140.復興会議、続く。
「 二号牧場の件は、ありがたいお話なので一応お受けいたします。私の方で牧場新設の計画を立てます。ただ領都にもナンネの街にも、元々牧場荘園を担当していた村はあったはずです。そこは元通り牧場を担当する村として復興をさせてください。それとは別に、私の方で牧場をできるようにします」
俺は一応ユーフェミア公爵とアンナ夫人の厚意を受けつつも、将来のことも考え領所属の村としての牧場も復活させた方が良いと思ったのだ。
「そうかい……あんた欲が無いね。独占すれば将来に渡ってどれほど稼げるか……。まぁそれは良しとして、荘園としての牧場も復活させるとなると、それほどの家畜が残っているかどうか……」
ユーフェミア公爵があきれ顔を俺に向けた後、腕組みした。
「そうですね。その問題はあると思います。今、各市町に残っている家畜は荘園牧場の方に当ててください。私の方は独自に調達してみます。マグネの街に来たように、逃げ出している家畜がまだいるかもしれません。探して見ます」
「そんなことができるのかい? ……まぁ、あんた達なら出来るか……どうせまたニア様のすごい技が出るんだろうよ……」
そう言ってニヤけるユーフェミア公爵には、何か含みがあるんだよね……。
なんとなく見透かされてるような気がして怖い……。
「あと、仕事をどうするかですね。これはマグネの街でも同じなんですが、大きな問題だと思います」
「そうさねー、それが一番問題さ。まずは生き残りの人達の仕事歴等を調査するしかないね。それでバランスを考えないとね。マグネの街では、もう避難民の詳細の調査を行っていたようだが……考えてることがあるんだろう。もったいぶらないで、話しな」
ユーフェミア公爵が、また悪戯な視線を俺に向ける。
「そうですね。私もまだ考え中で確定しているわけでは無いのですが、特定の職業をする人が多く、過剰だと商売は成り立ちません。思い切った調整が必要だと思います。
ただ今までと違う仕事を始める人には、それなりの支援が必要になると思うんですよね。職業紹介や職業訓練をする場所が必要でしょう。
もしくは最初は行政が運営して、軌道に乗ったら民営化する形にした方がいいかもしれません。
お金を持って逃げれた人の方が少ないはずですから。
これは今考えついた事なんですが、新しく始める商売・事業については、荘園と同じように行政が行う。つまり領運営にした方がスムーズかもしれませんね」
俺も考えが纏まっていたわけでは無いのだが、現時点で思い付いている事を正直に話した。
「なるほど……これはまた突飛な考えだね。領で商売を運営してしまうってことかい。それは面白いが……荘園など農業関係ならいざ知らず、商売を領が運営するって言っても、そんな人材はいないね……」
ユーフェミア公爵が表情を曇らせる。
「既存の商人を顧問にして、協力してもらってはどうでしょう。それなりの見返りを与えれば協力してくれるんじゃないかと思いますが……」
「商人というのは、利にあざといからね。見返りが難しいね。自分と競合するような事に本気で協力するような酔狂な奴はあんたぐらいさ。……そうだ! あんたも商人じゃないか! あんた、商会を作ってないのかい? 」
さらに表情を曇らせながら話していたユーフェミア公爵が、途中で悪い笑みを作る。
「はい、前にお話しした通り、魔物に襲われて一部記憶がないので、以前どうだったかはわからないのですが、今のところは商会を作っておりません」
商会を作るか……会社を作るってことだよね……
考えてもみなかったなぁ……。
「商会を作って、あんたが先頭に立ったらどうだい? この領を救った英雄であるあんたが商会を作って、領の顧問として協力するなら、商人達もある程度協力してくれるかもしれないね。
……いや違うな! ………あんたが幅広く事業を起こせばいい。もちろん領として全面的に支援する。
総合商会を作って、あんたがやれそうな事業は人を雇ってやればいい。あんたがやれない事業は領の直営でやる。
これは、あんたにとっても利益を得るチャンスだ。もっとも、あんたは商人なのに利権に執着してないようだけどね。
牧場だってマグネの街じゃ、あんたが人を雇用するっていう噂で、希望者が既に殺到してるそうじゃないか。あんたが作る商会なら皆が働きたがる。周りの者もみんな協力するさね。
あんたの手に余るけど、どうしてもやらなきゃいけない事業は領が運営する。
それで行こうじゃないか。その方がシンプルさ。
もうここまできたら、全部あんたにおんぶに抱っこだ!
どうせ、あんただって仕事は誰かに丸投げするんだろう?
ニア様の話っぷりじゃあ、あんた他にも色々やってるようだけど、その割に自由だし、全部丸投げだろう。
商会もやっちゃいな! 」
ワオ………出た! ……なにそれ……?
ユーフェミア公爵が完全にぶっ飛んじゃった!
それやけくそ状態でしょ……
そしてニアみたいな感じになってきてる……
鋭く真実もついているし……微妙。
なんか俺ってば……完全に利用されまくってるし……。
巻き込まれ放題なんですけど……
この流れ……逆らえない感じなんだよね……流れに身を任せるしかないのだろうか……。
そう思いつつ、いつも安請け合いを助長するにニアの方に視線を向けると……
悪い笑みを浮かべている……
そして俺と目があった瞬間———
「もうやっちゃうしかないでしょ! 」
出たよ!
やっぱそうなるわけね……。
丸投げするような人がいればいいけど……
マグネの街の牧場はサーヤに丸投げしちゃったけど……
サーヤだってこれ以上はきついよね……。
「商会の設立自体は構わないのですが、私がどの程度できるかは自分でもわかりませんので……」
「いいよ。できる範囲で。基本的には領主導でやれるように、もう一工夫考えるつもりだから……」
俺の弱気な返事に、かぶせるようにユーフェミア公爵は言葉を続けた。
そんな感じで……商会を設立して新規事業も考えるが、どこまで出来るかは約束できないという俺の都合に合わせた緩い内容で了承してもらった。
まぁできる範囲でやるしかないしね……。
そんな感じで、何とか長かった会議を終わることができた。
それにしても、商会設立か……
どんな事業やろうかなぁ……少しだけ楽しみになってきた。
もうすっかり日が暮れていた。
リリイとチャッピーは、アンナ夫人の長女ソフィアちゃん、次女タニアちゃんと遊んでいたようだが、遊び疲れて寝てしまったようだ。
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