1114.ヘスティア王国の、第三王女。
クランのメンバーになった農家のおじいさん、バナボさんとの話を終えて、屋敷の入り口の方を見ると……超目立つ五人組がいた。
全身鎧を着た五人組だ。
掲示板を見て、歓声をあげている。
あれは……絶対に『ヘスティア王国』の第三王女のパーティーに違いない。
俺は声をかけ、中央のツリーハウスの前に出されているテーブルに腰掛けてもらった。
「はじめまして、このクランのマスターをしているグリムと申します」
「あの……クランに入れていただいて、ありがとうございます! 私は『守護炎の騎士』のリーダー、ファーネシーと申します」
第三王女と思われるファーネシーさんが、ヘルムを脱いで挨拶をしてくれた。
肩まで伸びたオレンジ色の髪が揺れている。
可愛く、そして優しい感じの顔つきの人だ。
残りの四人もヘルムを脱いで、頭を下げた。
みんな汗をかいている。
やっぱ暑いよね、全身鎧……。
だがそこはスルーし……
「あなたは、『ヘスティア王国』の第三王女殿下ですか?」
「そうです。ですが、配慮は無用です。私は皇位継承にも関係ありませんし、自分を磨く為に迷宮都市に来ています。一冒険者として接していただけると助かります」
「分りました。そうさせていただきます。実は……あなたに会わせたい人がいるのです。まぁ人ではないのですが……」
俺がそう言うと、ファーネシーさんは困惑した感じで、他の四人と顔を見合わせた。
俺は、「少し待っててください」と言って、一旦席を立った。
そして、昨日保護した『白金牛』のモバスチャンを連れてきた。
モバスチャンは、『ヘスティア王国』で儀礼用の荷引き動物として使われていて、王家の人たちに可愛がってもらっていたとの事だった。
特に第三王女とは、友達のように仲良しだったとのことだ。
「え、モバスチャン!? モバスチャンなの!?」
ファーネシーさんは、椅子から驚いて立ち上がった。
他の四人もだ。
「モーンッ」
モバスチャンちゃんが嬉しそうに、鳴きながら近づく。
「モバスチャン! モバスチャン、どうして!? あゝモバスチャン……」
ファーネシーさんは、モバスチャンの首に抱きついた。
涙を浮かべている。
周りの四人も駆け寄って、モバスチャンを撫でている。
「グリムさん、一体どうしてここにモバスチャンが?」
ファーネシーさんは、モバスチャンを撫でて、一言二言声をかけた後に、居住まいを正して、俺に尋ねてきた。
「実は……ある酷い貴族に、馬車を引かされ暴走させられていたところを、助けたのです。昨日の話です」
「え、なぜそんなことに?」
「馬車の暴走が危険だったので私が止めたのですが、駆けつけた衛兵隊の独立部隊の隊長が、この牛について教えてくれたのです。
儀礼用などで使われる珍しい牛だと聞いたので、何か事情があるのではないかと思いました。
そこで、ニアに確認してもらったのです。妖精族の秘技で、簡単な意思疎通はできますので」
もちろん妖精族の秘技というのは、いつもの誤魔化すためのキラーワードだ。
念話で話したとは言えないからね。
「え、動物と話ができるのですか!?」
「まぁ、ある程度はね」
ニアが、調子よく話を合わせてくれた。
「それで、『ヘスティア王国』から第三王女殿下に補給物資を届けるために来たということがわかったのです」
「え、補給物資……? それがなぜ変な貴族に使われ……? あ、他の者は!?」
「えっとねー、私が聞いたところによると、三日前に迷宮都市へ魔物が押し寄せた事件があったでしょ。
あの時に、ちょうど北門を出た街道の周辺まで来ていたらしいの。
それで、ワニ魔物たちの『連鎖暴走』に少し巻き込まれたみたい。
命からがら逃げたみたいなんだけど、魔法薬を全て無くしてしまって、回復ができなくて弱ってたんだって。
一日ぐらい休んでたみたいなんだけど、そこを盗賊に襲われてしまったみたいなの。
この子が覚えてるのは、そこまでで、他の人たちがどうなったかは、わからないみたい」
ニアが説明してくれた。
「そんなことが……。輸送部隊の者たちは、どうなったのでしょう?」
ファーネシーさんが、顔を曇らせた。
「わからないのですが……この牛に酷いことをしていた貴族は、昨日衛兵隊が逮捕してくれた。詳しく調べてくれると言ってましたから、後で確認してみます」
俺はそう答えたが、やはり不安そうな顔をしている。
「無事だと良いのですが……。私も、この後、衛兵隊に訊きに行ってもいいでしょうか?」
「もちろんです。独立部隊の隊長ムーニーさんに尋ねればいいと思います」
「分りました。確認してみます」
俺は昨日の戦車暴走について改めて説明し、それを止めた戦利品として、『白金牛』をもらった話をした。
だが本来の持ち主であるファーネシーさんに、返すつもりだと伝えた。
「いえ、そのままこちらでお世話してください。この子が人を傷つけたり、命を奪ったりする事態になったかもしれないのを、止めていただいたご恩があります。それに、私たちもこちらでお世話になりますし。この子も、ここで子供たちと過ごした方が、幸せだと思います」
ファーネシーさんがそう言ってくれたので、予定通りモバスチャンにはここにいてもらうことにした。
彼女たちの現状についても、少し話を聞いた。
中区に家を持っているそうだ。
さすが異国の王女だけあって、国王の配下が屋敷を用意してくれていたのだそうだ。
だが、迷宮からは遠い中区に家を構えられてしまって、迷宮に行くのに苦労しているとのことだ。
迷宮にたどり着くまでに、かなり時間がかかってしまうらしい。
これをきっかけに、『ツリーハウスクラン』に移り住みたいと言うので、もちろん了承した。
冒険者たち用の宿舎は、用意してあるからね。
中区の家は開けて問題ないのかと尋ねたら、国王からファーネシーさんに買い与えられたものらしく、傷まないように管理だけすれば、問題ないとのことだった。
中区の『東ブロック』の『上級エリア』に、あるらしい。
多分この迷宮都市で、 一番くらいに相場が高いところだろう。
さすが王女様だ。
だが、本人が買ったわけじゃないから、迷宮での活動を前提にしない、一般的な貴族の基準で選ばれてしまったのだろう。
中区からだと、馬車で移動するにしても、結構時間がかかって大変だよね。
そんな話を軽くしたら、鍛錬のために馬車は使ってないと言われてしまった。
はっきり言って、驚いた。
歩いたら……めっちゃ時間がかかると思うんだけど。
そして全身鎧だし……。
もしかして、めっちゃ速く歩けるのかな?
さらに訊くと……迷宮に行くのに何時間もかかるので、迷宮探索では、序盤にしか行けないらしい。
それゆえに、日帰りではなく、連泊して探索を続けることもあるのだそうだ。
迷宮内で野宿するのって、かなり危険だと思うんだけどなぁ。
迷宮から帰ったときには、みんなヘトヘトになっていて、家に戻らず迷宮近くの宿屋に泊まるらしい。
話を聞く限り、もはや家があまり機能していない……残念。
残念なことに、泊まりがけで迷宮に挑んでも、あまり奥のフロアまでは進めていないのだそうだ。
戦闘スタイルが守り重視なので、魔物を倒すのに時間がかかり、歩みが遅いらしい。
守り重視だからって、必ずしも倒すのに時間がかかるとは思わないけど、『タンク』と『アタッカー』しかいないから、攻撃の幅が狭いんだろうね。
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