1392.伏兵は、『スライム』たち。
『獣インプ』と『獣ジャキ』はレベル40であり、普通に考えればかなりの強敵だ。
悪魔因子の効果もあって、通常の魔物のレベル40よりも強力で強いと予想される。
悪魔と思われる者が、こいつらをここで放ったのは、裏切った公国軍の兵士たちに制裁を加えるためだ。
実際そんなようなことを言っていた。
レベル40となると、部隊長クラスの兵士でもまともに戦うのは大変だ。
普通の兵士なら、小隊複数で挑んでも倒せない可能性が高い。
今回派遣された軍の幹部クラスは、ほとんど拘束されてしまっているので、残っているほとんどは一般兵士だ。
小隊長クラスの人間はそれなりにいると思うが、まともに相手をできる敵ではない。
更にまずいこともある。
それは、俺が兵士たちの武器を没収してしまっているということだ。
彼らは鎧こそ着ているが、ほぼ丸腰の状態に近い。
兵士のよっては、隠し武器などを持っているだろうが、非常に厳しい状況だ。
俺は、すぐに外壁の上から離れ、密かに『闇の掃除人』仕様に着替えた。
そして姿と気配を消し、街道の左右に大きく散らばっている兵士たちに奪った武器を戻した。
戻したと言っても、奪った本人に奪った武器を返すなんて事はできないから、ある程度の武器を纏めて、一定間隔で置いてきただけだ。
近くの武器を取って戦ってもらうしかない。
だが、実際のところは、この兵士たちにまともに戦わせるつもりはない。
かなりの損害が出るのは間違いないからね。
戦うための戦力は、別に用意してあるのだ。
まさか『獣インプ』と『獣ジャキ』が来るとは思っていなかったが、今までの経験から魔物の連鎖暴走のようなものを起こしてくる可能性は考えていた。
だから、そのための伏兵は配置してあるのだ。
俺は、その頼もしき仲間たちに念話を入れる。
俺が伏兵として配置していたのは……特殊な『スライム』たちだ。
俺が『スライム聖者』となったときに、特殊な儀式により進化した特別な『スライム』たちである。
普段は、人造迷宮である『セイチョウ迷宮』の防衛戦力として配備していたが、悪魔が再度襲ってくる事はなかった。
そして『セイチョウ迷宮』自体が付喪神となった今、自衛する能力が高まったので、必ずしも防衛力として特殊で強力な『スライム』たちを常駐させる必要もなくなった。
そこで俺は、『セイチョウ迷宮』に配置していた『オリハルコンロザリオスライム』と『ソーラースライム』をこの平原に伏兵として配置していたのだ。
ただし合体を解除して、それぞれ百八体の『スライム』の状態だ。
つまり『オリハルコンスライム』と『フロートスライム』それぞれ百八体の合計二百十六体が伏兵として潜んでいるのである。
もちろん合体していたほうが強いわけだが、それは強い敵が現れたときにやればいいだろう。
そして、分散させていたのが功を奏した。
この急な事態でも、兵士たちを守る戦力として広範囲に駆けつけることができるのだ。
俺は早速、兵士たちのところに散開し、守るように指示を出した。
合体状態ならほぼ無双と言えるくらい強いが、一体ずつになっても、かなり強いはずだ。
一撃で倒すことは、できないかもしれないが、充分戦えると思う。
兵士たちを一時的に守ることは、十分にできるだろう。
もっとも、『獣インプ』と『獣ジャキ』は一瞬にして大量発生しているから、二百十六体の『スライム』たちでは数的に心もとない。
何せ守る対象となる兵士たちは、九千人ぐらいいるのだから。
でもまぁ一時的に、凌ぐ分には何とかなるだろう。
兵士たちも素人じゃないからね。
自分の身を守るぐらいは、できるだろう。
そうしている間に、敵を倒していけばいい。
俺が一気に倒してしまうこともできるのだが……今回はできるだけ影に徹するつもりだ。
見せ場を作った方がいい人もいるしね。
それは、旗頭となっているトワイライトさんとタマルさんだ。
「兵士たちよ、よく聞きなさい!
近くに現れた武器を取って、戦闘態勢をとりなさい!
ただし無理をする必要はありません!
私とタマル、そして月の眷属とも言える『スライム』たちが、そなたたちを守ります!
無理をせず、防衛に徹するのです。
誰一人死ぬ事は許しません!」
トワイライトさんが、高らかに鼓舞するように呼びかけた。
そして、タマルさんとともに外壁から飛び降りて、戦いに向かった。
このような事態についても、あらかじめ打ち合わせをしていた。
『スライム』たちについて触れているのは、兵士たちから敵と間違われて攻撃されないためである。
まぁ実際は、多少攻撃を受けてもびくともしないんだけどね。
ちなみに、“月の眷属とも言える『スライム』たち”というのは完全なでっち上げだ。
適当に作ってしまったのだが、まぁいいだろう。
でも一般的な『スライム』はともかく、今戦っている『スライム』たちって、月の神殿の力で特殊なスライムになっているから、ある意味月の眷属と言ってもいいかもしれないんだよね。
まぁそれはともかく、恭順した兵士たちと投降した兵士たちは、トワイライトさんの話にしっかり反応し、それぞれ武器を構えた。
戦闘態勢を取ったので、一安心だ。
そして、トワイライトさんとタマルさんが敵に向かって駆けている姿は、めっちゃかっこいい!
まぁこんなことを思うのは、戦いの最中に不謹慎かもしれないけど。
思ってしまったものはしょうがない。しょうがないよね……?
二人は昨日イベント的に披露した『戦巫女発動状態』と『勇者武装状態』になっている。
一瞬で変身することもできるのだ。
まさに変身ヒロインのようなスタイルで、颯爽と駆けているのだから、かっこいいに決まっているのである!
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。
評価していただいた方、ありがとうございます。
誤字報告も、助かっています。ペコリ。
次話の投稿は、明日か明後日の予定です。
もしよろしければ、下の評価欄から『評価』をお願いします。励みになります。★★★★★
『ブックマーク』と『いいね』も、お願いします。
何卒、よろしくお願いします。




