135.公爵令嬢、再び。
俺は、ポテ村から牧場に戻ってきていた。
ちなみに牧場は、ニアさんの命名で『フェアリー牧場』という名前になっている。
街道から見て東側にあるヤギと牛の放牧エリアの奥に、ジャガイモ畑を作ろうと思う。
今は人海戦術で、草刈り中だ。
この後、一旦地面を起こしてジャガイモの芽を挿す予定だ。
ただ、ジャガイモ栽培では、丁寧に土を耕す必要は無い。
一回だけ起こせれば良いだろう。
本当は手間のかからない『不耕起栽培』でもいけそうな気がしたが、雑草の根を一回取ってしまいたかったので、耕すことにしたのだ。
そこで俺は、牛達を使って耕すことにした。
レントンに頼んで、牛に引かせる用の大きな鋤を作ってもらった。
土に刺さる部分が八カ所、つまり鋤が八列並んだ横長の構造になっている。
牛が引くと、その尖った鋤が土を掘り起こすというわけである。一種のトラクターだ。
このパーツを何個か作ってもらった。
雄牛達を横に並ばせて、一斉に引かせれば、あっという間に耕せるのだ。
雄牛達は乳が出ないので、今後トラクターとして頑張ってもらおうと思っている。
◇
牛トラクターの威力は絶大で、夕方にはもうジャガイモ用の面積を耕し終わっていた。
手伝ってくれた人達も驚いていた。
この感じなら時間をかけずに、畑が作れそうだ。
避難民達の胃袋を支える為にも、もっと植え付けを増やしたいなぁ……。
明日の朝一で、ポテ村に芽かきに行った後、ベジ村を訪問し分けて貰える苗や種がないか訊いてみよう。
◇
翌朝、俺はマグネの街から数えて一番目のベジ村を訪れた。
衛兵のクレアさんと代官さんも一緒だ。
ちなみに代官さんは、衛兵長と一緒で名前で呼ぶ事はほとんどないのだが、名前をダイリンさんと言う。
トルコーネさんや衛兵長と同じ四十代位の、いかにもお役人といった真面目な感じの人だ。
最近一緒に絡むことが増えてきた……。
今回も、俺が牧場に畑を作って、避難民達の食べ物を作ろうとしていることを知って、協力する為に来てくれたのだ。
代官さんとクレアさんの口添えで、できるだけ余っている種や苗を分けて貰おうということらしい。
ちなみにポテ村には、ここに来る前に寄ってジャガイモの芽かき作業の段取りを済ませて来た。
今サーヤが監督して、手伝いの避難民達がやってくれている。
ベジ村の村長さんと村人達に挨拶した後、栽培状況を見せてもらった。
ここベジ村では、多くの種類の野菜を栽培している。
マグネの街に近いこともあって、街で流通している生鮮野菜は、ほぼこの村で栽培したものらしい。
まさに街の台所といった感じだ。
栽培されている作物は、何種類もある。
暑い時期でも育つ葉菜、おそらく小松菜の一種だろう。
カブも通年に近い形で栽培されているようだ。
夏野菜のナス、トマト、ピーマン、キュウリなどは一通りあるらしい。
こちらの世界でも、俺が好きな野菜が一通りあって少しほっとした。
ただ、どれも代々作り続けられ固定化された品種のようで、俺が食べていたような洗練されたものではない。
少しごつい野生的な品種のようだ。
トマトなどの果菜類といわれる実がなる野菜は、春に植えて枯れるまでずっと収穫が続くので、一回収穫して終わる葉物野菜よりも効率が良い。
できれば、トマトやキュウリなどの苗や種子を分けてもらえると良いのだが……
代官さんがうまく話してくれて、避難民の救済の為という理由もあり、快く分けてくれることになった。
余ってる苗全てと、備蓄している種を半分貰えることになった。
色々な種類の野菜の種があって、めっちゃワクワクしてしまった。
◇
午後からは昨日同様、牧場で畑作りと、貰った苗の植え付け、種播きなどを行った。
おそらく、俺が植えているものについては、成長が三倍になると思うが、これも、“妖精女神の御業”ということで誤魔化すことにしよう。
ちなみに霊域と大森林に植えたカボチャは、種播きから十五日位経っているが、すでに花をつけていた。
通常であれば、まだ苗の状態の大きさのはずが、旺盛に生育し子蔓孫蔓と広がり花がいっぱい付いていたのだ。
ほんとに三倍の速度で成長しているようだ。
そして実もすごい数になりそうだ。
最終的に、本当に一万個位になるかもしれない。
ちなみにサーヤの敷地に作った畑のカボチャは、霊域や大森林より四日遅く種播きしているので、成長が遅れている。
それでもかなりの成長で、三倍速で成長しているのは間違いない。
予定していた栽培面積よりも、かなり広がりそうだ。
まだ種が残っているので、この牧場にも播こうかと思ったのだが……
今植わっているだけでも、すごい数採れそうなので見送った。
他の種類を植えた方が良いだろう。
畑の作業終えて、避難民キャンプエリアに帰ってくると、突然動物達が騒ぎ出した。
大きな羽音がする……
空を見上げると———
———飛竜が近づいてくる!
あの飛竜はもしかして……
俺は動物達を念話で落ち着かせる。
飛竜は、街道のど真ん中に舞い降りた。
やはり乗っているのは、公爵令嬢のシャリアさんだった。
「やはりあなた……ここに居たのね。もう戻ってきてるなんて……なぜ領都に戻ってこないのかしら? 」
飛竜の背から颯爽と飛び降りたシャリアさんは、綺麗な金髪をかき上げながら問い詰めるような視線を俺に向けた。
そしてそのまま近づいてきた。
か、顔が近すぎるんですけど……。
「あの……領都に戻るお約束はしてなかったと思うのですが……。この町の避難民の事が心配でここに戻って来たのです……」
衛兵長や周りの衛兵達も飛び出してきた。
「私は隣領のセイバーン公爵家長女シャリア=セイバーンと申します。領主夫人のアンナ様よりの書状を持って参りました」
そう名乗ると、書状の内容を説明してくれた。
それによると……
この街を守った事と、避難民達の受け入れに対する労いの言葉が書いてあった。
そして守護のハイド男爵が起こそうとしていた騒乱や、その後悪魔化して死亡した報告を受けて、当面代官に街の全権を委ねる旨通達されていた。
実質上代官が守護代理として、全てを取り仕切る権限を得たということになるようだ。
そして衛兵長がお伺いを立てていたようだが、捕縛した盗賊達の処遇について、領都復興の人足とするべく引き取りたいとの事だった。
その件を含めて、夫人より依頼されたセイバーン公爵軍の一部隊が、引き取りを兼ねてマグネの街に向かっているらしい。
「ニア様、そしてグリムさん、改めてお礼を言いますわ。すべての都市、街を魔物から解放していただき、感謝いたします。アンナ姉様からも呉々も御礼をと言われております」
シャリアさんが改めて俺達に対して、貴族の礼で感謝を述べてくれた。
「いいのよ別に。やれることをやっただけよ。それより復興の方が大変でしょう。どうするつもりなの? 」
ニアの質問に、シャリアさんは言い淀んでしまった。
「やはり領全域での混乱ですから、すぐの復興は難しいのでしょうね」
俺がそう言うと、シャリアさんは神妙な顔で首肯した。
「詳しい調査で分かったことですが、この領の貴族で生き残っているのは、本当にお姉様達だけだったのです。各都市や町の役所も破壊されて、役人達もほとんど生き残っていないのです。復興しようにも指揮を取る者が全然足りない状況です」
なるほど……そういうことか。
それはそうだよね……
新しい人材を発掘するにしても混乱状態だからね……。
「それからもう一つ、ニア様、グリムさんにお願いがあるのです。もう一度領都に来て欲しいのです」
「何かあったの? また魔物? 」
ニアが慌てて尋ねると、シャリアさんは首を横に振った。
「いえ、この領内の復興についても、知恵とお力を貸していただきたいとのアンナ姉様の願いなのです」
「そんなこと言われても、別に私達に何ができるわけじゃないでしょ? 」
ニアが腑に落ちない様子で両手を上げる。
「いえ、このマグネの街の避難民の受け入れの話はすでに領都にも届いています。その見事な手腕を発揮したのは、ニア様とグリムさんということも聞き及んでおります。それに何よりもこの領にとっては、ニア様の存在は、初代様の伝説を彷彿とさせる象徴的なものなのです。この傷ついた領内、領民を元気づけられるのは、ニア様の存在をおいて他にありません」
「あたしの存在が……」
「はい、妖精女神様とその相棒の凄腕テイマー、そして女神の使徒達の活躍は領内に轟いているのです。今や皆さんの活躍や存在が希望の光とも言えるのです」
そう言うとシャリアさんは、なぜだか少し自慢げにふんすと胸を張った。
俺はニアと顔を見合わせ、苦笑いするしかなかった……。
はてさて……どうしたものか……
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