1086.親心で、大量発注。
「この『マジックタクト』なんですけど、魔法を覚えたい人の訓練用の道具としても使えるんですよ!」
魔法道具店の店主孫娘で、感じの良い店員さんのアイムちゃんが、そんな説明をしてくれた。
この指揮棒のような魔法の杖は、魔法道具である割に五万ゴルと格安だ。
それに興味を持った俺は、素材について教えてもらったのだが、そんな情報もくれたのだ。
訓練用の道具として使えるのは、かなりいいと思う。
というか……むしろ魔法スキルが発現した『魔法使い』ポジションの人が使う魔法の杖としては、効果が低すぎるのではないだろうか。
ここで販売している様々な大きさ、形状の魔法の杖は、どれも魔力効率を高めたり、魔法の威力を高めるという魔法を補助する機能の杖だ。
その中で一番効果が低いのが、この安い杖だと思う。
むしろ練習用という使い方が、主だったりして。
まぁそれはさておき、訓練で使えるというのはいいね。
使い方を訊かなきゃ。
「どういう風に訓練するんですか?」
「魔力は、誰にでもあるわけですが、体を魔力が流れている感覚って、感じづらいんですよ。でもこの『マジックタクト』を持って集中すると、感じやすくなるんです。それをずっと続けていると、魔法スキルが発現しやすくなると言われているんです」
「そうなんですか!?」
それって凄くない?
「ただ実際は、かなり難しいのです。根気よく続けなきゃいけないので、途中で辞めちゃう人が多いです。根拠がない説だって言ってる人もいますし……」
アイムちゃんは、微妙な顔しているが……かなり良い情報だと思う!
少しでも魔法スキルが発現しやすくなる可能性があるなら、やったほうがいいよね。
確かに毎日コツコツと長い時間集中するのって、大変だし続かなくなるだろうけど、少しの時間なら遊び感覚で、できるんじゃないだろうか。
それに、一人だと続かなくなるかもしれないが、クランの子供たちなら、みんなで一緒にやるから続くだろう。
「あの……この『マジックタクト』は、在庫は何個ぐらいあるんですか?」
「えーっと……ここに出てるのが……二十個で、ストックが三十ありますから、五十個あります」
「それ全部買ってもいいですか?」
「え、全部ですか!?」
「はい。もしご迷惑でなければ、ぜひ売って欲しいのですが……」
クランの子供たちに、プレゼントしようと思う。
もちろん全部買わなくても、俺の『波動複写』でコピーすれば、いくらでも作れる。
だけど、それは俺の中での禁則事項だ。
真面目に商売をしてる人たちに対して、申し訳ないからね。
職人さんが、己の技を磨いて頑張って作った商品を、勝手にコピーして使うなんて事は、やりたくない。
人に販売するなんてもってのほかだし、自分の仲間たちで使うとしても良くないと思っている。
普通に手に入らないようなものは、しょうがないからコピーして使う事はあるけど、普通に流通しているものは、正規の対価を払って、堂々と手に入れたほうがいいのだ。
「ええ、大丈夫ですけど……ほんとに全部ですか?」
「はい」
「分りました。ありがとうございます」
「あの……もしできればなんですが、追加で六十個欲しいんですけど、手に入りますか?」
「え、追加で六十個ですか!? 全部で百十個ですか?」
「はい。実は私のクランに子供たちが百人以上いまして、その子供たちにプレゼントしようと思っているのです」
保護した子供たちは九十九人だったが、新たに加わった狼亜人の姉妹エクセちゃんとセレンちゃん、狸亜人のポルセちゃんを入れれば百二人だからね。
「……そうなんですか……。わかりました。何とかします。任せてください!」
アイムちゃんは、そう言うと慌てて奥に入っていた。
マドグさんと相談するのだろう。
一つ五万ゴルだから合計五百五十万ゴルになるが、問題は無い。
また迷宮に入って稼げばいいし。
そもそもお金はあるしね。
この迷宮都市に来て倒した魔物を販売しただけでも、かなりの金額になるはずだ。
ただギルド長に頼まれて、一気には売れないから換金性は低くなっているけどね。
まぁ気持ち的には……使った分をまた迷宮で稼ぐという感じで頑張った方が、やりがいがあるのだ。
迷宮都市での生活の収支だけで、黒字になるように頑張ろうと思う。
しっかり記録をつけて、励みにして頑張るつもりだ。
次は、魔法の水筒を見てみよう。
よく考えたら……迷宮に挑むのに、パーティーに一つは欲しいよね。
これも、今後冒険者デビューする子たちのために、買ってあげよう!
そんな俺の心を見透かしたのか、ニアさんがジト目を向けている。
過保護だって言いたいんだよねー……。
わかってますとも。
でもさぁ……もう親心みたいな感じになっちゃってるから、しょうがないでしょうよ。
魔法の水筒は、皮でできた袋みたいな形状になっているものが多い。
『下級』階級なら、二十万ゴルからあるみたいだ。
前に『闇オークション』に参加したときに、『魔法の水筒』も出品されていて、確か六十万ゴルで落札されていたと思う。
あれはかなり程度が良かったし、『階級』も『中級』か『上級』だったと思う。
長旅をするわけじゃなく、迷宮に入ったときに飲むだけだから、『下級』の水筒で充分だろう。
これならニアさんも、認めてくれるんじゃないだろうか。
そう思いながら、『下級』の水筒を持って、ニアを見たら……しょうがないという感じで、ジト目を解除してくれた。
「アイムちゃん、すみませーん」
奥のストックルームらしきところで、作業していたアイムちゃんに来てもらった。
そして、在庫として置いてあった『下級』の水筒十個をまとめ買いした。
アイムちゃんは、またも在庫を全部買ったことに驚いていたが、喜んでくれていた。
よく考えたら、すぐに十個使うわけじゃないから、二個とかでも良かったかもしれない。
わけのわからない大人買いをしてしまった感がある。
テンションが上がっちゃってるんだよね。
まぁこれから入ってくるであろう駆け出し冒険者は、多分持ってないだろうから、無駄にはならないはずだ。
決して無駄遣いではないはずだ。オホン。
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