113.養蜂を、始めよう!
俺達はトルコーネさんと一緒に、役場と商人ギルドで購入の手続きや契約などを済ませた。
商人ギルドに行った時には、他にも掘り出し物件があるといくつか案内されたのだが……特に買うつもりはなかったので、話を聞くだけにした。
ただ一つだけ気になってた場所があって訊いてみたのだが……流れでそこの土地を購入することになってしまった。
それはどこかというと、サーヤの持っている土地のすぐ隣だ。
さっきサーヤの敷地を見せてもらった時に、東側の隣接する土地がかなり荒れていた。
その次の区画からは家などが建っているのだが、中途半端に荒れた状態で残っていたのだ。
どうせなら、そこまで含めてサーヤの敷地にしてしまった方がいいと思ったのだ。
実は俺の畑にさせてもらおうと思っている。
本格的にいろいろ栽培してみたいんだよ。
果樹を植えるなら、結構面積も必要だしね。
全く人気がない場所のようで、何十年も売れてなく放置されてる場所だった。
昔サーヤが安く買ったというのも頷ける。
サーヤの名義で購入した。
追加で二万五千平方メートル(2.5ヘクタール)購入したので、サーヤの所有する面積は合計七万五千平方メートル(7.5ヘクタール)となった。
ちなみに今回購入した土地は、面積で言えばトルコーネさんが買った宿屋の十倍以上あるが、金額は半額の五百万ゴルだった。
ただ本来であれば最低でも一千万ゴル以上するようだが、誰も買う人がいなく、何十年も荒地のままということで格安で売ってくれたのだ。
◇
無事手続きを終えた俺達は、トルコーネさんの宿に戻ってきていた。
みんなでお茶をすることにした。
ネコルさんが美味しい紅茶を入れてくれた。
蜂蜜のサービス付きで……。
紅茶に蜂蜜を入れると甘くてすごく美味しくなる。
ネコルさん達も特別な時にしか蜂蜜は入れないようだ。
俺はトルコーネさん一家に一つの提案をした。
そう、この前思いついた俺のアイディアだ。
ロネちゃんのレアスキル『虫使い』を使った“養蜂”だ。
この辺では養蜂家はいないらしく、近隣の林や森等で蜂蜜をとってくるらしい。
それ故、蜂蜜はいつでも潤沢にあるというわけでは無いようだ。
もし定期的に蜂蜜が取れたら便利だし、結構売れるのではないだろうか。
何より甘くて美味しいし。
ということで俺はそういう提案をした。
「 おお、それはいい! きっと売れますよ」
トルコーネさんは商人の感性が刺激されたようだ。
「そうね、蜂蜜が潤沢にあったら、料理にもたくさん使えるから幅が広がるわ! 」
「うん、蜂さんと一緒にお仕事なんて楽しそう! 」
ネコルさん、ロネちゃんも気に入ってくれたようだ。
養蜂といっても、やる事はあまり無い。
巣箱を作ってあげて、後は蜂が働いてくれるだけだ。
トルコーネさんに訊いたら、板材があるというので、試しに俺が巣箱を作ってみることになった。
作るのは簡単な『重箱式巣箱』にした。
簡単に言うと木の枠を作って、それを重ねていく仕組みだ。
最初は二段位にして、何ヶ所かに置いて、うまく蜂が住み着いてくれたら、五段ぐらいまで増やすというやり方だ。
四角い木枠と底板それに、天板というシンプルな作りだ。
木枠には、巣の落下防止のために十字に細い棒を付ける。
俺はトルコーネさんに作り方を教えながら、一時間もせずに作り終えた。
子供達が周りで興味深そうに見ていたので、巣箱作り教室を開催することにした。
板材がいっぱいあったからね。
「釘打ちはリリイに任せるのだ! ハンマーは得意なのだ! 」
「チャッピー板切るの頑張るなの〜」
「ぼくだって、頑張るよ」
「リリイ、叩き過ぎて箱壊さないようにね」
「力の加減大事」
「大丈夫なのだ。リリイはちゃんとできるのだ」
張り切るリリイ、チャッピー、ワッキーをアッキー、ユッキーがフォローしてくれている。
ロネちゃんは、早くもミツバチを呼び集めているようだ。
どんどん集まってきている。
ほんとにすごい能力だ。
普通の養蜂は、二段ぐらいにした巣箱を何ヶ所にも置いて、運良く蜂が住み着いてくれたところを増設して五段ぐらいにする。
だが、ロネちゃんのスキルを持ってすれば、蜂が定着するのは確実なので、最初から五段でセットした。
みんなでイベントとして作ったお陰で、五段の『重箱式巣箱』が四つ完成した。
これを厩舎の端のほうにセットして、後はロネちゃんがミツバチを導けば終わりだ。
「ミツバチさん達、この巣箱の中で暮らして! お願い! おいしいハチミツいっぱい作ってね」
そんな感じでロネちゃんがミツバチ達に話しかけると、みんな一斉に巣箱の中に入っていた。
普通ミツバチは、春の分蜂の時期に新しい巣を作る。
春になると、新しい女王蜂が生まれる。
すると、母親の女王蜂は、働き蜂の約半数を連れて巣を出て、新たな場所に巣を作る。
我が子に快適な巣を残し、自分が出て行くのだ。
優しい行動とも言えるし、種として生き残る為の合理的な方法とも言える。
まだ春だから、分蜂してきてくれているのだろうか、それとも今の巣を捨ててこっちに移住してくるのだろうか……詳細は不明だが……いずれにしろありがたいことだ。
蜂君達ありがとう!
きっと美味しい蜂蜜が採れるに違いない。
今後が非常に楽しみである。
もしかしたら、ロネちゃんが一番の稼ぎ頭になるかもしれないね……。
◇
夕方になって俺達はサーヤの家に戻ってきた。
俺は今日新しく増やした土地を含めて、サーヤの敷地の使い方について、みんなと相談した。
俺の考えは……
サーヤがもともと持っていた土地で、使っていなかった南側を畑にする。
そして、家の敷地のすぐ後ろの壁側の未使用だった場所で、盗賊から保護した烏骨鶏を飼う。
そうすれば烏骨鶏が草を食べてくれるので、雑草を刈り取る必要がない。
美味しい卵が食べられるから一石二鳥だ。
そして今日追加で購入した東の荒れ地の壁側に、盗賊から保護したヤギを飼う。
ヤギも旺盛に雑草を食べてくれるから、雑草対策になる。
時々敷地内の空いている場所を散歩すれば、無理に草刈りをしなくてもヤギの良いご飯になるのだ。
もちろん新鮮なヤギのミルクも飲める。これまた一石二鳥なのだ。
ちなみに、烏骨鶏の糞もヤギの糞も、畑の良い肥料になるから、実は一石三鳥なのだ。
循環型の栽培環境、生活環境作りそれが俺のプランである。
まぁ実際には…… 主に俺の食欲を満たす為のプランではあるが、中々いいんじゃないだろうか……。
烏骨鶏もヤギも数を多くしなければ、ミルキーの妹弟達だけでも面倒見られると思う。
少ない数から始めれば、俺達がどこかに出かけても大丈夫だろう。
もちろん烏骨鶏やヤギを守る為に、柵を作らなければいけない。
リーダースライムを中心にスライム達を呼び戻す予定なので、この街全体の警備とともに、この屋敷周辺の警備もしてもらえばいいだろう。
そうすれば、盗まれたり襲われたりということも起きないと思う。
そんな提案をしたのだが……満場一致で受け入れられた。
気が早い俺は、まだ暗くなりきっていないのをいいことに、早速烏骨鶏達のスペースや、ヤギ達のスペースの柵を作り出してしまった。
いつものように材料の加工はレントンに頼み、他のみんなも柵作りを手伝ってくれた。
ワッキーは、固有スキルの『高速刈爪』で草刈りをしてくれた。
結構背の高い草が多かったのだが、あっという間に刈り落とされた。
俺が元の世界でよく使っていた刈払機みたいな感じで、非常に便利なスキルだ。
サーヤ、ミルキー、ナーナの大人女子達は、夕食の支度をしてくれている。
明日の朝にでも、烏骨鶏やヤギ達を連れてこようと思う。
烏骨鶏は十羽位、ヤギは五頭位がいいだろう。
大広間になっているリビングで、みんなで食事をしたのだが……
なぜか全員でそこに寝ることになった。
サーヤの家には部屋が五つもあり、ミルキー達にあてがわれていたのだが……
みんな一緒がいいということになり、大広間で雑魚寝になってしまったのだ。
いつまでも雑魚寝というわけにもいかないので、この点も何か考えないといけないかもしれない……。
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