160.面接と、再雇用。
俺は朝からサーヤの家に一人でこもっている。
昨日、代官さんから報告を受けた落札物件の活用について考えているのだ。
他のメンバーはというと……
ニアとリンをはじめとした人型以外のメンバーは、大森林に遊びに行っている。
今日は戦闘訓練の後に、大きな湖に遊びに行くと言っていた。
それからミルキーをリーダーに、ユッキー、ワッキー、リリイ、チャッピーは昨日に引き続き農場作りを行っている。
『フェアリー牧場』の方は、経験者の牧場三人娘だけで通常運営は問題ないようだ。
ミルキーによれば、すごくいい子達ですっかり仲良くなり意思疎通がバッチリなのだそうだ。
楽しそうに話していた。
新しく作る『フェアリー農場』も、彼女達のような人材が発掘できれば良いのだが……。
ミルキーには、密かに人材を見極めるように頼んである。
そしてアッキーは、ソーセージ工場に行っている。
ソーセージ工場も雇用した十人で通常運営できているようだ。
みんな真面目でよく働くし、作業も慣れたので常に監督している必要は無いそうだ。
ただ現時点では、リーダー向きの人材はいないようだ。
アッキーはまだ成人していないが、気付きの能力が高いし積極的に動いてくれている。
人材が育成できるまでは、少し大変かもしれないがアッキーをリーダーにするのもありかもしれない。
あまり負担をかけたくないが、本人も気にかけているようだし勉強になると思うんだよね。
サーヤは所用があると言って出かけている。
昨日のサーヤの報告では、俺が落札した屋敷の店舗の使用人達に問題のある人はいなかったようだ。
先代から仕えていた人が多く、どちらかというと忠誠心が強く、我慢強い人達のようだ。
悪徳貴族の悪評判からすれば、働き続けていたのは確かに忍耐力があるよね。
悪事に加担していたような素行の悪い者もいなかったようだ。
人間性に問題無いなら、経験や知識が豊富な従業員は願ってもない人材といえる。
家具調度品販売店と食品販売店は、そのまま事業継続した方が良いという結論に達した。
元々食品販売店は、牧場製品の販売窓口として機能するので継続するつもりだったが、家具調度品販売店も雇用を守る為に継続することにした。
問題は……あのどでかい屋敷とその使用人達だ……。
それをさっきからずっと考えているのだ。
しばらく考えたが……いい案は思い浮かばなかった。
「ただいま戻りました」
おお、サーヤが戻って来たようだ。
「サーヤ、あの屋敷の使い道がないんだけど、何かアイデアはあるかい? 」
「はい……旦那様のお屋敷として使うのが良いと思いますが……」
サーヤは一瞬、俺の質問の意図を計りかねたような表情をしたが、微笑みながら答えた。
どうもサーヤの中には問題意識は無かったらしい。
俺の屋敷とするのが当然と思っていたようだ。
「でもこの家があるし、ここで十分だと思うんだよね 。ナーナだってその方がいいだろうし……」
「もちろんそうです。私もこの家自身であるナーナも、ここで暮らすのが一番だと考えています」
「だったら…… 」
「ただ、旦那様はこれから貴族になられます。貴族として屋敷を構えた方が良いと思うのです」
全然考えてなかった……
そういうものかなぁ……
そう言われてみれば、貴族が自分の屋敷が無いっていうのは不自然かもしれない。
でも……
「それはそうかもしれないけど、ハイド男爵だって個人の屋敷を持っていなかったようだし、守護の館を屋敷にすればいいんじゃないかな……」
「もちろん正式に守護になれば、守護の館に住む事は可能です。しかしながら、それとは別に屋敷を持つことも問題ないと思います。将来、誰かに守護職を交代した後の事を考えても、一貴族としての屋敷はあった方がいいかと存じます」
なるほど……
まぁそういう考え方もあるよね。
「仮に俺の屋敷にするとしても、実際には住まないと思うから執事やメイド達の仕事がないと思うんだよね」
「旦那様、魔法の使えない一般の人にとっては、あの屋敷はかなりの大きさです。普通に維持管理するだけでも、今の人数でギリギリと思います。金銭的に問題がなければ、維持管理だけでも良いかと思います。料理人は他の仕事に回した方が良いかもしれませんが……」
そうか……確かに魔法やスキルが使えるわけじゃないから、あれだけ大きな屋敷を綺麗に維持管理するだけで相当な手間だよね。
「サーヤの言う通りかもしれないね。維持管理だけして、いずれ良い使い道も思いつくかもしれないし…… 」
「そうですね。当面は必要ないと思いますが、場合によっては『フェアリー商会』の本部として使うのも良いかもしれません。商会が大きくなれば、本部機能をどこかに置く必要があるでしょうから」
なるほど……本社的なものね。
邸宅が事務所っていうのもピンとこないけど……
まぁ選択肢の一つとしては入れておこう。
これ以上考えてもしょうがないから、良い使い道が閃くのを待つことにしよう。
◇
サーヤに誘われて、落札した屋敷やお店を見て回ることにした。
サーヤの手配で、使用人達が待機しているようだ。
まずは屋敷だ。
改めて見ると……本当に大きく立派な屋敷だ。
こんな大豪邸……元の世界では入ったことなどない。
本館の一階には、巨大な広間もある。
ダンスパーティーでも開けそうだ……。
二階には個室がいくつもあるようだ。
別館は、お客様の宿泊や歓待場所なのだろう。
別館も二階建てになってる。
本館も別館も守護の館ほどではないが、それに近い位の大きさがあるようだ。
そして使用人達の住んでいる寄宿舎もかなりの建坪だ。
おそらく最盛期には相当な数の使用人を雇っていたのだろう。
質素な作りだが、しっかりした建物だ。
庭園も色とりどりの花が咲き乱れ、細かなところまで管理が行き届いている印象だ。
厩舎スペースも結構広く、現在二頭の馬車馬がいるが十頭以上賄える広さだ。
確かにこれだけの屋敷を維持するには、人手は必要だろう
俺は一通りの確認を終了し、サーヤが待機させていた使用人達を呼んだ。
「私は執事しておりますバンジェスと申します」
この屋敷の実務を取り仕切っている執事が大仰に挨拶をする。
少し緊張しているようだ。
スラッと背の高い白髪の混じった初老の男性だ。
50代半ばといったところだろうか。
「メイドのメイダと申します」
「メイドのイドルナと申します」
「メイドのドメイと申します」
メイドの三人の女性は二十歳ぐらいに見える。
素朴なかわいい感じの子達だ。
「料理人のチョリスタです」
「料理人のリョリンです」
料理人の女性は二人とも四十代ぐらいだろう。
一人は痩せ型で、もう一人は少しふっくらしている。
「下僕のゲボルグです」
「下僕のボクニールです」
下僕の一人は五十代、もう一人は三十代半ばのようだ。
二人ともがっちりとした筋肉質な男性だ。
みんな事前にサーヤから言われていたようで、名前だけを名乗る簡潔な自己紹介だった。
確かに見た感じ……問題がありそうな人はいないようだ。
サーヤの話では、使用人が主人の嫌忌に触れ解雇されたり、嫌気がさして辞めたりして、ここしばらくはこの人数でギリギリやっていたようだ。
おまけに代替わりしてからの悪評で、新しい使用人も中々採用出来なかったようだ。
セクハラもあったようで、最近雇用した三人の若いメイド達は、 三人一緒の行動を基本にしていたようだ。
そして何かにつけ執事のバンジェスさんが守っていたようだ。
屋敷の事だけでなく商売の実務もバンジェスさんが切り盛りしていたようで、悪徳商人も簡単にはクビに出来なかったようだ。
俺は使用人達に挨拶をし、全員を再雇用する旨の話をした。
当面屋敷には住まない事を伝え、執事のバンジェスさんとメイド三人娘で屋敷の維持管理をするように指示した。
またバンジェスさんは商売の取りまとめもしていたので、その点についても引き続き担当してもらうことにした。
下僕の二人には今まで通り、庭園の維持管理と馬達の世話をするように指示した。
ただ何も生産性が無いのも、もったいない気がしたので、庭の美観を損なわない種類の薬草の栽培と果樹の植え付けも指示した。
一画に薬草園を作ってもいいかもしれないね。
馬達は、使用人の買い物ぐらいしか活躍の場が無いので、商会の配送などを手伝うように指示した。
荷馬車が必要なら俺の『波動収納』の大量ストックから出そうと思ったが、豪華な馬車とは別に荷物運搬用の馬車があるとの事だった。
そして料理人の二人には、特別にやってもらいたい事があるので、それをやってもらうことにした。
パンを焼いてもらおうと思っている。
どうもこの世界のパンがイマイチなんだよね……
もうちょっと柔らかくて、ふっくらしたパンが食べたい。
少し考えていることもあるし……。
ということで、今後はパン作りに励んでもらおうと思っている。
目指せ! ふっくらふわふわパン!
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次話の投稿は、29日の予定です。
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