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1031.再会の、涙。

 クラン発足に関する説明など一通りの予定を終えた俺は、みなしごたちのリーダーで、男装の美少女ツリッシュくん(ちゃん)を個室に呼び出した。


 ツリッシュくんと、ゆっくり話をするためだ。


 実はその前段階として、吟遊詩人で、『アルテミナ公国』の元王女であるアグネスさんと連絡をとっていた。

 もちろん念話でだ。


 ツリッシュくんのフルネームが、 ツリーシュベル=クレセントであり、苗字があることから『アルテミナ公国』の貴族なのではないかと考えた俺は、アグネスさんに確認したのだ。

 そして、ツリッシュくんの出自はすぐにわかった。


 ツリッシュくんのフルネームを聞いたとき……アグネスさんは、絶句していたのだ。


 詳しい話を聞いたところ……クレセント家というのは、代々『アルテミナ公国』で将軍ひいては大将軍を輩出していた名門伯爵家なのだそうだ。

 大将軍をしていたツリッシュくんのおじいさんと、将軍をしていたお父さんの計らいで、クーデターが起きた時アグネスさんとタマルさんは逃げ伸びることができたのだそうだ。


 そして後から知ったことらしいが、その時に二人は命を落とし、家族を含めた一族は皆殺害されたということだったらしい。

 ツリッシュくんも、当然死んだと思われているようだ。


 そんな事情があるから……性別を偽って男の子として生きているのだろう。

 そして自分の両親や一族を皆殺しにされたのだから、現在の公王を始め貴族たちに対して、憎しみを抱いているのだろう。

 その気持ちは、察して余りある。

 だからあれほど、貴族に対して拒絶反応を示したのだ。


 ツリッシュくんは現在十三歳で、クーデターが起きたのは七年前だから、当時は六歳だったことになる。

 詳しい状況を理解していたと思えないが、おそらくツリッシュくんを保護した人が、その当時の状況を大きくなってから教えてあげたのだろう。


 アグネスさんは、幼いツリッシュくんとよく遊んであげたらしく、その当時のツリッシュくんも懐いてくれていたのだそうだ。

 ツリッシュくんのおじいさんの大将軍は、その当時アグネスさん(まぁ当時はトワイライトさんだったわけだが)と、すでにパートナーだったタマルさんを鍛えてくれた武術の師匠でもあったようだ。

 ちなみに『護身柔術』だけは……『アルテミナ公国』を脱出してから、知り合った達人に習ったらしい。


 アグネスさんに、すぐにツリッシュくんに会いたいと懇願されたので、密かに、転移で来てもらって別室に控えてもらっている。


 アグネスさんとタマルさんが来ていることは、俺の仲間たちしか知らない。

 クランの他のメンバーに見られないように、俺たち用の屋敷に、転移用の隠し部屋を作ったのだ。

 そこに転移してくれば、誰にも見られないで済むのである。

 まぁこの情報は、いずれ子供たちを含めたクランのメンバーには解禁してもいいんだけどね。



 ツリッシュくんには、まず俺の方で話をして、その後アグネスさんたちに引き合わせようと思っている。

 突然のことに驚いて、またツリッシュくんが心を閉ざしたら大変だからね。


「ツリッシュくん、申し訳ないんだけど……俺のスキルで、君のステータスを見させてもらったんだ」


 そう言った瞬間、ツリッシュくんは後方に飛び退いて、ファイティングポーズをとった。

 やはり警戒してしまった。

 でもこの用心深さというか……戦う意思のようなものは、すごい。


「大丈夫、何回も言うけど、君に危害を加えるつもりはないよ。守りたいんだ。君が女の子であることも、知っている。そして元貴族であることも。よかったら話してくれないか?」


 俺は、優しく諭すように語りかけた。


「………………」


 ツリッシュくんは、固まっている。

 突然のことに、思考停止している感じだ。

 今飛び退いてファイティングポーズをとったのも、反射的なものだろう。


 今までだったら、「うるさい」とか「信用できない」とか言っていたと思うが、さすがに少しは、俺のことを信用してくれているのだろう。


 うーん、何かきっかけが欲しいところだよね。

 予定より早いが……登場してもらうか。


「実は……君に会わせたい人がいるんだ。アグネスさんお願いします!」


 俺は、ツリッシュくんに伝えた後、扉の前で待機してくれているアグネスさんに声をかけた。


 すぐに扉を開けて、アグネスさんが入って来た。

 タマルさんも一緒だ。


 二人とも、すでに大粒の涙をいっぱい流している。


 二人は少し手を広げながら、ゆっくりと近づいていく。

 ツリッシュくんは固まりながらも……え、目から涙を流している。

 もしかして、覚えているのだろうか……?


 ツリッシュくんの涙を見て、アグネスさんはぐっと近づいてそのまま抱きしめた。

 ツリッシュくんは、固まったままだが、むせ返るように泣き声を上げた。 


「あぁ……ツリーなのね。お、覚えてる? トワイライトよ。あぁ生きていてくれて、ほんとによかった。生きていてくれてありがとう……ううっ」


 アグネスさんが必死で声をかけ、そして嗚咽している。

 その言葉を聞いて、ツリッシュくんも嗚咽している。

 やはり、アグネスのことを覚えているようだ。


「ト、トワイライト様……、い、生きて……生きていたんですかぁ、うううっ」


 ツリッシュくんは、泣きながらも声を絞り出した。


「そうよ。あなたのおじいさまとお父様のおかげで、私とタマルは逃げることができたの……」


 アグネスさんは、ツリッシュくんを強く抱きしめた。


「ツリー、ほんとに……生きててくれてよかった。こんなに痩せて……どんなに苦労してきたことか……」


 今度はタマルさんが、ツリッシュくんとアグネスさんを包み込むように抱きしめた。


「タ、タマルお姉ちゃん……、ううっ、わぁぁぁぁぁん」


 ツリッシュくんが立ち尽くしたまま、子供らしく大声を上げて、感情のままに泣いている。


 なにか……大量の涙が……冷たく閉ざした心を溶かしているようだ。







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