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1112.ニアにあげたい、おじいさん。

「ちょっとおじいちゃん、ほんとに私に財産をくれるわけ? お礼なんていいのよ。やれることをやってるだけだし。本当の神様でもないのに、『妖精女神』なんて呼ばれてるんだから、当然のことをしてるだけなのよ!」


 ニアは、命を救われたことの礼として、財産を相続してほしいと言ってきたバナボさんに、そんな言葉をかけた。


「さすがニア様です。私にとっては神様です。

 あの時、私は死を覚悟していました。

 助かってしみじみ思ったのです……もし自分が死んだら、使用人たちはどうなるのか?

 奴隷というかたちになっていますが、よく働くありがたい使用人たちです。もう長い付き合いなのです。

 みんな助け合って仕事をする心根の良い者たちばかりです。

 ニア様、何卒引き受けてください」


 バナボさんは、膝をついたまま頭を下げた。

 まるで土下座のような感じになっている。


「まぁ考えなくもないんだけどさ……私個人が引き継ぐっていうのもねぇ……。

 クランに寄付してもいいって言ってたみたいだから、そっちのほうがいいんだけど。

 それ以前にさぁ、おじいちゃんもその使用人のみんなもさぁ、丸ごとクランに入っちゃいなよ!」


 ニアが、思案顔で言いつつ、最後にはパッと明るい笑顔を作った。


 もちろん俺も大賛成だ。


「……! ……わ、私どもをクランに入れてくれるのですか?」


 バナボさんは、予想もしない申し出だったようで、驚きで一瞬固まっていた。


「そうよ。クランに財産寄付するだけじゃなくって、一緒にメンバーになって楽しく過ごしましょ! 子供たちに、釣りとか教えてあげてよ!」


 ニアは、また笑顔を作った。

 こういう時のニアさんって、ほんとに女神みたいに見えるんだよね。


 バナボさんは、ニアを見つめたまま……肩を震わせている。


 目からは、涙がポロポロポロポロ落ちている。


「……ううっ、あ、ありがとうございます。身寄りもなく天外孤独な私が、大勢の子供たちと過ごせるんですね。

 ……こんな嬉しい事はありません、ううっ……。

 私が教えられることなら、何でも教えます。畑仕事でも、釣りでも、木工細工でも……ううっ。

 使用人たちも、喜びます。ほんとに、ほんとにありがとうございます」


 そう言って、バナボさんは泣き崩れてしまった。


 クランに誘ってもらえて、感動したようだ。


 俺も、涙が出てしまった。


 孤独な心に、暖かい火が灯ったようだ。



 バナボさんと十人の使用人の皆さんは、クランのメンバーになることになった。


 バナボさんと、これからの事について少し話をした。 


 バナボさんは、中区にある屋敷から、クランに引っ越してくることになった。


 本人の強い希望だった。


 『冒険者館』に、部屋はいっぱい作ってあるので問題はないのだが、普通に考えれば、今の家の方が広いしゆっくりできると思う。


 それでも、引っ越したいのだそうだ。

 せっかくメンバーに入れてもらうのだから、みんなと一緒に住みたいらしい。


 まぁ中区の屋敷と、このクランを行ったり来たりしてもいいわけだしね。

 クランの宿舎に住むからって、絶対にいなきゃいけないわけじゃないからね。


 バナボさんには、クラン農場の指導もお願いすることにした。


 本当は、クランの農業部門の責任者をお願いしたかったのだが、もう歳だからと固辞されてしまった。


 責任ある立場よりも、ゆっくりしてもらったほうがいいと考え直し、指導やアドバイスをお願いすることにした。


 子供たちに、釣りや木工細工を教えたいって言っていたしね。


 バナボさんは、『木工細工』スキルを持っているのだそうだ。

 収穫用の箱を作ったり、木製の茶碗やスプーンなども作れるらしい。

 玩具作りも得意なのだそうだ。


 『木工細工』スキルは、もちろん『絆』メンバーの『共有スキル』にはセットされている。


 俺たちも作ろうと思えば、スキルレベル10を活かしてかなりのものが作れるとは思うが……長年実際に作り続けている人の作品は、持っている味わいが違うと思うんだよね。

 ぜひ一度見てみたいものだ。


 子供たちと一緒に、木のおもちゃを作ったら楽しそうだよね。


 もしかしたら、将来子供たちの中から、腕のいい木工職人が誕生するかもしれないし。


 十人の使用人は、畑の前に作業場兼宿舎があるわけだが、できれば一緒に住まわせてほしいと頼まれた。

 もちろん了承した。


 クランのメンバーだという実感を持ってもらうためには、一緒に住んだほうがいいしね。

 楽しみも分かち合えるし。


 今のところ毎食、子供たちと一緒にバーベキューなのだが、それだけでも、毎日キャンプしているみたいで楽しいからね。



 そして申し出通り、広い農地と作業場兼宿舎は、クランで使わせてもらうことになった。


 中区にある自宅は、今は一人で住んでいるのだそうだ。

 身の回りの世話をする使用人は、雇っていないらしい。

 自分のことは自分でやっていると笑っていた。


 もし自分が死んだら、その屋敷はニアか俺に相続してほしいとお願いされてしまった。


 そして、今後何か使う用途があるなら、遠慮せずに使ってほしいと言われた。


 敷地面積は、それほど広くないが、中区の『東ブロック』の『下級エリア』にあって、角地なので、ちょっとしたお店はできると言っていた。


 バナボさんが若かかった頃には、通りに面した一画を改造して、八百屋をしていたらしい。

 畑で採れたものを、自分で直接売ることもやっていたのだそうだ。

 ちょっとした直売所っていう感じなのかもしれない。

 今は、取引のある商会に全部出しているとのことだったけどね。


 野菜を納品している商会は、引き続き買い上げてくれるので、今度紹介してくれるとの事だ。


 それからお茶の製茶をしてくれる商会もあって、紹介してもらえることになった。


 バナボさんの畑には、お茶の木があるがお茶の加工場は持っていないとのことだ。


 葉を収穫して、製茶ができる商会に買い取ってもらっているのだそうだ。


 その商会は、主に紅茶を作っているらしい。


 迷宮都市で流行っている『黄色紅茶』も、作っているそうだ。


 『黄色紅茶』は、いわゆるお茶の木とは、違う種類の木の葉を使っているようだ。

 紅茶、ウーロン茶、緑茶などは、同じ茶の木の葉っぱを使っていて、製茶の方法が違うだけなのだが、『黄色紅茶』は木が違うらしい。

『黄色杜仲』という木の葉なのだそうだ。


 なんとなく……元の世界にあった杜仲茶を作る杜仲の木の異世界補正版のような気がするが……。

 ……健康にも良さそうだな。


 杜仲の木は、確か葉は健康茶になるし、皮は漢方薬になったはずだけど……。




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[一言] > 本当は、クランの農業部門の責任者をお願いしたかったのだが、もう歳だからと固辞されてしまった。 > 責任ある立場よりも、ゆっくりしてもらったほうがいいと考え直し、指導やアドバイスをお願いす…
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