1008.ツリーハウスに、住みたい!
俺たちは、南区に戻って来た。
ここにも引き継ぐことになった『トリドリ商会』の店舗がある。
それと倉庫と会頭さんの屋敷もある。
それから、メーダマンさんがリストアップしてくれている俺の拠点の候補物件もある。
この南区が、本命なのだ。
『トリドリ商会』のお店は、南区の『西ブロック』の『中級エリア』にあって、北区で見てきた店舗と同じ作りになっていた。
同じ『西ブロック』の『下級エリア』には、大きな倉庫兼事務所があって、その隣には亡くなった会頭さんの奥さんが今も住んでいる屋敷があった。
倉庫は、二階建てで二階部分が事務所になっている。
屋敷は、メーダマンさんの屋敷と同じ位の敷地面積で、築年数が古いようだが特に問題はなさそうだ。
倉庫兼事務所も屋敷も、外観を見ただけで内見はしていない。
この屋敷を、俺の拠点にしてもいいかもしれない。
でも一応、メーダマンさんがリストアップしてくれている候補物件も見に行くことにした。
同じ『西ブロック』の『下級エリア』にあるが、今見た屋敷とは違う区画にあるそうだ。
だが同じ通りに面しているので、距離は結構近いらしい。
『下級エリア』のさらに西側にある『農業エリア』と、道を隔てて面している場所でもあるようだ。
『冒険者ギルド』や迷宮の入り口とは若干離れているが、歩けないというほどの距離ではないとのことこだ。
メーダマンさんによれば、その物件を選んだポイントは、広い面積が確保できることと、西側の『農業エリア』の土地も購入しようと思えば購入できるからということだった。
将来的に、俺が農地も欲しいと考えるのではないかと見越してくれたらしい。
そんな予定はなかったが……改めて考えてみると、農地を必要とする可能性も確かにある。
ギルドの酒場に納めるためにも、できれば迷宮都市でリーフレタスの生産を始めたいからね。
国の管理に入っていない個人所有の畑を持ってる農家さんが生産を協力してくれればいいが、都合よく見つかるかわからないし。
メーダマンさんが物件を選んだ理由がもう一つあって、多分俺が喜ぶだろうからというものだった。
何かと尋ねたが……見てのお楽しみと言われた。
そして実際に到着すると……確かに俺は喜んでしまった!
めっちゃ気に入ったのだ!
メーダマンさんは……完全に俺のツボを読んでいた。
もうここを買うことを決めてしまったのだ!
それは何故かというと……ツリーハウスがあったからだ!
しかも、ただのツリーハウスではない。
初めて見る形なのだ。
まぁツリーハウス自体、実物を見たことは無かったけどね。
元の世界にいた時に、イラストや写真などで見た程度だ。
でもツリーハウスに憧れていたんだよね。
ここにあるツリーハウスは、敷地の真ん中位に大きな木が二本生えていて、手をつなぐように枝が交わっている。
まるで“連理の枝”だ。
種類はわからないが、特別な木のようだ。
幹がかなり太いのだが、高さはそれほどなく、ずんぐりした形の可愛い感じの木なのだ。
まるで『トレント』が両手を広げているように、太い枝が横に開いている。
その枝同士が絡み合っていて、そこに家が乗っているのだ。
二本の木それぞれの後には、幹に接する形で平屋の家が付いていて、縦長に二つの家屋が並走する形になっている。
そして奥にある横長の家屋とくっついている。
二本の木のそれぞれの後ろから縦長に家屋が始まり、横長の家屋と一体となったコの字型になっているのだ。
なかなかに面白い作りである。
どうも地上に建っているコの字型の建物が母屋で、枝の上に乗っているのは離れ家という感じみたいだ。
母屋の屋根は、屋上のようになっていて登ることができ、そこから枝の上にある離れ家に階段が伸びている。
敷地自体も結構広く、『マグネの街』で俺が最初に手に入れた屋敷より広い感じだ。
ツリーハウス以外の建物はなく、ほとんどのスペースが草ボーボーだ。
しばらく人は住んでいなかったようだ。
通りから見ると、敷地は横長の長方形になっていて、そのほぼ中央に二本の木とツリーハウスがある。
そして、そのさらに左右に同じ位のサイズの木が一本ずつある。
この左右の一本ずつは、中央の二本からは少し距離があるが同じライン上に植わっている。
通りから見ると、同じ位のサイズの木が横に四本並んでいるのだ。
ただ等間隔に四本並んでいるのではなく、真ん中の二本だけが隣接しているかたちになっている。
「メーダマンさん、おっしゃる通りここが気に入りました。ここを購入したいと思いますが……」
「そうですか! それはよかったです。そうなるような気がしました。早速手続きします。それから……この屋敷の正面にある『農業エリア』の区画が、一区画分まるまる販売できるそうなんですけど、どうしますか?」
「それも購入します」
目の前の農地は、区画ブロック丸ごとだからこの屋敷の六倍ぐらいの面積だ。
現在は使われていないようだ。
この農地の更に奥……西側には小さな林がある。
農業エリアの中に、ぽつんと林があるが、木を伐採するために所々に作ってあるらしい。
そしてそこには……いろんな木が生えている。
俺は、あるものを発見した。
赤い実がついているのが、ここからでもわかる。
あれはおそらく……柿だ!
めっちゃ柿が食べたくなってきた……。
「メーダマンさん、あの奥にある林も購入することができるでしょうか?」
柿を食べたいというだけで林を買うのは、ぶっ飛んだ発想だが思わず訊いてしまった。
「あの林ですか……? 確認しておきます。ちなみにこの屋敷は二千五百万ゴルで、農地は六倍の面積ですが同じく二千五百万ゴルと言われています。まぁ農地なので、本来はもう少し安くなってもいいと思うんですけどね。もちろん値段交渉には応じてくれると思いますが」
「分りました。では手続きをお願いします。値段交渉もできる範囲で構いません」
「じゃぁ明日の朝にでも行ってきますよ。そうだ、よかったら一緒に行きませんか? 『商業ギルド』にも紹介したいですから」
「そうですね。じゃぁそうしましょう」
これで今日予定していた物件の現地検分は終わった。
俺は引き上げる前に、目の前の林を見ていくことにした。
購入できるかどうかわからないけど……どんな柿なのか確認したいんだよね。
本当は獲って食べたいところだが……。
メーダマンさんの話では、おそらく放置されている林だから、柿の実の一つや二つ食べても怒られないだろうとのことだ。
ちょっと味見させてもらおうかな……。
林に着くと……離れたところから見ていたよりも、結構鬱蒼としている。
最近木を切り出した雰囲気は無い。
雑草も多いし、確かに放置されている感じだ。
林の外側……入ってすぐのところに、いくつもの柿の木がある。
甘柿か渋柿かを知りたいんだよね。
俺は渋柿が好きなのだ。
もちろん渋抜きして食べるわけだけど、しっとりジューシーな感じが好きなのだ。
近づいてみると……まだ完熟していない実ばかりだ。
赤みがかってきているが……熟しきった感じではない。
甘柿ならこの状態で味見しても問題ないが、渋柿だった場合は、苦く痺れる感じになるんだよね。
ちなみに渋柿は、渋抜きをしなくても完熟すれば渋みは取れる。
だが、その判断が甘いと、渋さが残っているんだけどね。
その確認のために、柿の実を一つ頂戴することにしよう。
ん、……柿に気を取られて気が回らなかったが……この林には……かなりの数の人の気配がする……どういうことだ?
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