114.米を、作ろう!
朝起きると俺はサーヤとすぐに打ち合わせをしていた。
やはりいつもリビングで雑魚寝というのも厳しいので、みんなで寝られる大きな部屋を増築しようと思ったのだ。
敷地はいくらでもあるし、サーヤのスキルならすぐに増築できるからだ。
今まで使っていた大広間をそのまま食堂にする。
それに面している北側の壁の向こうに、新たに大きなスペースを増築するのだ。
みんなで寝る用の大きな寝室と、食堂とは別にくつろげるように大きなリビング、それからみんなで入られる大きなお風呂も作ろうということになった。まぁみんなといっても女子だけだけどね……。
もちろん大きなベッドも必要になる。
サーヤ、ミルキーといった大人メンバーはともかく、リリイやチャッピーなどの子供達とは一緒に寝てあげたいのだ。
側で小さな子が寝てるっていうのは、本当に幸せな気持ちになる。
どうせ拡張するなら二階建てにして、現在部屋をあてがわれていないリリイとチャッピーの部屋も作ることにした。
結局そこまで大きくすると増築部分だけで二倍以上の大きさになった。
これはこの家の精霊であるナーナにとっても、特に問題は無いようで、ナーナもすごく張り切っていた。
家の増築の打ち合わせが終わると、俺はフラニーの転移で霊域に戻った。
そして、烏骨鶏を十羽とヤギを五頭選抜して連れて戻ってきた。
ちなみに烏骨鶏は雄一羽雌九羽、ヤギが雄一頭雌四頭という構成だ。
この数なら、ミルキーの妹弟達でも十分お世話できるだろう。
戻ると子供達も起きてきていたので、今日の予定を告げる。
そう今日は……念願の水田作りをしようと思う!
ということで皆を連れて、不可侵領域の水田を作る予定の場所に、フラニーに転移してもらった。
鍬が必要だったのだが、ナーナが『武器作成』スキルで作ってくれることになった。
確かに武器と言えば言えなくもないが……。
昨日もらった魔物の骨と牙などで作れるそうだ。
ちなみにネズミ魔物の前歯を鍬の刃の部分にして、柄の部分はレントンが硬い材質の木を適当な太さに加工してくれたようだ。
今回の開墾は、種子の量から逆算して一万平方メートル(1ヘクタール)とした。
元の世界では、農家は千平方メートルを一単位として一反と呼んでいた。
それが十枚分つまり十反分で一町歩というのだ。
今回は、その一町歩の面積ということだ。
米農家としては、とても小さな規模ということになる。
種籾が無いからしょうがないけどね。
米作りは、通常苗を作ってそれを植えるいわゆる“田植え”方式で作るのが一般的だ。
だが今回は、『乾田直播』というやり方で作ろうと思っている。
これは通常の畑の状態に、種籾を直接播く、つまり種播きをする作り方だ。
そしてある程度の大きさに育った時に、水を流し入れるというやり方なのである。
今回初めて作った水田は、ほとんど畑と同様なのでこのやり方が合ってると思ったのだ。
それにこのやり方ならば、苗を作る手間もなければ、田植えという重労働もしなくて良い。
非常に効率的なやり方なのだ。
俺の元いた世界でも、自然的な作り方などこだわりのある農家が極少数だが実施していた。
デメリットは、発芽が揃わないと歯抜けになったり、生育にバラツキが出たりということだ。
だが、俺にとっては大きな問題ではない。
機械などを使って一斉収穫するわけじゃないから、バラツキが出てもいいし、歯抜けが出てもいい。
むしろ今後の普及を考えると、手間がかからないやり方の方が良いのだ。
それに一般論としてだが、植物は苗を作って移植するよりも、種から直に根を張った方が強くなるのだ。
だから台風などによる倒伏にも強くなるのだ。
最初の作業は草刈りだ。
ここで活躍したのはいつも通りワッキー。
固有スキル『高速刈爪』が大活躍で、“草刈機”状態だ。
もう一人大活躍したのが……チャッピーだ。
『魔法のブーメラン』を投げて、草をスパスパなぎ倒していた。
ほぼこの二人の活躍で草を刈り終わった。
刈った草を集める作業で活躍したのはレントンだ。
種族固有スキル『植物材同調加工』で枯れ草を一気に集めてしまった。
そして牧草のように四角いブロックに固めてくれた。
これはヤギ達のご飯にしても良いだろう。
次に耕す作業だ。
俺はみんなに耕し方を教える。
「みんな、耕すのは鍬を地面に入れて持ち上げれば掘り起こされるんだ。これが耕すって事だけど、後ろに下がらないで前に進んでいくように」
「え、後ろに下がっていくんじゃないんですか? 前に進むんですか? 」
ミルキーが首をかしげながら訊いてきた。
「えへん! リリイは知っているのだ。婆ちゃんが言っていたのだ。前に進みながら耕すのだ! 」
リリイが、鼻の下を指で擦りながら自慢げに胸を張る。
お婆ちゃんと一緒に畑を作っていたから知っていたようだ。
「へーそうなんだー。リリイ、でもどうして後ろに行ったらダメなの? 」
ミルキーがリリイに質問を投げかける。
「えっと……それは……わからないのだ!」
———ドテッ
ミルキーと皆が軽くコケる!
———知らないんかい!
しょうがない説明してあげよう。
「後ろに下がりながら耕していくと、耕した土がどんどん後ろに溜まっちゃうんだ。そのうち耕すのが大変になる。前に進んでいけば、土が耕すところに溜まることがないから均一に耕せるんだよ」
「リリイが言いたいのは、そういうことだったのだ! 」
なぜかリリイが自信満々に胸を張る。
みんな優しさで……スルーしてあげてる。
そんなこんなで、俺達は横一列に並んで耕し始める。
もっともやっているのは、鍬が持てるニア以外の人型メンバーだけだ。
ニアと他のメンバーは、周りで楽しそうに遊んでいる。
ていうか、ニアは最近ほとんど遊んでいるだけだが……。
鍬を振り下ろしながら、少しずつ耕し進んでいく。
普通で考えるとかなり大変な作業なのだが、レベルが上がって、各ステータスが上がってる俺達にはそれほど大変じゃない。
何よりみんなで作業してることが楽しい。
あっという間に耕してしまった。
今度は土の表面を平らに均して、種を播く。
播き溝を筋状に何本もつけていく。
そしてそこに種籾を落としていく。
いわゆる筋播きというやつだ。
種を播き終わったら今度は、種子に土をかぶせる。
覆土という作業だ。
その後は播き溝をみんなで踏んで歩く。
鎮圧播種という、土と種籾を密着させる作業だ。
最後の水やりは、リンが『エレメンタルワンド』を使って、空中に水を放出して雨が降ったような状態を作ってくれた。
こうして俺達の水田作りと種播きはあっという間に終わった。
普通ならかなりの大仕事だが、みんなのスキルや魔法道具の力で、半日足らずで終わってしまった。
ここも野生動物に荒らされないように、スライム達に巡回させよう。
そして俺達は昼食を取る為にサーヤの家に戻った。
ついでに俺達は九体のリーダースライム達とレベルが上がったスライム達を街に呼び寄せた。
今後彼らには、定期的に街やその外側の村周辺の巡回警備をしてもらう。
新しく作った水田エリアもね。
このスライム達は、交代制で大森林で訓練しながら街の警備をする。
交代のシフト等は九体のリーダーとケニーに任せることにした。
これから食事を始めようとしていた丁度その時……
———扉がノックされた。
この家に来客なんて………そう思いながら扉を開けると……
なんと“金髪美人”こと衛兵のクレアさんが荒い息をしながら立っていた……
はて……?
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