1136.脅しと、威圧。
俺は、人を使い捨ての駒としか考えていない『ドクロベルクラン』マスターのポロンジョの発言に、内心怒っている。
だが、そんな気持ちをぐっと我慢している。
「あの……ポロンジョさん、お金は払います。ですから、このクランを止めさせてもらいます!」
相談に来た女性冒険者のオーツさんが、拳を握りしめながら、力強く宣言した。
頑張って勇気を振り絞ってくれたようだ。
「なんだって!? あんた、金払っただけで、抜けられるとでも思ってんのかい!?」
おおっと、ポロンジョが逆ギレして凄んだ。
……聞き捨てならないな。
「借金を返済するのに、なぜ抜けられないのでしょうか?」
俺は、二人の間に割って入るようにポロンジョの前に進み出た。
「なんだって!? 一度入ったんだ、勝手に抜けられるわけがないだろ!」
「そんな理屈は、通らないと思いますが」
「理屈の問題じゃないんだよ!」
「いや、理屈の問題でしょう。
冒険者というのは、本来自由な存在です。
何よりも自由を尊ぶ者たち……それが冒険者です。
それをクランに縛りつけるのですか?
そんなことをしたら……すべての冒険者を敵に回すんじゃないですか?」
俺は笑顔で、少し脅してみた。
「何なんだと!?」
「ポロンジョ様を脅すつもりか!?」
「そうだ、ぺちゃんこにするでヤンスよ!」
そばで見ていたトヤッキーとボンズラーも、耐えきれなかったようで、口を挟んできた。
「もし借金を返しても、クランを抜けられないなんて理不尽を通すなら、私がすべての冒険者に呼びかけましょう! 自由を尊ぶ冒険者の矜持を汚されたと……」
俺は、さらに満面の笑みで脅しを追加した。
「な、なんだって……、そんなことをしたからって、何ができるってんだ!?」
「さぁどうでしょうねぇ……冒険者の自由を取り戻したと言って、多くの冒険者がこの屋敷を取り囲むかもしれませんねぇ。
もしくは、少しの悪事でも見つけたら衛兵隊に密告するとか。
『ドクロベルクラン』に搾取される人が出ないように、徹底して悪い評判を広めるとか。
少なくとも……私のクランでは、あなたたちが何か悪事を働かないか、徹底的に監視しようかと思いますけどね。
まぁこの人たちが、気持ちよくクランを抜けれるなら、そんな面倒くさい事はしませんけど……」
こいつらは、何かしらの悪事を行っているはずだ。
しつこく探られるのは、避けたいはずだ。
そう考えたので、嫌がることを言ってみた。
色々と探られるマイナスを考えれば……損得勘定ができる奴なら、冒険者を自由にするだろう。
「お前ら、ポロンジョ様に盾突いて、ただで済むと思ってるのか!」
「「「そうだ!」」」
今度は、おかっぱ頭たちが文句を言ってきた。
変なタイミングで入ってきたおかっぱ頭たちに、俺は少しイラついてしまった。
そして、威圧を乗せて睨んでしまった。
途端、おかっぱたちは、その場に崩れ落ちた。
泡を吹いて気絶している。
ほんのちょっと、威圧が乗っただけだと思ったんだが……。
そして、その威圧の波動とも言うべきものが伝わったらしく、ポロンジョたちが、一瞬固まっていた。
「……ふん、し、しょうがないねぇ……こんな奴ら、こっちから縁切りだ! さっさと金を払いな!」
ポロンジョは、冷静さを取り繕いながら吐き捨てた。
負け惜しみを言っているが、こちらにとっては良い展開だ。
「じゃぁ借金の返済と、その証書の発行に立ち合います」
俺はそう宣言して、冒険者たちに借金の精算をしてもらった。
これで搾取されていた冒険者全員が、『ドクロベルクラン』を脱会することができた。
俺たちは目的を達成し、『ドクロベルクラン』を後にした。
◇
『ドクロベルクラン』本拠地
「なんなんだ、あのグリムという男……。私をコケにするなんて、絶対に許せないぃぃぃ!」
ポロンジョは、怒りの叫びをあげた。
「ポロンジョ様、あんな奴ら、やっちゃいましょうよ! 例のものを試すに、ちょうど良いですよ」
「そうでヤンス! ぺっちゃんこにするでヤンス!」
部下のトヤッキー、ボンズラーが、煽る。
「そうだね。舐められたまま、引き下がるわけにはいかない! 奴らのクランを蹂躙してやるか!
お前たち、やるよ!
今夜にでも、宴といこうじゃないか!
グリム……ツリーハウスクラン……もう終わりだぁぁぁ!」
「ヒョッヒョッヒョッヒョ、お前たち、楽しいことをやっているねぇ」
「ひぃ、あ、『黒の賢者』様、相変わらず突然現れるから、びっくりするじゃないですか!」
ポロンジョが、突然背後に現れた黒いローブの男に抗議する。
「許せ、ポロンジョ、驚かせるのが私の趣味なのだよ。ヒョッヒョッヒョッヒョ、今夜宴をするんだねぇ?
いいねぇ……。宴が盛り上がるように、いいものをあげよう。
もし困ったときに、これを使うんだよ。
きっと面白いものが飛び出すよ。
あと、これもあげよう。
例の装着者たちに、これもつけておくんだよ。
彼らがピンチになったときに、ポロンジョがこのボタンで発動させなさい。
すごいパワーアップになるよ。ヒョッヒョッヒョッヒョ」
「それは楽しみですねぇ、『黒の賢者』様。楽しい宴にします!」
「ああ、今夜のお披露目……楽しみにしていますよ。それでは」
「うわ、消えちゃいましたよ。いつも神出鬼没ですねぇ、ポロンジョ様」
「まったくでヤンス」
「さぁお前たち、宴の準備だよ! やぁぁっておしまい!」
「あいあいさ!」
「へいへいさ!」
ポロンジョたちは、夜の宴に向けての入念な準備を始めるのであった。
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