1000.報告と、提案。
成り行き上、拘束されていた百七体のスライムを助けた俺は、密かに転移で大森林に行って、スライムたちを置いてきた。
だいぶ弱っていたので、大森林でゆっくり休んでもらおうと思っている。
同時に保護した馬六頭も、一度大森林で休んでもらうことにして、置いてきた。
大森林の守護統括である『アラクネーロード』のケニー蜘蛛型分体に頼んできたから、大丈夫だろう。
ちなみに人型分体の方は、『フェアリー商会』に出勤している。
今『フェアリー商会』は、セイバーン公爵領の全市町への出店や様々な新規事業で忙しいから、ケニーも大部分の時間を『フェアリー商会』の仕事に当ててくれているのだ。
ケニーは、独自行動が許された独立遊撃隊のような存在なので、何をやっても自由なのだが、『フェアリー商会』の仕事も結構楽しいらしい。
大森林の仲間たちのお母さんのような存在のケニーだから、『フェアリー商会』で多くの人たちと関わるのが楽しいのだろう。
怜悧な感じで近寄りがたい雰囲気もあるのだが、実は面倒見がめっちゃいいからね。
ちなみに俺の分身『自問自答』スキル『ナビゲーター』コマンドのナビーさんも、忙しいのだ。
相変わらず……更生施設『残念B組ナビ八先生』で、少し道をそれた人たちを矯正している。
そして、セイバーン公爵領の全市町のチンピラたちをテイムもとい掃討し終えた今は、コバルト直轄領の全市町のチンピラをテイムしているみたいだ。いや、捕獲……いや、摘発している……。
てか……もう面倒くさいから、いっそテイムで言いきっちゃえばいいかな……。
そんな事はどうでもいいが。
なんとなくだが……もはや『フェアリー商会』よりも、『舎弟ズ』の人員規模の方が、多いような気がしてきた……。
まぁ『舎弟ズ』は『フェアリー商会』の下部組織みたいな感じで、立派に仕事ができるくらいに更生できた人たちは、『フェアリー商会』で働いてもらっているからいいんだけどね。
今回救出したスライム百七体は、みんなレベル2とか3なので、パワーレベリングでレベル20くらいまで上げてくれるようにケニーに頼んでおいた。
本気でパワーレベリングをやれば、そのぐらいまでは楽にあげられるのだ。
通常はパワーレベリングは控えているが、レベル20くらいまでなら問題ないだろう。
迷宮都市の担当になってもらうので、ある程度は強くしておきたいのだ。
今後もまた何かあるかもしれないからね。
太守の屋敷に戻って来た。
中に入ると、臨時の救護所になっていた場所で寝かされていた人たちは、ほとんどが起き上がれるようになっていた。
座っている状態の人もいる。
俺は、執事に破壊されていない別館に案内された。
大きな会議室のような部屋の扉を開けると、何人かが円卓に座って打ち合わせをしていた。
「おお、シンオベロン卿、君も座ってくれ」
太守が、笑顔で俺を椅子に案内した。
昨日会った時の腹の底の見えない感じとは、全く違う印象になっている。
まぁこんな大事件が起きた状況の中でも、腹の底が見えない感じでは困るから、いいんだけどさ。
なんとなくだが……ニアさんに命を救われ、俺たちのことを信用してくれているということなのだろうか……?
伯爵に紹介されたが、ここに集まっていたのは、この迷宮都市『ゲッコウ市』の行政の主要なメンバーだった。
太守であるムーンリバー伯爵、代官、南区・中区・北区それぞれの区政官という人たちだった。
区政官というのは、区長みたいな役職なのだろう。
衛兵隊の大隊長と隊長が四人いる。
隊長四人の中の一人は、独立部隊の隊長のムーニーさんだ。
彼は、ムーンリバー伯爵の次男ということだった。
以上の行政側の人たちに加えて、街の主要機関からも何人か参加している。
『冒険者ギルド』のギルド長と副ギルド長のハートリエルさんがいる。
『月光教会』の司教という人もいた。
『月光教会』というのは、『アルテミナ公国』で信仰されている『月霊神 アルテミス』を主神とする宗教のようだ。
ただ『コウリュウド王国』でも信仰されているこの世界の一般的な神々も同時に信仰しているらしい。
『アルテミナ公国』も宗教組織とは深くは関わらない政治体制みたいだが、都市の一大事なので来てもらったのだそうだ。
ここに集まっている人たちは……さしずめ緊急事態対策本部メンバーといった感じだろう。
名前と役職だけ紹介され、互いに会釈をした程度で特に言葉は交わしていない。
『月光教会』については、俺が知らないだろうとの配慮で、伯爵が簡単に説明してくれたのだ。
俺は報告を求められたので、魔物の死骸を全て回収してきたことと、中区で潰された家の大きな瓦礫についても、魔法カバンに回収する方法で、撤去を手伝ったという報告をした。
「報告ありがとう、シンオベロン卿。本当にこれだけの数の魔物の死骸を、回収できてしまったのだな……。それに、大きな瓦礫まで片付けてくれるとは……改めて感謝する」
伯爵は、また頭を下げてくれた。
伯爵が頭を下げている姿を見て、三人の区政官が驚いた表情をしていた。
伯爵はこの迷宮都市のトップだから、頭を下げることなんてないわけだよね。
「まず南区は……大きな被害は南門近くの外壁が破壊されたことだが、これについては南区の衛兵隊総動員で補修に当たってもらいたい。
同様に北区においても、一部が損壊した北門を衛兵隊総動員で補修、もしくは交換を頼む。
問題は……この中区だ。家を破壊された住民がかなりいる。現時点での集計では、おそらく五十件近いだろう。
大きな瓦礫は、シンオベロン卿が撤去してくれたようだが、家が破壊された住民の支援のために、中区の衛兵隊が残りの撤去を手伝うように指示をしてくれ。
あとは……彼らの住む場所をどうにかしてやらなければならない。何か良い案がある者はいるか?」
伯爵が現時点の状況を整理しながら、指示を出している。
やはり問題は、物的被害の大きい中区で、その被害にあった人たちへのフォローのようだ。
「あの……一つの案ですが、家に住めなくなった人たち用に、一時的な仮設住宅を提供してはどうでしょうか? もし仮設住宅を設置する場所があるようでしたら、私が持っている仮設住宅を提供することができます。『コウリュウド王国』で、魔物の襲撃で家を失った人たち用に開発したものですが、しばらく住むには問題ないと思います」
俺は、そんな提案をしてみた。
以前作ったログハウス型の仮設住宅が、『波動収納』にストックしてあるからね。
ピグシード辺境伯領の『マグネの街』などに、大量に設置したものだ。
「……なるほど。そうだな、確かに一時的に家を提供することを考えた方がいいかもしれない。件数が少なければ、宿屋に住んでもらうという手もあるが、五十軒だからな。人数にしたら……二百人以上になるのは確実だろう。ただ一時的に家を提供するにしても、作るのに時間がかかるであろう?」
「いえ、私の仮設住宅は、完成してあるものが魔法カバンに収納してあります。場所さえあれば、すぐに設置可能です。五十個以上在庫がありますので、家を破壊された人たちの分は十分に提供できます。問題は設置する場所があるかということになると思います」
「なんと……完成品の住宅が、魔法カバンに入っているのか!?」
「はい。あくまで仮設の住宅ですので、貴族の方が住むような邸宅とは違いますが」
「もちろんそうだろうが……。それにしても……にわかには信じられないが……」
「もしよろしければ、今お出ししますが……どこか出しても良い広い場所があれば……」
「おお、そうだな。広い中庭がある。そこがいいだろう」
「では……そちらに移動しますか?」
「おお、そうだな。皆、中庭に移動だ」
全員で、中庭に移動した。
なんとなく、俺が会議をかき乱しているような気がしないでもないが……。
というか……会議のメンバーの何人かから、冷たい視線を感じるのだ。
でもそんな事は、どうでもいい。
被災した人たちには、速やかなケアが必要なので、できる事はやっておきたい。
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