1106.ニアが、相続人?
見た目は四歳児中身は三十五歳の自称……元バリバリのキャリアウーマン……ハナシルリちゃんの密かな提案により、クランに賛助会員制度を作ることにした。
クランの趣旨に賛同し、支援をしてもらうサブメンバーである。
賛助会員になった人からは、いくらかクランに対し金銭的な支援をしてもらう必要があるので、みんなと打ち合わせをして概要を決めた。
入会金を一万ゴルとして、賛助会費として毎月一口三千ゴル支援してもらうという運用にした。
賛助会費は毎月かかるわけだが、一口三千ゴルで余裕がある人は、何口か払ってくれるということになるだろう。
大々的に賛助会員を集めるつもりはないので、総額としては大きな金額にはならないと思うが、クランの運営資金の助けとなるだろう。
それに、クランに関わりたいと思ってくれている人にとっては、喜んでもらえる制度ではないだろうか。
それから、ただお金をもらうだけでは申し訳ないので、賛助会員の人たちも含めたクラン全体の食事会を、月に一回行うことにした。
親睦も図れるし、クランに参加できているという実感も持ってもらえるだろう。
そして俺としては、その食事会を、新商品の試食会としても運用しようと思っている。
いわゆるテストマーケティングだ。
食べた人の反応が見れるし、変わったものが食べられて、みんな喜んでくれると思うんだよね。
それから元怪盗イルジメで、後天的覚醒転生者のオカリナさんからの提案も、面白かったので採用した。
それは……賛助会員はいつでもクランを訪れることができて、その時にやっていることに参加できるというものだ。
例えば、子供たちと一緒に『護身柔術体操』をやったり、剣術の訓練をやったり、農場に行って鶏の卵を拾ったり、子供たちと食事やおやつを食べたり、という具合だ。
もちろん子供たちだけではなく、その時に冒険者がいれば、その人たちと話をしてもいいわけだし、何なら食事を一緒に作ってくれてもいいわけだ。
こういう“一緒になってやれる”ことが喜びになると、オカリナさんがノリノリで提案してくれたのだ。
オカリナさんは悪乗りしたのか、最終的には……ロッカーとかを備えたクラブハウスを作ってあげたら、賛助会員の人たちが喜ぶとかわけのわからないことを言っていた。
完全にフィットネスクラブのノリになっていると思ったのだが、苦笑いしつつスルーしてあげた。
まぁそういう着替えとかができる場所を作ってあげてもいいけどね。
一緒に汗を流したりっていうことが、あるだろうからね。
それに大きなお風呂を作ってあるから、そのお風呂に入れるなら喜んでもらえそうだしね。
なんとなく……一瞬、異世界でフィットネスクラブをやっても面白いかもと思ったが、冷静に考えたら需要ないよね、多分。
ただ……痩せたいとか、健康になりたいとかじゃなくて、護身術を習うとかだったら、需要はあるかもしれないけどね。
まぁ健康になりたいというのも、貴族とかには需要があるかもしれないけど。
クランに面接に来た人の中で、冒険者以外の人で他に特筆すべき人がいるか尋ねたところ、変わった老人が一人いたという報告があった。
七十五歳のおじいさんが来たというのだ。
一昨日の魔物の襲撃事件の時に、中区で大怪我を負い、瀕死のところをニアに救われたと言っていたそうだ。
そのおじさんは、跡継ぎも身寄りもなく天涯孤独なので、ニアに自分の財産の相続人になってほしいと話していたらしい。
てか……クランの面接っていったい?
なんでこんなに色んな人が来てるわけ!?
……まぁいいけどさ。
おじいさんは畑が南区にあって、定期的に訪れているのだそうだ。
冒険者たちの人混みを見て、話を聞いて、クランの面接のことを知ったらしい。
「相続人なんて、面倒くさいの嫌なんだけど」
ニアは、軽く言った。
いつもお宝発見とか、そういう感じの時は、目をドルマークにさせるのに、相続にはあまり興味がないようだ。
「ニア様がそうおっしゃるかと思って、私も断られる可能性が高いと言ったのですが……その場合は、自分が今住んでる家以外の財産を、このクランに寄付するとまで、話されていました」
説明してくれたのは、面接を実際に担当した第一王女のクリスティアさんだ。
クリスティアさんは、思わぬ申し出に、何か裏があるのではないかと思い、密かに『強制尋問』スキルを発動ながら話を聞いたらしい。
純粋に感謝の心からの申し出だったそうだ。
中区に持っている屋敷以外の財産の内容も聞いてくれていた。
南区の『西ブロック』の『農業エリア』に、私有の農地を持っているとのことた。
そして、そこに隣接する『下級エリア』に、作業場兼使用人の宿舎となる屋敷も持っているのだそうだ。
『農業エリア』に持っている農地は、かなり広いらしく区画ブロック六つ分もあるらしい。
俺が、『ツリーハウス屋敷』の前に持っている農地は、区画ブロック一つ分なので、その六倍になる。
ちなみに一つの区画ブロックは、結構広い『ツリーハウス屋敷』の敷地の六倍の面積である。
その農地は、『ツリーハウス屋敷』の農地の北側に隣接してるのだそうだ。
もちろん道を挟んでではあるが。
それを起点に更に北側にもう一ブロックあって、西側に三ブロックづつ広がっているのだそうだ。
二✖️三で合計六ブロックということだろう。
西側に広がっている区画ブロックは、俺たちの林の北側に位置することにもなるので、道を挟んで隣接している。
作業場兼使用人宿舎も『ツリーハウス屋敷』がある区画ブロックの道を挟んだ北隣にあるそうだ。
凄く近い。
ここを目指していたから、冒険者の集団を見つけてクランの情報を聞くのができたのだろう。
農地の中には、大きな池があって魚も釣れるのだそうだ。
おじいさんは、使用人を使って野菜や果物を栽培し、池から釣った魚も販売しているとのことだ。
ただお店は持っておらず、取引のある商会に出荷しているとのことである。
趣味が魚釣りで、畑の様子を見がてらその池でいつも釣りをしているのだそうだ。
今働いている使用人たちも含めて寄付すると言っていたらしい。
少し違和感を感じたので、クリスティアさんに確認したら、奴隷を購入して働いてもらっているということのようだ。
奴隷は、購入者の財産という扱いだから、そういう表現になったのだろう。
ただ、クリスティアさんの話では、そのおじさんはいい人で、使用人として働かせていて、給金を払っているのだそうだ。
彼らがいれば、自分が寄付してもニアが運営に困ることもないし、使用人たちも仕事が続けられると話していたとのことだ。
ちなみに奴隷として購入した使用人の数は、十人だそうだ。
面積がかなり広いのに十人でやれるのかと、ふと思ったが、この点もクリスティアさんが確認していた。
野菜は、手間のかからない芋類が中心であることと、果樹の割合が多いので、何とかやれていると言っていたそうだ。
果樹は、梨、栗で、茶の木も植わっているらしい。
クランに農地や作業場を寄付しても、自分には蓄えがあるから、中区にある家だけあれば問題ないと笑っていたそうだ。
魔物の襲撃で負傷し死を覚悟し、残される使用人たちが心配になったらしい。
それで、今後のことを決めておこうと思っていたところだったのだそうだ。
終活と言うことなのかもしれない。
「その方の申し出を受けるかどうかは別にして、一度会って話してみたら? 場合によっては、クランのメンバーになってもらえばいいんじゃないかな」
俺がそう言うと、
「そうね。そうしてみましょう。別にお礼なんていいのにね」
ニアは、まんざらでもない顔をした。
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