1407.チャッピーの、叫び。
クラン周辺には、他にも応援メンバーがいた。
それは、『フェアリー商会』幹部でこの国出身の元冒険者サリイさんとジェーンさんだ。
サリイさんは、リリイの母方の伯母でもある。
彼女たちも、本来はもう少し後で登場する予定だったが、ローレルさんと一緒に来てしまったようだ。
はやる心を抑えられなかったのだろう。
まあ、しょうがないか。
彼女たちにも、状況に応じて転移の魔法道具を使って応援に来ていいと伝えてあったからね。
サリイさんとジェーンさんも、ここのところの特訓でレベルを上げている。
その甲斐もあって、『魔物人』をものともせずに戦っている。
ローレルさん達と同等の戦いをしているから、もし冒険者を続けていたらBランク相当にはなっているということだ。
まぁローレルさん達もサリーさん達も、『絆』メンバーになっているから『共有スキル』も使えて、それだけで大幅に戦力アップしているから、Bランク以上の実力と言ってもいいかもしれないけどね。
彼女たちは、リリイの件を打ち明けてくれたときに『絆』メンバーになってもらった。
その後研鑽を積んでくれて、当時よりもはるかに実力をつけているのだ。
『魔物人』は、この強力なメンバーたちが相手をしてくれているので、他の冒険者メンバーは『獣インプ』『獣ジャキ』の対処に専念できている。
また、クラン内に入り込んでくる『獣インプ』や、クランを囲む道にいる『獣ジャキ』なんかは、『デミトレント』たちがバンバン攻撃しているので、充分対応できている。
『魔物人』の到来に合わせて、何かに引き寄せられるように『獣インプ』『獣ジャキ』が増えているわけだが、今のところはクランに残っていた戦力と応援に来てくれた戦力で、充分対処できているね。
我が仲間ながらさすがだ。
そう思った時だ、迷宮都市の全戦場をモニターしているあのお方から念話が入った。
(オーナーオーナー、ちょっと新たな事態が発生したし。
北門に戻った方がいいかもだし!)
キンちゃんが念話を入れてきたという事は、その呑気な口調とは裏腹に、何か大事が起きそうなのだろう。
俺は急いでコマンドルームに転移で戻った。
仮面の勇者として活動していたニア、ミネちゃん、カジュルちゃんもほぼ同時に戻って来た。
「オーナー、新たな軍団が現れたし!
モニターもできるけど、北門の上に行って直接見たほうがいいかもだし!」
俺はキンちゃんの言葉に頷き、すぐに『コマンドルーム』を出て北門の上に移動した。
……確かに北門前の街道沿い、公国軍が当初陣取っていた辺りに、新たな戦闘集団が現れている。
もともといた『獣インプ』『獣ジャキ』は、ほぼ駆逐が終わっているので、新たに現れ行進してくる軍団の異様さがより目立っている。
不気味に街道をまっすぐに歩いて来る。
亜人の軍団なのか……?
(キンちゃん、これどこから来たかわかる?)
俺は念話で確認をした。
(急に現れたんだし。
たぶんだけど、『獣インプ』たちと同じように転移して来た感じだし)
やっぱりそうか……。
『獣インプ』たちが現れた時も魔法陣が現れて、一瞬で大群が出現した。
そして、間もなく魔法陣は消えてしまった。
だから破壊することはできなかった。
中区や南区での出現状況を見ても、同様と思われる。
増援のように数が一気に増えるときには、また新たな魔法陣が現れてすぐ消えるという感じだったのだろう。
どういう仕組みかわからないが、魔法陣を見つけて破壊するのは、現時点では難しい。
魔法陣を出現させている怪しい人物でもいれば良いのだが、今のところキンちゃんの監視網には引っかかっていない。
何かの媒体のようなものは必要だと思うのだが……。
もしかして、事前に仕込んであったのか?
もしくは、そんな能力を持った上級悪魔でもいるのか?
……まぁ今考えてもしょうがないか。
俺は、キンちゃんに引き続き全体の監視を強化するように指示し、何かわかったらすぐに連絡を入れてくるように頼んだ。
不気味に行進してくる軍団は、かなりの数だ。
五百人以上いるんじゃないだろうか?
これが公国軍の隠し球なんだろうか……?
みんな青ざめたというか……土色というか……血色の悪いまるで死体のような顔色だ。
いや待てよ……俺は『波動鑑定』する。
『種族』が……『悪魔死人』となっている。
『状態』には、『悪魔因子融合状態』『悪魔隷属状態』と表示される。
なんてことだ……。
ここにいる五百人以上の兵士たちは、人ではない。
死んで悪魔の操り人形状態になっているのだろう。
かなり亜人が多いが、普通の人族もいる。
以前『正義の爪痕』が作った『死人薬』でゾンビ状態になっていた『死人魔物』のように、体の一部が魔物化しているというわけではない。
もともとの姿を保っている。
そういう意味では、普通のゾンビ状態なんだろうが、悪魔因子が融合され強化されているのだろう。
その効果なのか、動き自体はしっかりしている感じだし、肉体も腐敗している感じはない。
ただ、ちぎれた腕を無理矢理くっつけたような感じの者もいる。
そして、彷徨歩くゾンビではなく統制されている。
悪魔隷属状態だからだろう。
個人の意識はなんとなくありそうだが、悪魔の支配が強くて、強制されているという雰囲気だ。
直感的なものでしかないがそんな風に感じるし、それが独特の雰囲気になって滲み出ている。
え、……あれはチャッピー……?
どうして!?
チャッピーが『月の輪の勇者』の勇者装備を解除し、俺が作った仮面も外し、いつものチャッピーの姿になって行進してくるゾンビたちのところに走っている。
……泣いているのか?
俺は、『聴力強化』スキルでチャッピーに集中する。
「お母ざぁぁん、お父ざん、おじいじゃぁぁん、おばあじゃぁぁぁ、うわぁぁぁ」
チャッピーが泣きながら、そう叫んでいた。
………………。
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