12.美少女に、ピッタリ棒。
ニア達の様子を窺っていると、リンと目が合った。
「何か欲しいものあったかい?」
「あるじ、この中で一番硬いもの欲しい、いい?」
リンは、モジモジしている。
「別にいいけど……一番硬いのか……」
「それなら、そのオリハルコンのインゴットがいいですよ」
ダリーがフォローしてくれた。
オリハルコンと言えば、ファンタジー金属の代表……やはりあるのか……すごいなぁ……
「一番小さいのでいい……お願い……」
リンが更にモジモジしている。
「これが良いのではないでしょうか」
ダリーが黄金の小さな塊を指差した。
金の延べ棒に似てるけど、輝き方が何か違う。
もっと白っぽいというか……表現しづらい輝きだ。
その塊をとって、そっとリンに渡してあげる。
「あるじ、ありがと……ございます。あるじのため、強くなる」
そう言うとリンは、オリハルコンを飲み込んで、嬉しそうに三回バウンドした。
かわいいやつだ……
今度はニアが帰ってきた。
……なんかしょんぼりしている。
どうやら、ニアのサイズに合うものが何もなかったらしい……
そりゃそうか……
宝石も欲しかったらしいけど、一番は武器、特に剣が欲しかったようだ。
ニアは、魔法主体だし、剣は必要ないと思うのだが……
「魔法剣士ってかっこいいでしょ。美少女魔法剣士……やっぱこれでしょ……ムフフ……」
と残念なことをほざいていたが、無いものはしょうがないよね。
そもそも方向が違うと思うし……。
「あら…… これならどうかしら……使用者の念に呼応して、大きさがある程度自由に変えられるんですよ。これならニアさんが使えるサイズになりますよ。超お薦めです」
そう言って、ダリーが魔法の棍棒を指差した。
波動鑑定を使って詳しく見てみると……
———『如意輪棒4.0』———階級 伝説の秘宝級
え、伝説の秘宝級……
これは……
ダリーの説明からしても……あの有名なお猿さんの使うすごい棒と同じような性能に違いない……
形も似てるし……
両サイドは金色で同じだ……
全体は赤ではなくピンクだが……微妙に乙女仕様で逆にいいんじゃないだろうか。
名前が微妙に違うのと、4.0というのも気になるが……
バージョンとかじゃないよね……まぁそんなことは今はいいか。
「この中で一番高性能だけど、これ使ってみれば」
俺もニアに薦めてみた。
「いやよ、棒なんて……格好悪いし……全然美少女に似合わないじゃない!」
ニアはそう言って、ほっぺを膨らませて、俺の頭をポカポカ殴りだした。
結構痛い……手加減はしてるんだろうけど……。
完全にプンスカモードに入る前に……
説得しなきゃ……
俺はニアに、元いた世界では、美少女が棒持って体操したり演技をしたりする話(まぁ新体操のことだが……)や、鼓笛隊指揮者の話などをして、美少女と棒は合う、いやむしろ美少女こそ棒を持つべきで、美少女にしか使いこなせない。
そう身振り手振りで力説した。
今後、ニアサイズの武器なんて手に入りそうにないし、営業マンだった頃を思い出して全力プレゼンした。
その甲斐あって、単純なニアは、使ってみる気になったみたいだ。
「じゃぁニアさん、この棒に触って、自分がイメージする大きさを念じてみてください」
ダリーに促され、ニアは恐る恐る如意輪棒に触った。
すると……
あっという間に小さくなってニアの手に収まった。
魔法ってやっぱりすごいね。ちょっとびびった。
おや、ニアがすごい笑顔になってる。
実際手に持ったら格別だったのだろう。
ニアは、如意輪棒を数回振って感触を確かめると、更に小さくして、上着のポケットにしまった。
これでニアもリンも、一つずつ自分のお宝をゲットできた。
もちろん他のお宝も俺が独り占めするつもりはないけど……。
この後俺は、すべての宝を、『波動収納』に回収した。
その時にサブコマンドの『目視回収』を使ってみたが、見えている範囲のものは回収できてしまうので、かなり便利だった。
やはり金貨や銀貨は、数万枚単位だった。
同じ性質のものは、傷など多少の違いがあっても同一のものとして集計して収納されるらしい。
フォルダ仕分けなどを使えばもっと便利なんだろうけど、まぁおいおい使いこなせるようにしよう。
一応、『テスター迷宮第一宝物庫』というフォルダを作って、今回の物を全てそのフォルダに入れておいた。
ここで、さっきダリーが言ってた、俺が倒したスケルトン達が、現代の硬貨を持ってるかもしれないということを思い出し、サブコマンドの『戦利品自動回収』を使ってみた。
すると……
……何か凄い数の回収が実行されている…………
波動収納のリストがどんどん増えている……
いやー……なにこれ……
とりあえず……スケルトンたちが使っていたと思われる武器や防具が凄い数だ。
アンデッドは約五千体いたとダリーが言っていたが、ほとんどがスケルトンだったのではないだろうか……。
価値の高い物はないだろうけど……数がすごい。
これを売っただけで、結構な金額になるのではないだろうか……
てか……ちょっとした軍隊が作れるんじゃないかと思う。
他にも細かくいろんなものがあるが、とても見切れない……
暇なときに確認するしかない。
これも、『テスター迷宮戦利品』というフォルダを作って一括収納しておいた。
驚いたのは、スケルトンたちの骨も回収されていることだ。
骨は何かに使えるんだろうか……
謎すぎる……そしてほんとにすごい数……。
ダリーが言った通り、いろんな硬貨があった。
金貨、銀貨、銅貨、それ以外の銭貨もある。
それぞれ百枚単位、ものによっては千枚単位のものもある。
さっきの宝物庫で感覚が麻痺しているが、本来ならこれだけでも一財産だ。
デザインも宝物庫の硬貨と違う感じだし、この中に、現在でも近隣の国で使われているものがあれば、今後非常に助かるのだが……
さて、至福の宝物タイムも終わり、今後の迷宮防衛の話になった。
ダリーが用意してくれた椅子に俺たちが座ると、説明が始まった。
立て続けで、少し休みたい気もするが、宝物ゲットで疲れが吹っ飛んだので、もう少し頑張れそうだ。
「現在情報を確認すると、休眠期間中の損傷により、階層封鎖が解け、野生の魔物の縄張り領域と化しているのは、迷宮地上部二階層と地下五階層となっています。ちなみに、迷宮地上部三階層以上は破損、消滅した模様で、現在はありません。各階層の主な魔物は……」
ダリーによれば、各階層の主な分布は……
地上二階——特になし
地上一階——下級スケルトンの縄張り領域、現在は殲滅により不在。
地下一階——中級スケルトンの縄張り領域、現在は殲滅により不在。うさぎ、ネズミ、各種蜘蛛の魔物の浄化個体“浄魔”が残存。
地下二階——上級スケルトン及びその他のアンデッドの縄張り領域、現在は殲滅により不在。蜂の魔物の浄化個体“浄魔 ”が残存。その他、オリジン魔物の浄化個体“浄魔”が残存。
地下三階——各種蟻の魔物の浄化個体”浄魔“の縄張り領域。
地下四階——カマキリ、クワガタ、カブトなどの魔物の浄化個体”浄魔“の縄張り領域。
地下五階——狼、猪、熊、鷲の魔物の浄化個体”浄魔“の縄張り領域。
これらの階層は、休眠時の階層封鎖が解けて、出入りが自由な状態になっているらしい。
このエリアには、自然に魔素が溜まっており、魔物たちは魔素吸収するだけで飢えることは無いとのことだ。
さて、これを踏まえると……
地上一階と二階は現在魔物がいないことになるが、その他は今居る魔物をそのまま守護に当てればいいのではないだろうか。
慣れた所の方がいいだろうし、地上は無理に守らなくても、地下部分がしっかり守られていればいいのではないだろうか。
俺はそんな意見を出してみると、ニアから否やが入った。
「 もし地上部に空から奇襲があったら、情報伝達が混乱して、本来の防衛ができなくなると思うのよね。迷宮全体を一つと考えて、やっぱり地上にも魔物を配置すべきじゃない」
なるほど一理あるが……
さて……
「では、空を飛べる鷲の魔物たちを地上二階に、足の速い狼の魔物たちを地上一階に配置してはどうでしょう?」
ダリーが、ナイスアイデアを提案してくれた。
これでいいんじゃないかな……
……みんなも賛成のようだ。
問題は魔物たちにどう伝えるかだね……。
そこはもちろん、テイマーである俺の仕事なわけだが……
考え込んでもしょうがないか……
まず地下五階から行ってみるか……
ダリーに伝えると、転送ですぐに行けるとのことだ。
そんな機能があるとは、やはりこの迷宮侮れない。
てか、俺たちがこのダンジョンマスタールームに移動したのも、きっと転送されたってことだよね。
それじゃあ、新しく使役生物になった魔物たちとご対面といきますか……。