124.討伐、開始。
夜明けとともに俺達は出発した
やはりあの村が最初の村だったようで、その後、『イシード市』の外壁に着くまでの間に、いくつか村があった。
どこも壊滅的な状態で、生存者は見当たらなかった。
何割かでも、どこかに逃げていてくれていることを祈るのみだ。
アンナ夫人からもらった資料によれば、この『イシード市』は人口約二千人位の都市らしい。
領都『ピグシード』が人口約五千人で、それに次ぐ第二の都市ということだ。
外壁につくと、正門が破壊されている。
やはり中には各種魔物と『小悪魔インプ』達がいるようだ。
あと『小悪魔ジャキ』というのがいる。
これは子供ぐらいのサイズで、角が生えている。
かぎ鼻で口から牙が出ている。
肌の色はサビ色のような赤茶色だ。
俺が知ってるゲームなんかに出てくる雑魚キャラのゴブリンに似ている。
ニアの話では、この世界にも『ゴブリン』はいるらしいが、妖精族であり人間に害を加える事は基本的にないらしい。
この『小悪魔ジャキ』も『小悪魔インプ』同様レベルは高くないのだが、『インプ』よりも腕力がある物理タイプのようだ。
といっても『インプ』も魔力が高いだけで、基本的な攻撃は物理攻撃なんだが……
ただ『インプ』よりは、多少骨があるようだ。
昨日領都で集めたスライム達とこの都市周辺のスライム達を、リンに頼んで、それぞれレベル30から40程度の合体スライムにしてもらった。
領都から連れてきたスライムは五十六、この近隣のスライムは六十七体に及んだ。
お陰で合体スライムが十六体できた。
全てを合体させて一体の超高レベルなスライムを作ることも可能のようだが、経験値入手にどういう影響があるか分からないからそれなりのレベルに留めた。
また、瞬殺で倒すよりは死なない程度に戦った方が、スキルが取得できるのではないかとも考えたからだ。
俺は、サーヤに念話を繋ぎ、マグネの街にいる居残りメンバー全員を連れてきてもらった。
これから魔物の討伐作戦を開始するが、俺は監督に徹し、新メンバーやスライム達に討伐をしてもらうつもりなのだ。
レベル上げを兼ねた実践訓練だ。
ニア達レベルの高いメンバーは、救援活動の担当とした。
ちなみに救援活動は、ニアが回復魔法、残りのメンバーは回復薬を使う。
この回復薬は、今朝一番でフラニーに来てもらって、大森林に一緒に転移して補充してきたものだ。
この時、『アラクネ』のケニーが驚くべき工夫をしてくれていたのだ。
『マナ・ハキリアント』達が作る回復薬は、あまりにも品質が良すぎて、重傷者以外に使うのはもったいないらしい。
そこで、ケニーはそれよりも使いやすい適度な品質の回復薬を作っていたのだ。
しかも大量に……。
なんと元々の回復薬を、大森林の魔素をたっぷり含んだ湧水で薄めたところ、一般に普及している回復薬の下級レベルが作れたそうだ。
ケニーは『鑑定』スキルを持っているので、確認できたのだろう。
しかも…… なんと百倍に薄めて下級レベルになるらしい。
ただ下級回復薬といっても、その下級の中での品質としては、高品質の物になるそうだ。
これは魔素たっぷりの湧水を使っているからかもしれない……。
ということで、すごい数の回復薬が一気に出来てしまったようだ。
余程の大怪我でない限り、下級の回復薬で十分らしい。
また容器も、ケニーの作る特別製のものではなくて、大森林に生えている小さな瓢箪を加工したものに変わっていた。
この瓢箪を使った容器は、飲み水等の液体を入れる一般的な入れ物として人族の街でも普及しているそうだ。
これで、より気兼ね無く色々な人に配れるようになった。
あまり深く考えてなかったけど、あまりに高品質な回復薬をケニーの作った超高品質な容器で配るのは、やっぱり不自然というか……目立ちすぎるよね……。
ケニーは、痒い所に手が届くというか……ほんとにありがたい。
俺はケニーの心遣いと工夫に感動して、思わず抱きしめてしまったのだ。
ケニーは真っ赤になって、触脚を超高速でツンツンさせていた。かわいい奴め……。
ちなみに身体力回復効果のある霊果『マナウンシュウ』も大量に補充してきた。
これもケニーがたくさん用意してくれていたのだ。
この『マナウンシュウ』も普通に食べるだけで、下級の身体力回復薬と同等の効果があるらしい。
回復薬じゃなくてこっちでもいいんだが……
サーヤの話では、霊果も人族の間ではかなり貴重な物なのだそうだ。
これを無尽蔵に配っていることも、かなり異常な事になるらしい。
今まではあまり気にせずに配りまくっていたが……。
今後は、希釈回復薬が大量に手に入ったので、『マナウンシュウ』はストックしておくことにしよう。
いずれ使う機会もあるだろう。
それから、この壁門に来るまでに通過した壊滅した村が管理していたであろう荘園も同様に壊滅的な被害を受けていた。
農作物がほぼ全滅していたのだ。
ただ、レントンの力で回復できる農作物もあるかもしれないので、魔物討伐が終了したらレントンに頼もうと思っている。
霊域の代行者『ドライアド』のフラニーの方が得意かもしれないが、基本的に霊域を離れられないので、今回はレントンに頑張ってもらおうと思っている。
少しでも農作物が回復できれば、今後の食糧事情に大きなプラスになるはずだ。
◇
俺達は一時間程度で魔物討伐と人命救助を終了した。
やはりこの都市でも、瓦礫に埋もれて生きていた人や、地下に避難して生きていた人が結構残っていた。
貴族の館らしき大きな建物や役所らしき建物はすべて潰されていた。
俺は生存していたの人達が、食べたり加工出来そうな程度の魔物の死体を残し、その他を全て回収した。
そして領都でもやったことだが、明らかに瓦礫と分かるものについては俺の『波動収納』に回収してしまった。
その方が復旧作業など今後が楽になるからね。
ただ個人の住宅の思い出の品などを回収してしまうのはまずいと思ったので、微妙なものについてはそのままにした。
建物の残骸など明らかに不要とわかるものだけ回収したのだ。
遺体についても、『波動収納』の『目視回収』コマンドで回収して 一カ所に並べた。
各村でやったように埋葬しようかとも思ったが、ここは生存者がいて遺族がいるかもしれないので、勝手に埋葬する事は控えた。
そして生き残りの衛兵に、辺境伯夫人から渡された紋章付の手紙を見せ、俺達の身分の証明をして、領内の状況を伝えた。
また、生き残った者で希望者は領都に向かって良いという夫人からの伝言も伝えた。
ちなみにこの『イシード市』は、人口約二千名だったはずだが、どうも生き残っている人は五百人に満たないようだ。
遺体の数とも合わない。
魔物に食べられてしまったのかもしれないが……。
どこかに逃げ延びていてくれると良いのだが……。
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