1147.まさかの、四歳児。
しばらく周囲を観察したが、もう変な気配は無い。
これで大丈夫だと思うが……。
ただそれとは反対に、周囲はどんどん騒がしくなっていく。
近所の人たちが出てきたのと、衛兵や冒険者が集まりだしているのだ。
ニア、リリイ、チャッピーも隣の倉庫から屋敷に戻って来た。
一緒に、『ひまわりライガー』の霊獣『スピリット・サンフラワーライガー』のジュウシンと、『オリジン魔物』の一種『妖魔』の『ジャックランタン』のジャクラーもいる。
『ひまわりライガー』は、珍しい動物だが、一応、通常生物として存在しているみたいだから、一緒にいても問題ないだろう。
ただ『ジャックランタン』は、どう見ても悪霊っぽいから騒ぎになると思うのだが……。
「リリイ、チャッピー、『使い魔』が来てくれてよかったね」
「そうなのだ! びっくりしたけど、嬉しいのだ!」
「チャッピーも嬉しいなの〜。かわいいなの〜」
俺は、二人の『使い魔』になってくれたジャクラーとジュウシンに改めて挨拶をし、普段は目立たないようにしてほしいと伝えた。
「もちろん、心得ております。私は『鬼火』に変化することもできますし、姿そのものを消すこともできます。ご心配なく」
「僕、普通の『ひまわりライガー』のふりできるから、大丈夫! 四つ足で過ごすように頑張る!」
二人がそう言ってくれたので、一安心だ。
そして、リリイが機械の腕を渡してくれた。
「みんな、これをつけていたのだ!」
「ゴーレムを操っていた冒険者の腕が、みんなこれになってたのよ。『魔物人』になったときに、巨大化して外れてた」
ニアが補足してくれた。
「この魔法道具は、ゴーレムを操れる装置になっていたんだよ」
俺はそう言いつつ、改めて『波動鑑定』する——
『名称』が、『魔具 土由来の人形術式構築アーム』と表示される。
これも『階級』は『究極級』だ。
弱いゴーレムを動かしていたものは、『名称』が『魔具 ゴーレム創造術式構築アーム』となっていた。
『階級』も同じ『究極級』だった。
同じシリーズだろう。
詳細表示を確認すると……やはり同じようなことが表示されている。
体の一部として融合させないと、使えないのだ。
この強いゴーレムを動かしていた魔法道具は、『土魔法—— 土由来の人形』を術式化した『土魔術—— 土由来の人形』を発動できる。
ただ、動かせるのは、事前に登録した五体のみのようだ。
イメージ的には……ロボットを五台同時に操縦するコントローラーのようなものだろう。
それにしても、解せないことばかりだ。
冒険者の集まりであるクランと言えども、こんな魔法道具そうそう手に入れられるものではない。
『魔物人』になったこともそうだが、いろいろ裏がありそうだ。
ポロンジョは魔物化したので倒すしかなかったが、トヤッキーとボンズラーは、魔法の貯金箱の付喪神セントンちゃんたちが制圧してくれたから、生きている。
こいつらから、情報を聞き出すしかない。
今回の襲撃犯で生き残ったのは、この幹部の二人と、あのおかっぱ軍団だけだ。
あのおかっぱたちは、搾取する側にいたとは言え、どう見ても下っ端だから、大した情報は持っていないだろう。
あいつらが生き残ったのは、奇跡ではないだろうか。
電撃で倒してくれた『雷使い』のラムルちゃんに、感謝すべきだろう。
クランのメンバーとなったが、まだここに引っ越してきていなかった冒険者たちが、続々駆けつけて来た。
みんな心配そうにしているが、クランの管理長のバーバラさんや、『美火美』のメンバーが事情を説明してくれている。
バーバラさんを始めとした大人のスタッフは、子供たちが怖がらないようによくまとめてくれたし、『美火美』のメンバーも、強いゴーレムや格上の魔物に対し、着実ないい仕事をしてくれた。
そして俺の仲間たちを含めたみんなが、突然の夜襲に浮き足立つことなく、すぐに状況が把握できるように行動した。
俺が、この屋敷の各所に設置していた魔法の灯籠を、手分けして稼働させてくれたので、真っ暗な状況で戦わずに済んだのだ。
明かりがあったことで、子供たちも必要以上の恐怖を感じなくて済んだはずだ。
子供たちも、怖かっただろうに、大きく取り乱すこともなく、立派だった。
この子たち……将来大物になりそうだ。
クランメンバー……本当に、頼もしい仲間たちだ!
「お兄ちゃん……助けて……」
ん、いつの間にか四歳時のイチョウちゃんが、俺のところに来ていた。
助けてって……?
「イチョウちゃん、どうしたの? もう大丈夫だよ」
「あたしが……狙われている……早くしないと……入ってきちゃう」
「え、どういうこと?」
「悪魔の波動……検知した。迷宮が狙われているの! 助けて!」
え! 悪魔!? 迷宮!?
「もしかして……」
「あたしは……『セイチョウ迷宮』管理システム……です……」
迷宮管理システム!?
俺は急いで、イチョウちゃんを『波動鑑定』した——
『種族』は『人族』で、『名称』が『イチョウ』、『年齢』は『四歳』となっているが……いや、これは偽装ステータスだ!
ザラついている。
……意識を集中させる。
本来のステータスが、垣間見れる。
生物のステータス画面ではなく、物品のステータス画面だ!
『名称』が『セイチョウ迷宮管理システム アバターボディ幼女タイプ』となっている。
驚いたことに……この子は、アバターボディだった。
今まで話していたのは、『セイチョウ迷宮』の迷宮管理システムつまりは特殊な魔法AIと言うことだ……。
それでこの子は、敵の襲撃や潜んでいる位置などが把握できたのか……?
迷宮管理システム特有の波動検知システムが、アバターボディでも使えるということか……?
俺がダンジョンマスターをしている『マシマグナ第四帝国』のテスト用第八号迷宮『システマー迷宮』の迷宮管理システムの話では、迷宮管理システムの拡張改良のために、アバターボディの研究開発を行っていたと言っていた。
だが本格稼働迷宮には必要ないと判断され、採用されなかったという話だった。
だが『セイチョウ迷宮』には、それが採用されていたようだ。
もしかしたら……本格稼働迷宮の中でも『第二世代型』という話だったから、『第一世代型』で採用されなかったアバターボディシステムが、採用されているのかもしれない。
本格稼働迷宮の『第一世代型』である『希望迷宮』は、元『癒しの勇者』で吸血鬼の始祖でもあるヒナさんの家になっているが、アバターボディはなかった。
そしてヒナさんは、『アルテミナ公国』と『アポロニア公国』には、本格稼働迷宮の『第二世代型』があると教えてくれていた。
「イチョウちゃん、今『セイチョウ迷宮』の中に悪魔がいるの?」
「うん、なぜか突然襲って来た。迷宮内の魔物が目的ではない……。ダンジョンマスタールームを目指してると予想……。封鎖フロアを突破しようとしている……」
それはやばいなぁ……
「もしかして、ダンジョンマスタールームまで、転移で戻れたりする?」
「行ける……一緒に来て……助けて」
「わかった。じゃあ一緒に行こう」
俺のただならぬ様子を察知したニア、リリイ、チャッピーも一緒に聞いていたので、状況は飲み込んでくれている。
「ニア、ちょっとイチョウちゃんと一緒に、悪魔を倒しに行ってくる。ここの処理を頼むよ」
「それはいいけど……一人で大丈夫? って心配するだけ無駄か。悪魔相手じゃ、一人の方が戦いやすいわよね。ボコボコにしてきちゃって!」
「わかった。せっかく悪魔が現れてくれたんだ、何とか捕まえて奴らの根城の情報を聞き出すよ!」
俺は、後の処理を仲間たちに任せ、イチョウちゃんと共に、『セイチョウ迷宮』に向かうことにした。
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