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148.白衣男の、呟き。

3人称視点です。

 とある一室


 白衣の男が一人で、ぶつぶつ自問している。


「“爪の”よ、なぜお前は出て行かないのだ! 」


(そう慌てるな。まだ時期では無いのだよ)


「ふざけるな! 怨念は十分に溜まった。お前の分も取ってあるではないか! それを使えば、我が身体から出て上級になれる。そう言っていたではないか! )


(あーそうだ。だが状況が変わった。迂闊な事はできんよ。貴様も見ただろう。目の前で『剣の上級悪魔』がやられたのだぞ! 下級ではない、上級だぞ! それを一撃で倒す者がいるのだ……)


「臆したか? 」


(なんとでも言え、我が上級になったとて同様にやられる可能性があるのだ。それでもいいのか? 『上級悪魔』になれば、強い魔力が漏れ出して居所を探られるやもしれぬ。ここがバレてはまずいだろう? お前はいつでも我が上級になれるように、常に『怨念珠』を肌身離さず持っていろ! )


「勝手なこと……」


(しかしこれからどうする……貴様の願いは、ほぼ叶ったようなものだろう。あの領の貴族はみんな死んだぞ。領民も半数以上死んだはずだ)


「あーそうだ。邪魔が入らなければ、ほんとに根絶やしにしたはずだったのに、あのクソ女とその娘達が残ってしまった……」


(それがいかほどのものか……女子供が一匹や二匹残っただけではないか…… )


「うるさい! お前に分かるものか! ……まだ終わりではない……」


(ならどうするんだ? また悪魔を召喚するか? 俺が使う分を差し引いても、残りの『怨念珠』で中級なら三体、下級ならかなりの数が召喚できるぞ。以前のように長い年月をかけずとも、即座に召喚できるぞ! )


「とにかく情報が必要だ…… あの人族の男……あやつが上級をやったのか定かではないが、かなりの使い手なのは確かだ。転移の魔法道具がなければ、やられていたかもしれない」


(やはりしばらく様子を見るしかないではないか……我のことを笑えんな……)


「あーそうだな……。あの憎きピグシード辺境伯は死んだ。我が一族を蔑んだ愚かな貴族共も皆死んだ。あのクソ女と娘共の事は、後の楽しみとするか……。しばらく静観し、あの男の情報を探りたいところだが……派手に動くわけにはいかぬな……」


 (ああそうだ。ゆっくり考えればいいではないか。時間はたっぷりあるのだ。我が同化している間は歳を取らぬぞ。どうだ、これでも出て欲しいか? )


「ふん、今暫くだけ我慢してやるわ」


(ワハハハハ、それがいいだろう。しばしの間は、使い魔から得られる情報で我慢するのだな。使い魔の数を増やせば、あの男の情報もそれなりに拾えるのではないか……)


「そうだな……。使い魔を増やそう。

 それにどうも例の組織が活発に動いているようだ。何やら、きな臭いことになっている……。

 面白い事が起きるかもしれんぞ。

 そうだ! 面白いことを考えついた。二十年前、俺が作った秘密結社……あれをもう一度作っても面白いかもしれんなぁ……これだけ人が死んでいれば……闇に落ちる者も増える……ククク……」


(ふん、やっといつもの調子が戻ってきたようだな。面白いのではないか。

 それにあの組織もまんざら馬鹿にできんぞ。『操蛇の矢』を作ったのも奴らなのだろう? ところであと何本残ってるのだ? )


「もう五本しかないわ。それに蛇魔物限定とはいえ魔物を操る技術など、あの組織に作れると思うのか? 大方どこかで盗んだか、遺跡で発掘した過去の遺物だろう」


(奴らは、他にも持っているのか? )


「おそらくな。我々が奪ったのは全てでは無いようだ。自由に動ければ、すぐにでも残りを奪うのだがな……口惜しい…… 」


 (では『支配の首輪』は、あといくつ残っているのだ? )


「それも三つしかないわ。量産計画が完全に頓挫したからな。もっとも、ここに隠れているようでは、『支配の首輪』を使う対象となる強力な魔物を手に入れることも出来ぬがな。まさに宝の持ち腐れよ……」


(まぁ焦るな。今までも二十年かけたではないか。その二十年がなければここまでの成果は出ていないんだぞ)


「ふん、知ったようなことを! お前ら悪魔とは時間の感覚が違うのだ!どれほどの二十年だったことか……」


 そういうと、白衣の男は持っていたティーカップを床に投げつけた。






 ◇






 ピグシード辺境伯領、領城の会議室


「ユーフェミア姉様、本当に王都まで行かれるのですか? 」


 故辺境伯夫人のアンナが不安そうに視線を落とす。


「ああそうだ。今回の件は、魔法通信で済ませるというわけにはいかないだろう。我が弟を納得させて、周囲のうるさい貴族共を黙らせないといけないからね」


 ユーフェミア女公爵が、軽く首を振りながら忌々しそうに答える。


「本当に……私に姉様のように領主が務まるでしょうか? 」


「またその話かい。アンナ、弱気の虫を出しちゃダメだよ。お前なら出来るさ。今でこそ立派な領主夫人だが、若い頃は相当なお転婆だったじゃないか! 」


「嫌ですわ姉様、そんな昔の話を……それに私のお転婆など、姉様には及びもつきませんもの」


「ハハハハハハ、まぁそうかもしれないが、アンナも相当なお転婆だったと思うけどな。思うようにやったらいいさ。今まで守ってきたこのピグシード辺境伯領、そしてピグシード辺境伯家、私達で守るんだよ! 」


「はい、姉様」


「しばらくはシャリアをここに残す。そのうちユリアも来るはずだ。私は王都でこの件をまとめたら、一旦、セイバーン領に戻る。そしたらミリアも連れて来るよ。あの子にもいい勉強になるだろうし」


「本当にすみません。姉様のところも大変でしょうに……」


「なあに……多少の事ではぐらつかないように、いつも軍や文官を鍛えてるんだ。下賎な犯罪組織が暴れてる位じゃびくともしないさ」


 ユーフェミア公爵が心配する必要は無いとニヤリと笑う。


「姉様、本当に領民を三つの市町に集めることで良かったのでしょうか? みんな住み慣れた土地を離れ動いてくれるでしょうか? 」


「そうさね……まぁすぐに全員というわけにいかないだろうけど……。完全な強制はしない方がいい」


「残るものは放っておけと…… 」


「やむを得ないね、人には命よりも大事なものがある。そういう人々に強制はできないさ……。

 それにしてもこの三つに絞る案には、驚いたね。とても思い浮かばなかったよ。

 だが提案されてみれば、これ以上に良い案は無い。どうせボロボロなんだ、まとめてしまうのが理にかなっている。そうしておけば、何かあっても守れる可能性が増える。もし今のままで犯罪組織にでも動き出されたら…… 何も出来なかっただろうからね」


「そうですね……。よく考えればニア様やグリムさんがいなければ私や娘達の命もありませんでした。領民ももっと多く命を落としていたことでしょう」


「アンナは……グリムのことをどう思う? 」


「どうといいますと? 」


「あいつは……得体が知れない……。もちろん悪い人間でないことはわかっている。何か……凄味というかなんというか……そんな風には見せていないが、あいつはかなりの強者さ。それでいて嘘みたいな善意の塊だ。なんとも不思議な男だ……」


「そうですわね。本当に初代様の伝説を彷彿とさせるような無欲な方のように見えます」


「ああ、ほんとだよ……。貴族の爵位をぶら下げられて、全く興味を示さないどころか、頑なに固辞するんだからね。本当はもっと上の爵位にしたかったんだがね……」


「まぁでも、姉様のお陰でこの領の貴族になってくれましたし、爵位は後からいくらでも上げれますわ」


「おお、やっとお前らしくなってきたじゃないか。その通りさ。ところでソフィアをあいつに嫁がせたらどうだい? というよりあいつが婿としてピグシード家に入ってくれるのが一番だろう……」


「そうですが……グリムさんの先日の様子では喜んで受けてくれるとも思えません。……何より娘達には、本当に好きになった人と結婚してもらいたいのです」


「ハハハ、甘いね。今どき貴族でそんなことを言うやつはお前と私ぐらいだな、ハハハハハ……。お互い惚れた男に嫁いだからね……」


「そうですね。ただあの子が、グリムさんを好きになる可能性は十分あると思ってます」


「ほほう……それは楽しみだね。母親にはわかるってわけだね。あんたの娘達が上手く射止めなきゃ、うちの娘達の誰かがあいつをモノにするかもしれないよ。少なくともシャリアは……あの子のあんな感じ……今まで見たことないからね……。まぁ大方、本人も気づいてないだろうけどね。それこそ母親にはわかるってやつだよ」


「ふふふ、今後が楽しみですわね」


「ああ、そうだね。それからアンナ、グリムとニア様は、できるだけ自由にさせてやりな。自由にさせた方が結果的に、この領の為になってくれるよ。私にはわかる……」


「そうですね。私もそう思っております。問題はいつまでこの領にとどまってくれるかですね……」


「まったくだ……お前もわかってるね……」


「まぁ考えてもしょうがないですわね。それよりも私は、姉様に負けない領主になるように頑張りますわ。ピグシード女辺境伯として……亡くなったあの人の為にも……」


「ああ、そうだな。では行ってくるよ。アンナ」


「はい。いってらっしゃいませ、お姉様」


 女辺境伯となる決意を新たにしたアンナは、敬愛する義姉を力強く送り出したのだった。






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次話の投稿は、17日の予定です。


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