155.魔法の、巻物。
俺は日の出とともに、大森林の迷宮前広場を訪れていた。
目的は二つ。
一つは、『フェアリー薬局』で使う薬草を霊域の代行者『ドライアド』のフラニーから受け取る為だ。
昨日の時点で、薬局で雇用したハーリーさんから当面必要な薬草を聞いていたので、フラニーに連絡して採取してもらっていたのだ。
霊域にフラニーが作ってくれた薬草畑には、ほとんどの種類の薬草があるからね。
また使用頻度の高い薬草が十種類あるそうで、それについてはフラニーに苗を用意してもらった。
この使用頻度の高い十種類については、マグネの街に薬草園を作って栽培しようと考えている。
避難民の仮設住宅を建てる為に購入した、アーチ外壁の内側のスペースの北西の角にあたる場所を空けてある。
丁度、サーヤの家の西にあたる部分を仮設住宅を建てずに残してあったのだ。
サーヤの所有する土地と続きになるので、将来何かに使えると思っていたからだ。
そこを薬草園にしようと思う。
ある程度日の当たる場所もあるので、日当りを好む薬草も植えられる。
日陰になる場所は、日陰を好むものが四種類あるのでそれを植える予定だ。
かなりの面積があるので、『フェアリー薬局』で使う分ぐらいはそこで賄えそうな感じである。
大森林に来たもう一つの目的は、昨日購入した『魔法の巻物』を使ってみたかったからだ。
なんかワクワクする!
俺は迷宮前広場から少し離れたスペースに移動して、早速『魔法の巻物』を使ってみることにした。
まずは土魔法系の巻物『土壁瞬造』。
これは土壁を瞬時に作るもので、戦闘の時の防御壁として使うらしい。
俺は前方の壁を設置したいと思う場所に巻物を向けて、巻物に書いてある発動真言を唱える。
「出でよ! 土の守り!」
———ズズズズズウンッ
え、………………
やばい……なんか……どデカイ壁ができてしまった……。
戦闘で使うどころじゃない……
都市の外壁として使えそうな程、分厚く高い壁だ。
高さ十メートル、横幅十メートル、厚さ五メートル位ありそうだ。
なるべく魔力を絞ったつもりなのだが……
やはりまだ魔力操作が上手く出来ないようだ。
試しに、一緒に来ていたミルキーに巻物を使ってみてもらった。
すると高さ二メートル、横幅二メートル、厚さ一メートル位の戦闘陣地を形成するのに適度なサイズの土壁が現れた。
どうやらこのぐらいが基本仕様らしい。
戦うのに丁度良いサイズだ。
刑事ドラマだったら銃撃戦するのにちょうどいいやつだ。
遠距離攻撃する時の防御陣地にするのが良さそうだ。
ということで、弓がメイン武器のミルキーに、この巻物を預けることにした。
もう一つの巻物は氷魔法系の『氷槍発射』だ。
攻撃用の氷の槍が出せるらしい。
これも試しにサーヤに使ってもらった。
先程、ミルキーが作った土壁に向けてサーヤが巻物をかざす。
そしてコマンドワードを唱える。
「貫け! 氷の槍! 」
ズオンッ———
———バウンッ
氷でできた鋭い槍が巻物から飛び出し、土壁に突き刺さった。
かなりの威力のようだ。
俺も使ってみたかったのだが、超どデカイ氷が出てきても困るので自重した。
この巻物はサーヤに預けることにした。
中距離攻撃手段として使えるだろう。
もちろんこれらの巻物も『波動複写』出来るので、紛失や破損に備えて当然のごとく四セットコピーした。
この二つの巻物はいずれも階級が『上級』で、かなり魔力を持っていかれたが俺のケタ外れの魔力では大した影響では無い。
決して魔力の無駄遣いではないのだ……いざという時の為の備えなのだ……。
そしてこの魔法の巻物で思い出したが、『テスター迷宮』の第一宝物庫で手に入れた『魔法の巻物』が三つあった。
俺はその三つも出してみる。
いずれも階級は、『極上級』だ。
そしてやはり繰り返し使えるリユースタイプのようだ。
光魔法系『聖なる光の雨』———アンデッドに特効。コマンドワード「清めよ! 光の雨」
闇魔法系『暗闇の空間』———効果範囲を暗闇状態にし視界を奪う。コマンドワード「閉ざせ! 闇の天幕」
空間魔法系『不可視の牢獄』———効果範囲を空間断絶結界で覆い、対象を閉じ込める。コマンドワード「捕らえよ! 断絶空間」
中々に強力な巻物のようだ。
特にアンデッドに特効がある巻物は、アンデッド戦ではすごい効果がありそうだ。
これらの巻物は、使用する局面がかなり限られるようなので、俺が持っておくことにした。
今日来た目的は果たしたのだが、せっかく来たので、栽培中のカボチャの様子を確認した。
霊域と大森林に植えたカボチャは、種を播いてからもうすぐ一ヵ月が経過する。
通常なら収穫まで三〜四ヶ月かかるが、俺の『促成栽培』スキルの効果で成長が三倍になっている。
したがって、そろそろ収穫できるものがあるはずだ。
確認すると、やはり実が大分大きくなっていた。
元の世界でよく食べていた、いわゆる西洋カボチャといわれる種類の一般的なカボチャに思われる。
色も濃い緑で一般的だ。
だが大きさが……俺が思っていたカボチャよりも二倍から三倍位大きい。
そして数が凄い!
もはや数えられそうにない。
『一粒万倍』スキルの効果で、最終的には本当に一万個位になるかもしれない。
今の時点でも、おそらく一株に千個は付いていると思う。
霊域と大森林とサーヤの敷地に三株づつ植えてある。
本当に一万個付くなら、全部で九万個になる計算だが……
……多すぎて想像が出来ないので、考えるのをやめた。
避難民達に配給するのに良いので、収穫できそうなものを収穫することにした。
俺は仲間達にカボチャの収穫の目安を伝える。
この西洋カボチャに類するカボチャは、ヘタの状態で収穫適期を判断するのだ。
ヘタの所がみずみずしい緑から、少し枯れたような感じのコルク状になったら採り頃なのだ。
コルク状になったヘタの見本を見せて、同じものを探して収穫するように伝えた。
「見つけたのだ。大きなの採って来たのだ! 」
リリイが良い笑顔で、自分の顔よりも大きなカボチャを抱えて持って来た。
普通の子なら絶対持てない重さだが、レベルが上がったリリイの筋力では全く問題ないようだ。
「チャッピーも採って来たなの! 二つなの〜」
チャッピーは、リリイより小ぶりだが、それでも大分大きいカボチャを両脇に抱えて持って来た。
すごく嬉しそうな顔している。
やっぱり収穫って楽しいよね。
子供達の喜んでる顔も最高だ!
今日は朝一で来ているので、ここ数日ソーセージ工場の立ち上げで頑張ってくれている、ミルキーと妹弟達も一緒に来ている。
みんなで楽しく収穫した。
今日収穫出来たものだけでも三百を超えた。
残りもまたすぐに収穫適期になるだろう。
そして俺達は霊域にも移動して、同様に収穫出来るカボチャを収穫した。
二箇所合わせて約七百個の収穫があった。
ちなみにサーヤの敷地に植えているカボチャは、ここよりも少し遅く種播きしたので、まだ収穫出来ない。
だが、数日経てば収穫出来るものが出てくるはずだ。
霊域や大森林は予定していた栽培スペースより遥かに大きく広がっても、広いのであまり問題にならないが、サーヤの敷地のカボチャは、他の野菜を植えようと思っていたスペースをかなり侵食している。
まぁしょうがないね。
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