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136.公爵令嬢と、お食事。

 俺達は、『フェアリー牧場』に作られている避難民キャンプで夕食をとっている。


 なぜか、セイバーン公爵家長女のシャリア嬢も一緒だ。


 もう日が暮れてきたので、彼女もここに泊まることになったのだ。


 ただ公爵家の令嬢を宿泊させるような場所は、当然ながら無い。


 この牧場に俺用に作ったログハウスに泊まってもらうことにした。


 これは仮設住宅として使っているのと全く同じ2LDKサイズだ。


 それにしても……前回も思ったが公爵家の令嬢がたった一人で行動して良いのだろうか……。

 家臣が手を焼くお転婆令嬢のパターンに違いない……。


 今、彼女は楽しそうに食事中だ。


「サーヤさん、アンナ姉様から聞いております。二十年前にこの領を救っていただいた大恩人とのこと。私からも感謝いたします」


「いえ、いいのよ……。身分が違うかもしれないけど、私やこの子達とも仲良くしてくださいね」


「はい、もちろんです。サーヤさんは妖精族、私の身分など比べるべくもありません。それにセイバーン公爵家では、身分をわきまえる事は大事でも、身分で人を見下すなと教えられています。私の方こそ仲良くしてください」


 シャリアさんはそう言って、他の子達にも気さくに接してくれている。


 話を聞く限りセイバーン公爵家は、俺的には好感が持てる。


「ミルキーです。よ、よろしくお願いします」


 いくらシャリアさんが気さくでも、さすがに大貴族相手ではミルキーも緊張するようだ。


「ミルキーちゃん、大丈夫。緊張しなくていいわよ。友達になりましょう。普段通りの話し方でいいわよ」


「でも……公爵家の方に……」


「いいのよ、気にしないで。もし文句を言う者がいても、妖精女神様の友人であるあなた達に文句は言わせませんわ。アッキーちゃん、ユッキーちゃん、ワッキー君も仲良くしてね」


「はい。よろしくお願いします」

「はい。お願いします」

「はい、よ、よろしくシャス」


 やはりアッキー、ユッキーも緊張しているようだ。ワッキーは完全に噛んじゃってるね。


「お姉ちゃんは、偉い人なのだ? 」


 リリイが、物怖じせずにシャリアさんに話しかけている。


「そうねぇ……偉いというか…… 人々を助けたりする立場にいるってだけよ。貴族というのは本来そうあるべきだし…… 」


「そうなのか、ならリリイと同じなのだ。リリイも人々を助けるのだ。魔物をやっつけちゃうのだ! 」


「チャッピーもやっつけちゃうなの。弱い人を助けてあげるなの〜」


 少し引っ込み思案のチャッピーも、リリイのお陰で話に入れているようだ。


「そう、二人とも偉いわね。魔物を倒せるように、頑張って強くならなきゃね」


「リリイはもう強いのだ。魔物だって何十匹も倒しちゃったのだ。蛇魔物だってゴチンしちゃったのだ」


「チャッピーも強いなの。ブーメランで切っちゃうなの〜」


「へーそうなんだー……それはすごいわね」


 シャリアさんは、完全に子供の憧れだと思って信じていないようだ……優しく受け流してくれているような感じだ。


「シャリアちゃん、信じてないでしょう。この子達ほんとに強いんだから。下手したらあなたより強いかもしれないわよ」


 ニアがイタズラな顔でシャリアさんにそう告げる。


 まさかな顔で子供達を見回すシャリアさん……


「お姉ちゃん強いのだ? リリイ達と一緒に訓練するのだ! 」


「チャッピーも一緒にする! 」


「そうね。じゃー明日の朝にでも一緒にやろうか」


「やったーなのだ! 」

「やったーなの! 」

「ぼ、ぼくも一緒にやりちゃい! 」


 大喜びのリリイとチャッピーにワッキーも追従した。やっぱり噛んでるけど……残念。


 シャリアさんの気さくな人柄のお陰で、子供達はすっかり打ち解けたようだ。


「お姉ちゃん、あの飛竜さん見てみたいのだ」

「チャッピーも見たいのなの」


「いいわよ、じゃあちょっとだけ見に行こうか、名前はレディアス、珍しい赤の飛竜なのよ」


 そう言って、みんなを飛竜の所に連れて行ってくれた。



 俺達は、そんな感じでワイワイ夕食を楽しんだ。


 シャリアさんは高貴な身分なのに、気さくに積極的に話してくれるので、早くもみんなと打ち解けた感じだった。


 ただ普段寄ってくる避難民や、衛兵隊のみんな、衛兵長も、今日だけは来なかった。


 やはり公爵家の令嬢となると近寄りがたいよね……。


 俺も美人というだけで話しづらいのに、公爵令嬢なんていう身分付きでは、何を話していいかもわからず空気のようにしていた。


 ただ酔いが回ったからなのか、最後に俺の方に来て質問攻めにしてきた。


「あなた、一体何者なの? どうしてニア様の友達なわけ? どのぐらい強いわけ? ……………」


 矢継ぎ早に、色々質問され、なかなかに大変だった。


 一応、今まで普通に説明してきたような内容、ストーリーを説明した。


 テイマーで旅の行商人だったらしいが、魔物に襲われ一部記憶を失った。そこをニアに助けられたというお決まりのストーリーだ。


 ただ、さすが公爵令嬢、俺のお決まりのストーリーを聞いて、かなり訝しげな顔で俺を見つめていた。

 微妙に信じていないようだ。


 ただ、ほんとに助かるのは一部記憶喪失で大概の事は誤魔化せるし、不自然な活躍も“妖精女神の御業”で誤魔化せるのでなんとかなるのだ。


 そんな感じでシャリアさんの質問という追求の時間をなんとか凌ぎ切った。


 そのうち子供達が寝てしまったので、お開きにして就寝することにした。


 一応、俺の家となっているログハウス型仮設住宅で、シャリアさんと、ニア、サーヤ、ミルキー、アッキー、ユッキー、リリイ、チャッピーの女性陣で寝てもらった。


 俺とワッキー君は、広場で野宿することにした。


 リリイとチャッピーには一緒に寝たいと言われたのだが……さすがに公爵令嬢と一つ屋根の下というわけにはいかないので、我慢してもらった。





  ◇





 翌朝、シャリアさんがマグネの街の様子を見たいと言い出したので、マグネの街まで案内することになった。


 といっても、シャリアさんは飛竜なので一緒に行くわけではない。


 馬車だと飛ばしても普通半日位かかる距離があるので、俺達の『家馬車』が先行して、シャリアさんは後からゆっくり飛竜で来てもらうことにした。


 それまでは、この避難民キャンプやオリ村等を見学してもらうことにした。


 その案内は衛兵長とクレアさんにお願いした。


 といっても衛兵長は泣きそうな顔でガチガチに緊張していた。

 結果、実質クレアさんが案内役となっていた。


 クレアさんも最初は緊張していたようだが、シャリアさんの気さくな人柄に触れ、なんとか話ができているようだった。


 あの二人が並ぶと……美女すぎて……普通の男は気後れして、全く話すことができないと思う。


 俺のような小市民は、完全に遠巻きに見ることしかできない……というか見ることもできない……残念。

 目の保養すらできないということだ……トホホ。





  ◇





 俺達がマグネの街について南門の辺りで待っていると、飛竜に乗ってシャリアさんが到着した。


 南門から入ったすぐの左右に、アーチ状の外壁に沿って、避難民の為に俺が設置した仮設住宅が並んでいる。

 正確には、右側つまり東側には、南門の衛兵詰所、衛兵宿舎、訓練スペースがあるので、そこから奥のエリアから仮設住宅が始まるのだ。

 左側つまり西側には、特に何の施設も無いので、門を入ってすぐから仮設住宅のエリアが始まっている。

 もっとも中央通りに面した場所は、大きな広場になっているので、その奥から仮設住宅が始まっている。


 これを見てシャリアさんは驚いていた。


 牧場の避難民キャンプと同様の作りなので、すぐに避難民用の仮設住宅である事はわかったらしい。


 数に圧倒されたようだ。


 少し中の様子を見たいということで、避難民達の慰問のような形になった。


 シャリアさんは、この領の貴族ではなく、隣領のセイバーン公爵家の人間であるが、セイバーン公爵家は有名で、この領でも人気があるようだ。


 皆ひれ伏すようにして、訪問に感謝していた。


 そこにニアも一緒にいたから、やはり拝むような感じになってしまっていた。


 シャリアさんは俺達が牧場を発った後に、クレアさんの案内で避難民キャンプの人達に生活の実情などを尋ねていたようだ。

 その暮らしぶりに、かなり驚いていたようだ。


 皆喜んでくれているし、以前の暮らしぶりよりもむしろ良いという人も結構多いからね。


 ただ……今は緊急避難的に食料も提供しているが、いつまでも続けるわけにはいかないので、この避難民達の仕事や生活をどうにかしなければいけないという課題を伝えた。



 そんなこんなでお昼近くなったので、少し早い昼食を取る為に、シャリアさんをトルコーネさんの宿屋に案内した。


 事前に連れて行くと言ってあったので、もう料理はできているようだ。


 トルコーネさん達がめちゃめちゃ緊張している。


 ……ガチガチだ。

 そりゃそうだよね。

 公爵令嬢だもんね……。


 貴族令嬢を連れてきちゃって迷惑だったかもしれないが、俺が美味しいと思うものを食べさせてあげたかったんだよね。


 ネコルさんの『牛のとろとろシチュー』は本当においしいし、サーヤの『ソーセージ』も絶品だからね。

 それから『卵焼き』もネコルさんが相当練習して腕を上げたらしいから。


 この三つは看板メニューにする予定なので、是非食べてもらいたかったのだ。


 もちろん、それ以外の料理もネコルさんが用意してくれている。


「わー、美味しい! ……この柔らかさ……ネコルさんのシチューは絶品ですわね。お城の食事でもこんな美味しいものは食べられないわ」


「き、気に入っていただけて……こ、光栄です……」


 ネコルさんも大分緊張している。


 そしてトルコーネさんは、空気と化している……固まっているね。

 汗だけがダラダラ流れている。

 その感じわかります……。


「なに! このソーセージ! こんな美味しいソーセージがあるの? 」


 シャリアさんがサーヤのソーセージに感動している。


「こ、このピリ辛味が特にオススメです」


 最初は緊張していたロネちゃんだったが、リリイとチャッピーが親しげにしているのを見て、がんばって話しかけたようだ。


「まぁ、甘い! ……この甘いオムレツは何なのですの! ああ……美味ですわ……」


 なんかシャリアさんが涙ぐんでいる。


「それはグリムさんが教えてくれた料理なんです。私も初めて食べた時は、涙が出るほど感動しました」


 ネコルさんがそう告げて、俺を持ち上げてくれた。


「あ、あなたは……こんな料理まで作れるなんて……ほ、本当に何者ですの? …… 人族ですわよね……? 」


「もちろんです。私はただのテイマーで商人ですから」


 そう答えたのだが……


 またも訝しげに見られてしまった。


 ……笑って誤魔化した。


 まぁ、喜んでくれたようなので、何よりだ。


 それにしてもトルコーネさん……ほんとに固まってる。

 引きつった笑顔のまま、汗だけが流れている…… 本当に一言も発してない……。


 そんな感じで、しばらく楽しい昼食の時間を過ごしたのだった。





読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

評価していただいた方、本当にありがとうございます。

誤字報告していただいた方、ありがとうございました。助かりました。今後ともご指導願います。

よろしくお願いします。


次話の投稿は、9日の予定です。


もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。

よろしくお願いします。

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