1019.ツリーハウス、クラン。
「『クラン』を作るには、どういう手続きが必要なんでしょうか?」
『クラン』を作る決意をした俺は、手続きについてギルド長に確認した。
「『クラン』というのは、プライベートギルドで自由に作るものだから、基本的には手続きはいらない。名前をつけて、勝手に『クラン』と名乗れば良いのじゃ。
だが、『冒険者ギルド』に『クラン』を作ったという届け出を出してくれれば、登録をしておくことができる。
これによって、公的ギルドが認めたプライベートギルド『クラン』であるという裏付けというか……証明のようなものにはなる」
「なるほど、そういうことなんですね。必要は無いけど、『冒険者ギルド』に登録しておけば、何かあったときの存在の証明にはなるということですね」
「そうじゃ。ただし『クラン』登録をする場合……『冒険者ギルド』では、二つ以上の冒険者パーティーがいないといけないのじゃ。じゃから、おぬしが登録している『シンオベロン(仮)』というパーティー以外に、もう一つ必要なのじゃ」
「そうなんですか……」
言われてみれば、そうかもしれない。
勝手に『クラン』を作って名乗ってる分には、単独のパーティーでもいいかもしれないが、正式に『冒険者ギルド』に登録するとなると、二つ以上のパーティーがいなければ、普通のパーティー登録と変わらないからね。
でも他にパーティーなんていないしなぁ……。
「その点は問題ありませんよ。私の息子たち『美火美』は、絶対にグリムさんの『クラン』に入りたいと思っていますから。スポンサーである私の権限で、書類にサインしても大丈夫なくらいです!」
メーダマンさんが、声を弾ませた。
ほんとに大丈夫なのかと耳打ちしたが、「大丈夫です」と嬉しそうに答えた。
「そうかい、それじゃ今登録していきな。そのほうが面倒くさくなくていいじゃろう」
なぜかギルド長もノリノリだ。
そして、俺の担当になってくれているリホリンちゃんを呼んでくれた。
「グリムさん、メーダマンさん、おはようございます。私が呼ばれたということは……何かあるんですね?」
早速ギルド長室にやってきたリホリンちゃんが、嬉しそうに声を弾ませている。
なぜ喜んでいるのか、いまいちわからないが。
ギルド長は、リホリンちゃんに、俺が『クラン』を作ることを説明して、手続きを指示してくれた。
「やっぱりそうなんですね! そんな内容じゃないかと思ったんですよ!
早速『クラン』を作ってくれるなんて、すごいです!
もうグリムさん達の人気が、冒険者の間で凄いんですよ!
私が担当だって知った冒険者たちが、私を捕まえていろいろ訊いてくるので、仕事にならないほどなんですよ。
『クラン』を作る気は無いのかって、いろんな冒険者に訊かれちゃいました」
「すみません。なんか仕事のご迷惑になってるみたいで……」
「いえいえ、いいんです。担当者冥利に尽きると言うものです!」
「ワッハッハ、もうそれほどの騒ぎになっておるのか。これは、『クラン』を作ったと発表すれば、確実に大騒ぎになるのう」
「そうですね。まぁ大変なのは、グリムさんですけどね。
『冒険者ギルド』でクラン登録をしたら、掲示板にその旨を貼り出すことになってますから、グリムさんの『クラン』に入りたいっていう冒険者が押し掛けるかもしれませんよ」
「そんなことになりますかねぇ? あまり一気に押し寄せられても困るので、できれば内密にしてもらうと助かるのですが……」
「ワッハッハ、それは無理じゃな。規定で、貼り出して周知することになっておるからのう。
どっちにしろ……どこかから情報が漏れるじゃろうから、小細工は無駄じゃな、ワッハッハ」
ギルド長が、すごく愉快そうだ。
完全に楽しんでいる。
俺は「わかりました」と言って、苦笑いするしかなかった……トホホ。
本当に希望者が押し寄せてきたらどうしよう?
何を基準に、ふるいにかければいいんだろう?
それとも……無理にふるいにかけないで、希望する人は全員受け入れてあげるか……。
もちろん悪意を持った人などは、受け入れないけどね。
でもやはり、ここは慎重に考えるべきだな。
「今ある『クラン』は、冒険者パーティーがいくつぐらい集まっているのでしょうか?」
俺は考えを整理するためにも、質問をした。
「うむ、それは……ピンキリじゃのう。現状、まともに『クラン』として機能しておるのは、五つくらいじゃよ。
希望者を無尽蔵に受け入れても、『クラン』の中核になっている強い冒険者たちには、あまりメリットがない。
だから、実力のあるパーティーに絞って、三つとか五つとかのパーティーが集まっているというのが一般的じゃな。
あと悪質な『クラン』は、若い冒険者たちを受け入れて、下働きでこき使ったり、ひどい扱いをしているところもある」
「そうなんですか。ところでそんな酷い『クラン』には、何か措置はできないのでしょうか?」
「本当ならしたいところじゃが……『クラン』はあくまで私的な組織じゃから、内部の事には口出しできんのじゃ。
『冒険者ギルド』も、登録を受け付けているだけじゃからのう。
冒険者パーティーの中の揉め事に、『冒険者ギルド』が口を出せないのと同じ理屈で、『クラン』内の揉め事にも口を出せんのじゃ。
もちろん、その中で犯罪行為が行われていれば別じゃが。そうなれば、登録も取り消せるしのう。
ただその時は、もう衛兵の管轄になるがな」
「そうなんですね。若い冒険者たちを、多く受け入れたら、何か問題がありますか?」
「いや、それはかまわん。ワシとしては願ったり叶ったりじゃ。十でも二十でも、百でもかまわんぞよ。ワッハッハ」
ギルド長が、本気で期待するような笑顔で目を輝かせた。
さすがにそんなには受け入れられないと思うが……。
まぁ人数の制限はないということなのだろう。
純粋に私的な組織だから、当然と言えば当然かもしれないが。
でも、無尽蔵に受け入れたら、めちゃめちゃ大所帯になって、訳が分からなくなりそうだなぁ。
やはり何か基準を作って、ふるいにかけたほうがいいかなぁ……。
というか……冷静に考えると、すでに子供たちだけで九十九人いたんだった。
それに俺たちや子供たちの面倒を見てくれるバーバラさんやスタッフの人たちを入れたら、軽く百人越えの『クラン』になる。
もうめちゃめちゃ大所帯じゃないか……。
「グリムさんは、ほんとに凄いんですね。冒険者登録したばかりなのに、もう『クラン』を作るなんて。
とりあえず『シンオベロン(仮)』と『美火美』で登録しておきます。
今後、冒険者パーティーが増えれば、随時連絡してください。その都度登録します。
冒険者でない子供たちとか他のスタッフについては、特に届け出ていただく必要はありませんが、今後何かあった時のために万全を期すのであれば、名簿を一覧にしてつけておくことをお勧めします」
リホリンちゃんが、早速手続きに入ってくれた。
「分りました。じゃぁ後で用意します」
「あと必要なのは、『クラン』の名前です。今手続きを完了させるには、名前が必要ですがどうしますか? もちろん後から変更することも可能ですから、仮の名前でもいいですよ」
「そうですか……うーん、思い浮かばないので……とりあえず……ツリーハウスにしてください」
「分りました。ツリーハウスクランですね。かわいい感じでいいですね!」
突然名前を決めてと言われても、名づけセンスのない俺にいい名前が思い浮かぶはずもなく……ツリーハウス屋敷を『クラン』の本拠地にしようと思ったので、思わずツリーハウスという名前にしてしまった。
まぁ後から変更できるからいいだろう。
それから……『クラン』の紋章があると、いろいろ便利だと思ったので、紋章も考えて作ってしまった。
ずんぐりした二本の木が手を繋いでいて、その上に家が乗っているデフォルメした感じの可愛い紋章だ。
仮の名前ということで、ツリーハウスにしたのだが……ノリで紋章まで作ってしまって、なんとなく、この名前に確定してしまいそうな感じだ。
まぁいいけどさ。
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