1420.危険な馬車と、狂った馬。
一番奥に控えて全く動きがなかった馬車が動き出した。
しかも五台に増殖してだ。
……何か嫌な感じがする。
『危機察知』スキルが訴えているようだ。
だが確かめるにも……いや、確かめたらダメなのかもしれない。
俺は予感めいたものを感じ、みんなのところを離れ、『闇の掃除人』装備に着替えた。
そして『隠れ蓑のローブ』を発動し、姿と気配を消す。
近づいてくる馬車に姿を消したまま近づいた。
様子を窺うが、やはり嫌な感じだ。
『波動検知』をかけるが、人が乗っている気配は無い。
ただ、どんな異常があるのかはわからない。
何かの隠蔽機能が働いているのかもしれない。
そこで俺は、五台の馬車全てをロックオンし、一気に『波動収納』で回収した。
すると、突然馬車が消え驚いた馬が加速して走り去った。
馬車は問題なく収納できた。
危険なものを『波動収納』に回収するのは危ない気もするが、今までの経験則上回収できてしまえば、その状態を維持するので大丈夫だろうと判断した。
そして、やはり『波動収納』に回収して正解だったようだ。
『波動収納』の管理画面で確認すると、馬車五台と魔導爆弾五個となっている。
魔導爆弾を搭載していたようだ。
おそらく『ツリーハウスクラン』でのテロに使ったものと同じものだろう。
『マシマグナ第四帝国』の遺跡でドラッグン子爵が見つけたものと同じだ。
宰相の手にも渡っていたようだ。
ドラッグン子爵に『催眠』をかけて情報を聞き出したときに、もう少し詳しく訊いていれば良かった。
今更だが。
まぁ反省は後だ。
実際問題、すべての出来事を想定して聞き出すなんて事はできないしね。
起動状態になっていたわけだが、『波動収納』は回収時点の状態を保存するから問題ない。
もし何か解除の方法がわかれば、『波動収納』から出して解除を試みてもいいが、ダメなら安全なところに出して爆発させてしまえばいい。
敵への攻撃手段にしてもいいしね。
今の俺の行動は、普通の人にはわからないだろう。
『絆』メンバーであるトワイライトさんやタマルさんたちはわかるだろうが、ムーンリバー伯爵は突然馬車が消えて馬だけが走って来ているので、唖然としている。
俺は、すぐに外壁の上に戻って、一緒に驚いた感じの声を上げた。
我ながら、まあまあの演技力だ。
まぁそれはともかく……あれ……馬たちの様子がおかしい。
四頭引きの馬車だったので、五台分で計二十頭の馬が駆けて来ているのだが、様子がおかしくなっている。
急に狂乱したような感じになっている。
まるであの呪いの強化薬を飲んだゴロツキたちの時みたいだ。
と言うか、飲ませたのか!?
……動物にも効くのか?
それはともかく、薬を仕込まれていて今効いたのか?
このままだと壁に激突するかもしれないな。
と思ったのだが、大丈夫だった。
突然この一帯に雨が降った。
これは、『水使い』のアクアリアさんの『水魔法——清めの雨』だ。
さっきと同じようにアメンボ型虫馬『アシタカ』のメンボウに搭載した魔法道具を使って、増幅して降らしてくれたようだ。
『ツリーハウスクラン』で待機しているはずなんだけど……異変を察知してきてくれたようだ。
他の人は気づいてないが、空中にメンボウがいる。
背中にアクアリアさんと『水龍』のタツコちゃんを乗せている。
そしてメンボウは着地して、すぐに移動してしまった。
一瞬の助太刀ってことだね。
いい仕事をしてくれた。
馬たちは狂乱状態が解けて、激突する手前で方向を変えた。
この馬たちは、『月兎』の霊獣ピーターが仲間にしてくると俺に念話を入れて、追いかけていった。
突然ピーターが追いかけて行ったので、ムーンラビーさんが一瞬驚いていたが、俺の顔を見て納得したかのような含み笑いをして頷いた。
なんとなくピーターのやろうとしていることを理解したのだろう。
魔導爆弾積みの馬車と狂乱した馬も、瞬時に片付けた俺たちだが、一息つく暇はなかった。
今度は、空中を滑るように一人の男が北門前にやって来た。
宰相だった。
しかも宙に浮いて移動しているのだ。
「ガハハ、随分と楽しませてもらったぞ。
だが……今日のところは、これぐらいでいいだろう。
ムーンリバー伯爵よ、そして公女と勇者を語る愚か者どもよ、それから仮面の勇者ども、救国の英雄シンオベロンとその一味、お前たちに告ぐ!
五日、五日やろう!
五日のうちに、『公都アルテミナ』に攻めてこい!
五日後に公都民の虐殺を始める!
少し予定とは違うが……この国の民で怨念を刈り取らせてもらうことにした!
貴様らのせいだぞ!
バカめ!
ガハハハハ」
そう言うと宰相の表面というか、肌が弾け飛んだ。
げっ……そして悪魔が現れた。
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