152.本屋で、掘り出し物。
翌日俺達は、元トルコーネさんの宿屋でこれから薬屋『フェアリー薬局』を始める予定のお店にいた。
みんなでお店の内装などを作っているところだ。
ちなみにトルコーネさんの新しい宿屋『フェアリー亭』は本日も大繁盛のようだ。
そして早速サーヤが、昨日言っていた領都の下町の薬屋で働いていたという女性を連れてきた。
二十代後半の落ち着いた感じの女性だ。
色白スレンダーで、茶髪のソバージュみたいな感じの巻き毛の女性だ。
「ハーリーと申します。よろしくお願いします」
サーヤの見立てだし、全く問題ないと思う。
即日雇用し、早速働いてもらうことにした。
一緒にオープン準備をしてもらうことにしたのだ。
何か必要な物がないか尋ねると、薬作りに使う小道具一式とできれば薬草辞典などのような本が欲しいと言われた。
ハーリーさんは逃げる時の混乱で、持ち出した製薬の道具や、愛用していた本等を失くしてしまったとの事だ。
そこで午後からトルコーネさんに教えてもらったこの街で一番大きな本屋さんに、買い物に行くことにした。
ちなみにお昼ご飯は、みんなでトルコーネさんの『フェアリー亭』で食べた。
もちろんハーリーさんをトルコーネさん達に紹介する為である。
◇
街をゆっくり観光したり、お店を見てみたいと思っていたが、一連の騒動で全くそれが出来なかった。
馬車に乗ってると、パレードみたいになっちゃっていたからね。
ということで、今回は馬車を使わずみんなで歩いてのんびりとお店に行くことにした。
メインの中央通りを南に下って、南門に近づいたところの左側つまり東側の一本奥に入ったところにあるお店だ。
店構えは古い感じだが、それなりに広いお店だ。
店内に入ると……
本棚がびっしり並んでいる。
結構な品数があるようだ。
この世界は、識字率が高くないようだが、本屋さんだけで成り立つのだろうか……。
だが、俺のそんな疑問はすぐに解消された。
装丁のしっかりとした本は、一冊の値段がかなり高い。
安い物でも金貨一枚つまり一万ゴル……日本円にしたら一万円程度……で、十万ゴルの本もざらにあるようだ。
仕入れ値がどのぐらいなのかわからないが、これなら月に数冊売れただけでも、十分に成り立つのではないだろうか。
お店に一緒に来ているのは、ニアとリリイとチャッピーそしてハーリーさんだ。
ちなみに買い物なので、魔法カバン状態でシチミも同行している。
サーヤやミルキー達は、稼働したてのソーセージ工場の方に行っている。
ちなみにミルキーとその妹弟達やリリイとチャッピーには、サーヤとナーナが先生となって、毎日読み書きを教えているところだ。
だから俺の仲間の中で、普通に読み書きが出来るのは俺と、ニア、サーヤ、ナーナだけなのである。
リリイは、お婆さんが読み書きが出来たらしく、習っていたようで少しは読み書きができる。
ニアは、リリイとチャッピーの為に、子供向けの本を見繕ってくれているようだ。
そして俺は……
心ウキウキで本を物色している!
見るもの全て欲しくなってしまう……。
出来る事ならお店にある本を全部、大人買いしてしまいたいくらいだ……。
薬草関係、魔法関係、この国の歴史、伝説逸話、様々な分野の本がある。
ただニア曰く、掘り出し物と言えるような本は見当たらないようだ。
本の虫である彼女にとっては、平凡な品揃えのようだ。
俺はハーリーさんに、遠慮しなくていいので欲しい本を全て選ぶように言った。
そして今回購入した本は……
『薬草辞典 簡易版』
『薬草・野草の生育特性と採取場所の特性』
『薬草の採取と保存の基礎』
『調合薬の基礎』
『魔法薬精製の基礎 初級編』
『下級回復薬の作り方』
『下級回復薬の精製レシピ 厳選三十例』
これらの薬関係の本以外に、魔法関係や歴史関係の本や子供向けの本などを購入した。
その数は三十冊以上になった。ちなみにこれでも結構絞ったのだ。
店主は優しそうな白髪のお婆さんで、購入する本の数に驚いていたが、近くに飛んで来たニアを見て、すぐに妖精女神の一行とわかったようだ。
「まぁ、妖精女神様、それにお連れ様方、街を救っていただき本当にありがとうございました。私は店主のブリーと申します。お礼の意味を込めてお値引きさせていただきますよ」
店主の老婦人は、見た目通りの優しい声で微笑みながらそう言ってくれた。
「いいのよ、お婆ちゃん、ちゃんと利益を取らなきゃ暮らしていけないでしょう。私達は大丈夫だから無理に値引きなんかしなくていいわよ。ねえ、グリム? 」
ニアがそう言いながら俺を見る。
「ええ、その通りです。表示通りの値段で構いませんよ」
「そういうわけには参りません。せめてもの私の気持ちです。お値引きさせてもらいます。それから……もしよろしければ……普通ではお売りしない特別なものなのですが、皆様方なら亡き夫も許してくれるでしょう。少しお待ち下さい」
そういうとブリーさんは、奥の方にそそくさと行ってしまった。
「これは亡き主人が手に入れたもので、本に値する特別な人にしか売らないと言って、ずっと持っていたものなのです」
戻ってきたブリーさんはそう言いながら、分厚い装丁の本を一冊と巻物を二つ持ってきてくれた。
巻物はどうも魔法の巻物らしい。
本は、『秘伝! 魔法の巻物の作り方 初級編』というタイトルだ。
魔法の巻物の作り方なんて……凄いそそられる! ワクワクする!
ブリーさんの話によると、かなり古い本で入手困難な特別な本らしい。
街を救ってくれた俺達になら売ってもいいと言うことのようだ。
通常は五十万ゴル以上出しても手に入らないが、三十万ゴルで販売してくれるとの事だ。
そして魔法の巻物も特別らしく、何度でも使える巻物ということだった。
最初ピンとこなかったが、ニアによると、魔法の巻物は、一回使ったら終わりの使い切りタイプと何回でも使えるリユースタイプがあるが、リユースタイプは作製に特別な技術が必要でほとんど出回らない貴重な物らしい。
巻物の内容は『土壁瞬造』と『氷槍発射』で、防御用の土壁の製造と攻撃用の氷の槍が出せるらしい。
二つ合わせて攻防で使えるようだ。
ブリーさんによれば、これも通常五十万ゴル以上するようだが、三十万ゴルにしてくれるそうだ。
繰り返し使う巻物は、かなり高額なようだ。
ブリーさんがぼったくっているようには見えないし、ニアも購入を勧めてくれたので、三つとも購入することにした。
ブリーさんは、先程の三十数冊の本も値引きしてくれて、全て合わせて、百五十万ゴルぴったりにしてくれた。
大分お金を使ったけど、当初の目的の薬草関係の本もしっかり買えたし、普通では手に入らない掘り出し物も購入出来たので大満足だ。
「リリイちゃん、チャッピーちゃん、これお婆ちゃんからプレゼントよ」
ブリーさんが腰をかがめ、二人の視線の高さに合わせながら何かを差し出した。
「ブリーおばあちゃん、ありがとなのだ。大事にするなのだ! 」
「ブリーおばあちゃん、ありがとうなの。チャッピー嬉しいなの〜、大好きなの! 」
二人は屈託のない笑みで、ブリーさんに抱きついた。
「まぁ、とっても嬉しいわ。また遊びに来てね、二人とも」
「わかったなのだ。また来るなのだ」
「チャッピーもまた来るなの〜」
「今度はお菓子を用意して待ってるわね」
「「わーい! 」」
リリイとチャッピーは、ブリーさんとすっかり仲良くなったようだ。
ちなみに二人が貰っていたのは、字を覚える為の簡単な冊子のようなものだった。
ブリーさんの手作りらしい。
以前、近所の子供達に読み書きを教えていたそうで、その時に使っていた教材のようだ。
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