127.白衣の男、探索。
翌朝、俺はフウと一緒に隣接する林の中にいた。
俺は『波動検知』、フウは『万物探索』のスキルを発動している。
実は領都を出発してから、場所を移る度に、二人で探し物をしているのだ。
何を探しているのかというと……
……あの白衣の男を探しているのだ。
最後の捨て台詞は『これでは終わらぬぞ』だった。
そして話を聞く限り、奴は二十年もかけて、この領を壊滅寸前に追い込むようなことを成し遂げた。
危険な男だ。
野放しにはできない。
各都市や街を回り犠牲になった人達の亡骸を見る度に、俺は心が切り刻まれる思いがした。
限界突破した気力のお陰で、何とか心の平安を保てていたが、それがなければ気が触れていただろう。
あいつを許すことはできないし、放置しておくことはできない。
次の犠牲者が出てしまうかもしれないからね。
そう思って、場所が変わる度にやっているのだが、やはり検知することができない。
俺は奴と直接対峙したので、ある程度やつの波動情報を記憶しているようで、検知自体はできるようだ。
だが、全く感じ取れない。
スキルレベルの上がったフウの『万物探索』なら探せるかと思ったが、フウは遠目に見ただけなので、探す為に必要な情報が不十分なようだ。
「マスター、ちょっと感じた! 」
「ほんとかい、フウ? 」
「多分……ほんの一瞬だけど……ここから北西の不可侵領域のどこか……と思う」
よし! フウが捉えたようだ……
不可侵領域か……ありえるかもしれない……。
霊域や大森林にちょっかい出してきたのも、おそらくあいつだな……。
不可侵領域のどこかに、奴のアジトがあるのかもしれない。
近い方が探しやすいはずだ。
不可侵領域の俺の別荘の一つに転移して、もう一度やってみるか。
ちなみに不可侵領域の別荘とは、元盗賊のアジトの事だ。
俺は早速、フウを連れてサーヤとともに、不可侵領域にある別荘の一つに転移した。
俺とフウは早速スキルを使う。
『波動検知』———
俺は白衣の男をイメージして、奴の気配に集中する———
———心を研ぎすます………
静かに集中する………………
…………………………………
……………………………いた!
俺が目を見開くと、フウも俺の方を見ていた。
「マスター、やっぱりいた。西の方角」
「うん、そうだね。俺も検知することができたよ。やはり西の方角だ。これは当たりのようだ。よくやったよフウ」
さてどうするか……
本来なら急襲して一気にケリをつけるところだが……
奴にこの前のように転移で逃げられると、また探し出すのに苦労しそうだ。
急襲をかけるからには、確実に仕留めなければならない。
転移は自分達が使うときは便利で良いが、敵が使うと厄介この上ない。
いずれにしろ敵情視察は必要だ。
俺は単独で視察に行くことにした。
サーヤには止められたのだが、『隠密』スキルもあるし調査だけということで押し切った。
念の為、『ドライアド』のフラニーに大森林の不可侵領域に近い防衛拠点の一つに待機してもらった。
その距離なら、フラニーの転移でいつでも帰って来れるからね。
サーヤとフウには、この別荘でしばし待機してもらうことにした。
ただ不可侵領域も広いので、ここからでもかなり距離がありそうだ。
一人で走って行ってもいいのだが、時間を短縮したかったので、フラニーの転移で目的地の近くの林に送ってもらうことにした。
それでも、それなりに距離がある所に転移したので、俺はしばらく走った。
この先が目的地だ———
———そびえ立つ崖のような大きな岩がある。
その下方に入り口がある。
嫌な感じがする……
俺は『波動検知』で、魔物の気配に焦点を当てる———
…………この中にかなりの数の魔物がいる。
しかも、中はどうも階層構造になっているようだ。
……まるで迷宮のようだ。
いや……迷宮なのだ!
この迷宮の中にいるのか……
厄介な……
魔物の気配を探る限り、地下に十階層ある。
そして地上部分になっているこの大岩の中にも、空間が広がっているようだ。
中に魔物の気配は感じないが、どうも地上部も階層構造になっているようだ。
俺が立っている正面はただの大岩なのだが、後ろの方には大窓のような形状のものもある。
俺は、遠巻きに一周回って確認した。
そして肝心の奴の気配は……地下十階にある。
これではピンポイントで奴を急襲できない。
どんなに早く地下十階まで駆け下りても、逃げられてしまうかもしれない。
逃げずに戦いを挑んできてくれれば良いのだが、それは希望的観測というものだ……。
これは単純な力押しでは難しそうだ。
……何か作戦を考えないと……。
今日のところは、一旦引き返すことにした。
潜伏場所が特定出来ただけでも良しとしよう。
焦りは禁物だ。
俺は、この潜伏場所である迷宮から少し離れたところに移動して、フラニーの転移でサーヤとレントンを呼んだ。
そして小さなログハウスを目立たない場所に設置して、サーヤの『管理物件』に登録してもらった。
そして大森林にいるレベルが上がったスライム達を何体か呼んで、この辺の巡回をしてもらうことにした。
あの迷宮の様子を遠巻きに探って、異変があったら俺に連絡をくれることになっている。
ひとまずは、このぐらいの処置でいいだろう。
さてあの白衣の男……あの迷宮……どう攻めたものか……
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