185.マニアックな、コレクション。
果樹園は、なんとサーヤの屋敷のすぐ近くだった。
道を挟んだ南側にある一ブロック全てが、所有する果樹園だった。
二種類の果樹が植わっている。
一つは、小さめのリンゴだ。
今は収穫時期でないので実は付いていないが、小さなサイズの実が付くようだ。
元いた世界にあった『姫リンゴ』や『クラブアップル』のような感じだと思う。
この世界では一般的なリンゴらしく、一口で食べるのだそうだ。
そしてもう一種類が、スモモというかプラムだった。
実が付いていて、もうすぐ採れそうだ。
この二種類は収穫時期が重ならず、一年を通して均一に作業が出来るようだ。
昔からこの組み合わせで、栽培されているらしい。
リンゴは秋から冬にかけて収穫し、プラムは初夏ぐらいに収穫するのだそうだ。
そしてこの果樹園には、サーヤの敷地に流れている川が続いている。
川の近くには、大きめの池もある。
この果樹園は全体を柵で囲ってあるので、川や池で勝手に魚捕りをする人間はいないようだ。
少し覗くと魚影が見える。エビなどもかなりいそうだ。
『フェアリー農場』と同じように、ここでも魚や小エビ漁が出来るかもしれない。
『プライベート釣り堀』みたいな感じで、ちょっと嬉しい。
孤児院の子供達を連れて来て、小エビを獲らせてあげてもいいかもしれない。
ただ水深があるから、子供だけだと危ないけどね。
川沿いの場所はあまり果樹が植わってないので、本格的な養殖池を作っても面白いかもしれない。
やってみるかなぁ……
次に俺達は、各店舗を視察する事にした。
まずは金物販売店に訪れた。
お店に入るなり店員さんが出迎えてくれた。
前回お客として訪れた時と同様に、三人の男性がいた。
前回俺に話しかけてくれた人は、やはり店長さんだったようだ。
店長さんは四十代前半で、気さくな雰囲気の人だ。
名前をカナンさんというらしい。
残りの二人の店員さんも、それぞれ三十代後半位で、モーノさんとヤーンさんと名乗ってくれた。
再雇用するので今まで通り業務を続けて欲しいという話をしたら、皆一様に安堵していた。
やはり家族を養っているようだ。
二階は事務所スペースになっていて、不動産を管理する者達が使っていたようだが、全て逮捕されて誰もいない。
この場所は、これから営業を始める『フェアリー不動産』の事務所兼店舗として使おうと思っている。
俺はポンコツ商人コモーが売却しようとしていた下町のエリアを再開発し、困ってる人に安く貸し出すつもりなので、その話をした。
店長さんは自分の事のように喜んで、コモーに追い出された人達に声をかけると張り切っていた。
次に隣の武具販売店を訪れた。
二名の店員が出迎えてくれた。
店長さんがブキンさんという名前で、五十代の渋い感じの男性だ。
もう一人の店員さんは、ボグンさんという名前で四十代のガッチリした男性である。
スタッフはこの二人だけのようで、この二人は武具の買い付けも担当しているようだ。
鍛治工房では刃物も作っているが武具は作っておらず、出来る範囲の修理をしている程度のようだ。
今までは領都の武器職人や隣国などから仕入れていたようだ。
現在の商品在庫は、スカスカである。
やはりあのポンコツ商人コモーが、自分で使う為に持ち出してしまったらしい。
そこで俺は、コモーと取り巻き連中から取り上げた武具を商品に戻す事にした。
一部は衛兵長とクレアさんにあげちゃったけどね。
残り全てを魔法カバン経由で『波動収納』から取り出し、店頭に戻してあげた。
ただ今後の参考の為に、全ての武具を『波動複写』でコピーしておいた。
もちろん、いつものように四セットだ。
一旦は俺の物になったんだから、コピーしても良いだろう。自分のコレクションだし……。
店長さん達は、魔法カバンから出てきた武器を見てかなり驚いていたが、商品が補充されるので喜んでいた。
品揃えが良いお店だったようで、隣国から訪れる冒険者にも評判は良かったそうだ。
定期的にやってくるお得意さんもいるようだ。
「すみません……出過ぎた事を申すようですが……衛兵のみなさんの新装備はグリム様がご用意されたと伺いしました。もしまだ在庫があるようでしたら、商品として販売すれば隣国から訪れる冒険者は必ず買ってくれると思うのですが……」
店長さんが遠慮しながら、そんな事を言ってきた。
なるほど……それはいいかもしれない。
あれなら俺の『波動複写』でいくらでも量産出来る。
元々自分が作ったものだから、コピーで数を増やしても自主規制的には全然オッケーだ。
それが商品になるのは、いいかもね。
俺はストックしてある一セットを出してみた。
二人とも目をキラキラ輝かせている。
店員をしているだけあって、結構な武具マニアなのかも……。
店長なんかヨダレが垂れそうになってるし……。
ちなみに販売価格をつけさせてみたところ、全て役所の査定より高い値段をつけていた。
無理に高く売る必要はないので、安めの価格設定でいいと思っている。
衛兵隊に納入した価格と全く同じなのも微妙だったので、若干高い程度の値段にする事にした。
値段は二人が付けた販売価格よりも、結構低い価格になっている。
二人によると、この階級、見栄えで、この値段なら評判になるのではないかとの事だった。
ヒット商品になったら、製作者としてはかなり嬉しいけどね……。
ただ衛兵隊仕様の白ベースに赤の縁取りと同一ではまずいので、正式商品は白ベースに黒の縁取りにした。
各商品の名称は、この前付けた名称でそのまま行くことにした。
二人共すっかりハイテンションになっていた。
そんな事もあってか、店長さんからもう一つ話があった。
二階の一室に案内された。
そこには、様々な武具や道具類が置いてあった。
先代が半分趣味で集めていた変わった武具や不思議な道具のコレクション部屋だそうだ。
ここにある物は売り物にしないそうなので、よかったら俺達で使って欲しいと申し出てくれた。
妖精女神の一行である俺達なら、使いこなせるのではないかと思ったらしい。
中々に興味をそそられる品々だ。
あまり見ない不思議な形状の武器や防具が色々ある。
先代は相当の武器マニアだったらしい。
鎖のついた鉄球なんて……本当に使う人がいるのだろうか……。
死神の持っている鎌みたいなやつもあるし、ヌンチャクや三節棍みたいなやつもある。
マスケット銃型の魔法銃、銃剣のような槍としても使える長い銃身の魔法銃もある。
凄いなぁ……
てか……やっぱ魔法銃ってロマンだなぁ……。
俺は感動したが……冷静に考えると……実戦に向かない感じでもある。
ロマン武器とでも言えばいいのか……失われた中二心が疼いてくる……。
かなり気に入ってしまったので、ありがたく頂戴する事にした。
仲間達が使えそうな面白武器もあるので、今度サプライズプレゼントに使おうと思う。
俺が部屋を出ようとすると、店長さんが更に一番奥から埃を被った大きな木箱を取り出してきた。
かなり大きな木箱から出てきたのは、巨大な盾だった。
ここにある中で一番階級が高いらしい。
なんと『究極級』だというのだ。
俺は『波動鑑定』してみる……
おお……確かに『究極級』だ。
名称が……『魔盾 千手盾』となっている。
店長さんの話では、先代が半ば研究のような感じで取り組んでいたらしいが、全く機能が発動しなかったようだ。
盾から無数の手が出てきて、相手を攻撃する機能があると言われているそうだ。
事実、俺の『波動鑑定』でもそのような内容が表示されている。
ところがそれが全く発動しないらしい。
過去の英雄譚の中にも、似たような機能の盾が出てくる事から、その盾ではないかと熱心に研究していたようだ。
ただ、全く発動する気配も無く、晩年は研究もやめてしまったとの事だ。
『鑑定』スキルを持った者の鑑定で、『究極級』である事は確定していたので捨てなかったらしい。
何代も前から、家宝のように所有していたものだそうだ。
早速使ってみたかったが、魔力調整が上手く出来ない俺が使うと危険なので、持ち帰る事にした。
他の武器についても、ゆっくり見る時間が無かったのでまとめて『波動収納』に回収した。
もちろん、魔法カバンに入れる体で行ったが、それでも二人は驚いていた。
二階は事務所と個別商談室以外は、ほとんど使っていなかったらしい。
何か有効活用する方法があると良いのだが……
まぁそれは後で考えるとして、俺は一つだけ方針を伝えた。
ここの武具を犯罪に使われると嫌なので、身元の定かでは無い怪しい者には売らないという方針だ。
全てのお客さんを正確に判断する事は出来ないが、少なくとも明らかに怪しい風態の者には売らないように指示したのだ。
それから回復薬については、今後もここでの販売を継続する事にした。
本来は『フェアリー薬局』で販売しているので、ここで売る必要は無い。
だが武具を買いに来たお客さんにとっては、ここで買えた方が便利なはずだ。
いわゆる“ワンストップサービス”というやつだ。
今後は『フェアリー薬局』で作った物を販売すれば、競合するわけじゃないから問題ないだろう。
もっとも店長さんからは、元々仕入れていた薬師達が困るかもしれないと指摘されたので、その薬師達を切り捨てないで協力してもらう体制を作る事にした。いわゆる協力業者さんみたいな感じだね。
薬師達に連絡をとって『フェアリー薬局』に集まるように段取ってもらった。
今後は『フェアリー薬局』に納めてもらう形にしようと思う。
それをこの店に回す事にする。
『フェアリー薬局』の店長であるハーリーさんに、品質管理をしてもらう為だ。
後でハーリーさんに連絡して、上手く体制を作ってもらおうと思っている。
街の薬師さん達が協力してくれたら、商品の幅が広がると思う。
特定の商品については薬師さん達にお願いすれば、ハーリーさん達は他の商品に時間が充てられる。
その方が健康食品を含めた新商品の開発時間が作れるしね。
薬師さん達の生活も守り、こちらの効率も良くなる……一石二鳥な気がしてきた。
いいじゃないか! これは思わぬ収穫だった!
俺は最後に、下町にある鍛冶工房を訪れた。
職人さんは、全部で五人だ。
親方が五十代、その下に四十代が二人、三十代が二人いる。
それぞれカジン、ナイーフ、ホーチョ、ナーベ、ヤカーン、という名前だった。
みんな無口で無骨な職人という感じで、日焼けした筋骨隆々の人達だった。
今後も継続した商品作りをお願いするとともに、どでかい鍋の試作を依頼した。
大人数に振る舞う為の炊き出し用だ。
今後広めたい炊飯釜についても、試作を依頼した。
みんな目を輝かせて、引き受けてくれた。
この鍛治工房は、鍛造がメインだが一部鋳造製品も作れるようだ。
老舗だっただけに、かなり優秀なようだ。
今後が楽しみだ。
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