1411.最初の、被験者。
『アルテミス』様のアイディアは、俺の血を与えて悪魔因子を消滅させ、隷属支配から脱却させると言うものだった。
そしてそれはおそらく、『聖血鬼』『聖血生物』のような新たな『種族』を誕生させる可能性が高い。
「なるほど、私の血を飲ませてみて、その作用に賭けるということですね。
ただそれだと、少し問題があるような気がします。
まぁ実際やってみないと、上手くいかわからないわけですが、仮に上手く行ったとして、違う『種族』になってしまいます。
そして、おそらく不死になり生き続けなければならない可能性が高いです。
それを望まない人もいるのではないでしょうか?」
「そうね、あなたの血を飲むことでどんな反応が出るかは、やってみないとわからない。
ただ、死んだ人間が生き返るとは思えないし、普通のゾンビ状態でいるとも思えない。
あなたが言う通り、別の『種族』になる可能性が高いわね」
「そなると、それを望まない人もいるのではないでしょうか。
今の悪魔に支配された状態では、意思確認をする術がないですが……」
「そうなのよ。悩みどころよね。
まぁ新種族になったとしても、種族毎に特性が違うから、不死身になるかどうかはわからないけどね。
ほぼ寿命で死ぬことがないと言うだけで、外部的な衝撃では死ぬ可能性もあるし。
そうなったら、当然魂が体を離れ輪廻の輪に戻れるわ。
まぁだからと言って、殺したり自殺させたりするのは微妙だけどね。
もしどうしても生き続けるのが嫌で成仏したいという人がいたら、私が何とかしてみるわ。
悪魔因子が排除されて、あなたの血で浄化された状態なら何とかできる可能性が高いから」
おお、『アルテミス』様が何とかできるかもしれないのか。
それなら、やっちゃってもいいかな……。
それにしても……そんな約束して大丈夫なのかな?
後で他の神様から怒られないのだろうか?
まぁ俺が考えてもしょうがないか。
『アルテミス』様が約束してくれたおかげで、俺の心理的な負担が減っているのは確かだ。
意思確認をしないまま無理矢理新しい『種族』に変えてしまって、かつ昇天して輪廻の輪に戻ることもできなくする可能性が高い。
だが、『アルテミス』様のおかげでその心配がなくなったわけだから、ここは思い切ってやってみるか。
「グリムさん……私の父と母を最初にお願いします。
どうなるか分かりませんが、亜人の村を束ねる『バディード村』の村長として、父ならば自分で試すように言うと思います」
俺と『アルテミス』様の話を聞いていたタマルさんが、そう申し出てくれた。
「いいのですか?」
「はい、お願いします」
タマルさんはそう返事をすると、『箱庭ファーム』から真っ黒に固定されたゾンビを二体出した。
お父さんとお母さんなのだろう。
回収したときに、わかるようにしていたようだ。
ただこの状態では、血を飲ませられない。
『神聖魔法——新月の闇』の効果時間は、一時間程度と言っていたが……どうするか?
「ああ、この状態はムーンラビーちゃんの代わりに、私が解除してあげるわね」
『アルテミス』様がそう言って指を鳴らすと、黒の包帯が一瞬で消えた。
拘束を解かれたタマルさんのお父さんとお母さんのゾンビは、戦闘態勢になり襲いかかってきたが、目に涙を浮かべているような気がする。
そして動きが極端に鈍い。
悪魔による支配に抵抗しているのかもしれない。
俺は、まずタマルさんのお父さんをぐっと押さえつけて、『波動収納』から俺の血の入った瓶を取り出し、それを無理矢理飲ませた。
続いてお母さんにも同様に飲ませた。
俺の血の入った瓶は、新たな吸血鬼や吸血生物が現れた場合に備えて、『波動収納』に大量にストックしてあるのだ。
まぁ無くなっても『波動複写』でコピーできるから、無理にストックする必要もないのだが、いざと言う時に即座に使うにはこのほうが楽なのだ。
それでも、改めて考えると『波動複写』は非常に便利だ。
毎回自分から無理矢理血を採取する必要が無いからね。
痛い思いをしなくて済むし、面倒くささも省ける。
実際自分から血を抜くのは、結構面倒くさい。
『限界突破ステータス』の大変なところである。
無意識に警戒しちゃうと、刃物が通らないんだよね。
リラックスした状態で『限界突破ステータス』を発揮しない状態にしないと、傷つけて血を取ることができないのだ。
『限界突破ステータス』による防御力とかは最大出力のようなもので、普段は一般の人とそれほど変わらない。
だから理論的には、俺も血を流すことはある。
ただ普通に生活する中で何か危険なことがあれば、反射的にガードする感じになるので、そこで最大出力が発揮され大きな傷を負う事はないのだ。
まぁ多少傷ついても、超回復力ですぐ治っちゃうしね。
おっと、そんなことをちょっと考えてる間に、変化が始まった……。
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