様、グリム、あんた達どれだけの戦力を持ってるんだい? 領はおろか小国ならすぐにでも切って取れる程の戦力じゃないか! 『女神の使徒』とはよく言ったもんだよ。大体あのおチビ達にうちの精鋭兵士達が守られてたんだからね。ハハハハハハ……。普段から厳しく鍛えてる私としちゃあ……もう笑うしかないさね……」


 一段落したところで、ユーフェミア公爵がそんな事を言ってきた。

 呆れと自虐が混じった複雑な笑みを浮かべている。


 ちなみにおチビ達ことリリイとチャッピーは別室で、アンナ夫人の長女ソフィアちゃんと次女タリアちゃんと一緒に無邪気に遊んでいる。


「まぁ強い事は認めるけど……国を攻め取ろうなんて……そんな面倒くさい事、グリムが考えると思う? 」


 ニアはそんな事を言いながら、呆れ顔で俺を見た。


「わかってるよ。ニア様はもちろんだけど、こいつがそんな野心を抱かない事は百も承知さね。授爵の件で良くわかってるよ」


 ユーフェミア公爵まで、なぜか呆れ顔で俺を見る。


 ……はて?


 苦笑いしている俺を見て、更にユーフェミア公爵が続けた。


「おチビ達もそうだけど、一体どうやってあんなに強くしたんだい? 」


「それは……妖精族の秘儀ね! 」


 ニアがお約束とばかりに、戯けた感じで答えてくれた。


「はいはい……。そう言うと思ってたよ。ほんと……私も舐められたもんだよ……。じゃぁ、あの動き回る盾も妖精族の秘蔵アイテムって事かい? 」


 やはりお約束という感じで半分諦め顔をしながら、ユーフェミア公爵が『千手盾』について訊いてきた。

 名指ししてくるとは……余程興味を引いたのだろう……。


「まぁ……そんなとこね! 」


 ニアも敢えて誤魔化してくれる。


「ニア様、あれって昔の物語に出てくるアイテムなんじゃないのかい? 」


 お、ユーフェミア公爵は何か知っているようだ。


「え、あの盾について何か知ってるの? 」


 ニアが凄い勢いで食いついている。

 本の虫で物知りのニアも知らなかった事を、公爵は知っているようだ。


「あれは……『魔法機械帝国と九人の勇者』に出てくる『守りの勇者』が使ったとされる盾に似てるんだよ。盾から腕が出て、勇者の指示に従って人々を守ったとされている」


 ユーフェミア公爵がそう言うと……


「え、その本読んだけど、そんな記述無かったはずだけど……」


 ニアは食い気味に反論した。

 そして首をかしげながら、不満そうな顔をしている。


「ニア様、それは要約版の方だね。出回ってる本は、ほとんど要約版だからね。王家には完全版があったのさ。それには載ってたんだよ。何故か知らないが、要約版では削除されているんだ……」


「えー、なにそれ! 読みたい! 完全版ないの? 」


 ニアがキラキラお目々になってる……


「すまない。セイバーン家には無いんだ。この王国では、王家にしかないかもしれない。完全版はそのぐらい数が少ないのさ……」


「えーーーー、つまんない! 」


 ニアが肩を落として、がっかりしている。


 今の話からすると、どうやら『千手盾』は本当に伝説のアイテムなのかもしれない……。






読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

評価していただいた方、ありがとうございます。

感想をいただいた方、ありがとうございます。


次話の投稿は、6日の予定です。


もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ