187.営業準備、完了。
大森林からサーヤの家に戻ってきた俺は、サーヤとレントンと共に工作中だ。
移動式の屋台を試作しているのだ。
車輪がついた馬車のような構造で、馬に引かせる事も出来るし、人がリヤカーのように引く事も出来るようにする。
サーヤは、馬車の改造が大好きなようで、珍しくハイテンションになっていた。
しばらくして……
移動式屋台の試作品が完成した。
基本的な構造は一緒だが、販売するものに合わせて、変更を加えた四種類の移動式屋台を作った。
この街には中央通りに面した広場が三つある。
北門前、南門前、中央の三カ所に、それぞれ道の両側に大きな広場があるのだ。
ここはいつも屋台が出ていて、街の一番の賑わいスポットになっている。
四種類の屋台をこの三つの広場に出店するので、『波動複写』でコピーして十二台作り上げた。
四種類の屋台のメニューは……ムフフ……。
○まず一つは、街の人達に大好評だった『おにぎり』だ。
○そしてもう一つは……ズバリ! 『ホットドッグ』だ!
屋敷の調理人達が、がんばって柔らかいパンを完成させてくれた。
それをコッペパンサイズに作り、サーヤの作ったソーセージを挟み込むのだ。
トマトが収穫できたので、『トマトケチャップ』も作る事が出来た。
卵が豊富にあるので、『マヨネーズ』も作る事が出来た。
後はマスタードソースがあれば完璧なのだが、無かったので『フェアリー商店』の仕入れ担当者達に調達を頼んでいるところだ。
ちなみに、『トマトケチャップ』と『マヨネーズ』は、加工食品として『フェアリー食品』で量産して一般に向けて販売する事も考えている。
○そしてもう一つ、俺が考えた目玉商品は……『コロッケ』だ!
この前ポテ村で、大量の新ジャガイモを貰って思いついたのだ。
パン粉もあるし、いいオリーブオイルもあるし、凄く美味しいコロッケが作れるはずだ。
○そしてもう一つは『フレッシュジュース』だ。
これは果物を中心に野菜も混ぜて、健康にも良いジュースという事で売り出そうと思っている。
元々構想していたのだが、ジュースを売るには氷が欲しいところなので見送ろうかと思っていた。
だがサーヤがナイスなアイディアを思いついてくれたので、実行に踏み切る事にしたのだ。
この前手に入れた『魔法の巻物』で、簡単に氷が作れると思いついたのだ。
まず土魔法系の巻物『土壁瞬造』で壁を出現させる。
次に氷魔法系の『氷槍発射』を壁に向けて発射して突き刺す。
突き刺さっている氷の槍を砕いて、適度な大きさの氷を作るというものである。
そして、これを保冷する為の箱も作った。
大木をくり抜いて作った箱に蛇魔物の皮を貼って、保冷効果が高い専用保冷箱を完成させたのだ。
一日なんとか持つ程度だが、とりあえずは十分だろう。
屋台部門である『フェアリー軽食』に、『波動複写』でコピーした巻物を常備する事にした。
俺が作った巻物ではないので、コピーするのは少し自主規制に引っかかるのだが、買おうにも売っていないし、自分達で使う分なので今回は良い事にした。
これで毎朝『フェアリー軽食』のスタッフが、自分達で氷を作る事が出来る。
それにしても、氷が簡単に調達出来るのは凄い事だ。
夏場に氷なんて……売れる予感しかしない。
氷単体でも、凄く売れるんじゃないだろうか!
そしてこれはもう……『かき氷』をやるしかないじゃないか!
かき氷製造機の開発を鍛治工房の職人さんに頼んでみるか……。
屋台メニュー第五弾は、『かき氷』になりそうな気がする……。
シロップと練乳も開発しとかないとね。
ちなみにこれらのメニューは、トルコーネさんが気にいってくれれば『フェアリー亭』の新メニューに使ってもらおうと思っている。
そして屋台の出店なら『フェアリー亭』と大きく競合しないと思っている。
むしろ屋台で『フェアリー亭』の宣伝をしてあげれば、相乗効果が出て良いのではないだろうか。
俺達は、屋台事業の報告や新メニューの紹介を兼ねて『フェアリー亭』に夕食を食べに行った。
屋台事業については全く問題なかったし、新メニューについても取り入れさせて欲しいと申し出があった。
もちろん快諾した。
そして試食用に作った『ホットドック』と『コロッケ』は、大好評だった。
特に『コロッケ』は、売れる予感しかしないとトルコーネさんが鼻息を荒くしていた。
『おにぎり』もメニューに取り入れたいようだったが、悩んでいた。
パンと違い米を炊く手間がかかるし、『おにぎり』を握るのも手間だからね。
そこで俺は、個数限定販売を提案した。
オープン前に作り置きした分だけの限定販売にするのだ。
しかも基本は手間の少ない『塩むすび』だけにするのである。
そして余裕がある時だけ、特別に『鮭おにぎり』を出す。
無理せず出来る範囲でやりつつ、かつお客さんには特別なものとなるのである。
トルコーネさんは、目を輝かせていた。
『フェアリー亭』は看板メニューとパンや飲み物だけで営業できているので、メニュー数が少なく非常に効率の良い運営が出来ているのだ。
そして少しずつ看板メニューが増えているので、飽きられる事もなく良い循環になっている。
◇
翌日も俺とサーヤは朝から大忙しで、『フェアリー商会』の未着手事業開始の準備を整えた。
細かい事は後からサーヤがやってくれるので、建物の設置などをやってしまう事にしたのだ。
食品加工場である『フェアリー食品』がある北外壁の東側エリアの土地は、まだ八割以上空いているので、そこにいくつかの新しい事業部門の建物を作った。
土地の西の端の衛兵訓練所と隣接している所には、『フェアリー運行』の事務所と馬車の車庫、荷引き動物達の大きな厩舎を作った。
当初の予定通り、ロネちゃんの虫馬達にも協力してもらう予定なので、虫馬達はこっちに移り住んでもらう事になる。
頻繁に会えるようになるから、ロネちゃんも喜んでくれるだろう。
その隣には、屋台事業を展開する『フェアリー軽食』の事務所と移動式屋台の車庫を作る。
更に隣には、大規模な紡績工場を作った。
糸を紡ぐ装置はレントンが作ってくれて、俺が『波動複写』でコピーして量産した。
この紡績工場と最初に作った食品加工場の間には、まだ大分空きスペースがあるが、随時食品加工場を増設していく事になるだろう。
既にチーズ用の工場とバター用の工場は増設済みである。
オークションでの落札により急遽追加された事業も含め、これでホテル事業以外は全て開業の体制を整えた事になる。
もっともホテル事業も、『フェアリー牧場』に宿泊施設を作るだけなので、やろうと思えばすぐにでも出来る。
というか子供達が遠足で宿泊してるので、もうホテル事業を開業していると言っても良いかもしれない。
やっぱりこれもすぐやるか!
すぐにお客さんは来ないと思うが、体制だけは整えておこう。
何とか大体の準備は終わった。
ただ、本当は事業をやる上で一番重要なのは、建物や設備よりも人材である。
この点については、サーヤが凄く頑張ってくれている。
サーヤの人を見る目は確かであり、最近は避難民だけでなく街の住人達をも対象に広げているようである。
リーダー格として仕事が出来そうな人は、避難民に限らず街の住民からも採用する方針のようだ。
埋もれた逸材が結構いるようだ。
そしてサーヤに自ら売り込みに現れたという女性を紹介された。
サーヤはかなり気に入っているようだ。
女性は、この街の住人ではなかった。
そして避難民でもなかった。
なんと隣国のアルテミナ公国の出身との事だ。
元冒険者で、色んな国を旅して回ったりもしていたらしい。
妖精女神と凄腕テイマーの噂を聞いて、この街に来たようだ。
そして街の活況ぶりに感動し、俺の商会で働きたいと売り込んできたらしい。
サーヤによれば、その言葉に嘘は感じられず、本心から商会の力になりたいと思ってくれているとの事だ。
そしてその人は、レベルが38もあるというのだ。
隊長クラスの実力だ。
冒険者としても、中堅以上の実力らしい。
金髪をポニーテールにした細身の美女だった。二十八歳らしい。
名前をサリイさんといって、冒険者の時は斥候を担当していたようだ。
階層の事前調査や魔物の釣り出しなどを担当する役割らしい。
剣も槍も弓も魔法までも使うオールラウンダーでもあるとの事だ。
なんか……凄いんですけど……。
冒険者ってみんなそんなに優秀なんだろうか……。
サーヤはいきなり幹部として採用し、事業部門のどれかを担当してもらうつもりのようだ。
サーヤが惚れ込む程の人材なので、俺に異論は全くない。
もう一つサーヤから相談されたのは、今後年齢に関係なく未成年でも幹部として取り立てたいという事だった。
ミルキーとアッキーは若いながらに十分幹部としての能力と力量を示しているので、正式に幹部として事業部門も任せるつもりのようだ。
更にユッキーにも幹部として、事業部門を任せたいと考えているらしい。
さすがに俺は驚いた。
だってユッキーは十一歳だし……
ただサーヤによれば、誰よりも冷静に周りを分析する力があるとの事だ。
自分が先頭に立って引っ張っていくタイプではないが、参謀的な働きや秘書的な働きとしては、おそらく抜きん出た才能があると確信しているようだった。
そんなに凄かったのかユッキー!
確かにいつも冷静なコメントしてたけど……。
まぁ確かにいい事かもしれない。
年齢、身分、性別に関係なく取り立てるのは大事な事だと思う。
何よりも俺の経験上では、人を育てるのは環境だからね。
最初は頼りなく見えるリーダーでも、その立場に置かれるとそれらしく成長するものなのだ。
という事で、女性リーダーや若いリーダーも積極的に登用するというサーヤの方針を承認した。
というか……改めてうちの子達凄いんですけど……。
そのうち九歳のワッキーや八歳のリリイとチャッピーが責任者になる事業とかできちゃうんだろうか……
怖すぎるんですけど……。
学校の無いこの世界では、働く事が一番の勉強なのかもしれない。
ただ子供を無理矢理働かせるなんてしたくないし、無邪気に遊ぶ時間も大事にしてあげたい。
あくまで本人の気持ち優先で、のんびり過ごしたいという子はそれで全然いいと思っている。
仕事に来る子供達には……というか大人も含めてだが、読み書きを含め勉強できる環境を職場に作ってあげたいと思っている。
毎日朝の三十分を勉強に充てるとかも良いかもしれないね。
改めて『フェアリー商会』を整理すると———
『フェアリー商会』———多種多様な事業を展開する総合商会。総合商社といってもいい。
会頭———俺グリム
顧問———ニア
総支配人———サーヤ
一、統括本部———総支配人 サーヤ、総務部門長 執事バンジェス
二、牧場事業———『フェアリー牧場』———支配人 ミルキー、副支配人 牧場三人娘(ラン、スーリ、ミキイ)
事業内容———鶏の卵、牛の乳、ヤギの乳の生産と羊毛の生産と一部の農作物の生産
三、農業事業———『フェアリー農場』———支配人 ミルキー
事業内容———農作物全般の生産、川漁業
四、薬局事業———『フェアリー薬局』———店長 ハーリー
事業内容———薬の調合販売及び健康関連食品の製造販売
五、食品加工事業———『フェアリー食品』———支配人 アッキー
事業内容———加工食品の製造(現時点ではソーセージとチーズ・バターなどの乳製品)
六、食品販売事業———『フェアリー商店』———店長 ショクニール
事業内容———食品全般、調味料などの販売
七、家具調度品販売事業———『フェアリー家具』———店長 カグン、工房長 モコザイグ
事業内容———家具調度品の製造販売
八、乗合馬車事業———『フェアリー運行』———支配人 サリイ
事業内容———乗合馬車の運行と貨物輸送
九、不動産事業———『フェアリー不動産』———支配人 サーヤ(仮)
事業内容———不動産賃貸等
十、宿屋事業———『ホテルフェアリー』———支配人 サーヤ(仮)
事業内容———宿泊飲食全般
十一、紡績事業———『フェアリー紡績』———支配人 ユッキー
事業内容———羊毛等の糸を紡ぐ紡績
十二、屋台事業———『フェアリー軽食』———支配人 サリイ
事業内容———屋台での飲食提供(現時点では、おにぎり、ホットドッグ、コロッケ、フレッシュジュース)
十三、金物販売事業———『フェアリー金物』———店長 カナン、工房長 カジン
事業内容———金物全般の製造販売
十四、武具販売事業———『フェアリー武具』———店長 ブキン
事業内容———武具、魔法道具、回復薬などの販売
十五、銀行事業———『フェアリー銀行』———支配人 サーヤ(仮)
事業内容———事業に対する貸付及びコンサルティング
十六、製パン事業———『フェアリーパン』———支配人 バンジェス、工房長 チョリスタ
事業内容———パンの製造販売
『フェアリーパン』は当面ホットドックで使うパンを製造し提供するだけだが、余裕が出来たら一般に対してもパンの販売を行う予定でいる。
一号屋敷の正門に作る受付棟の一画にパンの販売コーナーを作る予定だ。
おそらく近日中にオープンすることだろう。
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次話の投稿は、26日の予定です。
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