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992.友達をいじめる奴は、許さないのだ、許さないなの〜。

三人称視点です。

 迷宮都市『ゲッコウ市』中区——太守ムーンリバー伯爵邸


「急げ! 建物の中は危険だ! 外で円陣を組め! 子供たちを守れ! 皆、早く体勢を整えろ!」


 頭から流血しながら、太守長男のムーディーが使用人と私兵に指示を出す。

 何とか三人の子供たちを半壊した屋敷から外に連れ出すことができたが、妻と父親である伯爵の生死はわからない。

 他にも長年仕えた使用人が、何人も生死不明の状況である。

 だが、ムーディーにはそんなことを考えている余裕など一切なかった。

 外に出て、建物の下敷きになる危険がなくなったと言っても、今度は押し寄せる魔物に対処しなければならない。


「お父様! お母様とおじいさまが……」


 泣きながら探しに行こうとする娘を、ムーディーは捕まえるように抱き上げた。


「ルージュ、大丈夫だ。魔物を倒した後に、すぐに探しに行くから。父がすぐに魔物を倒してしまうから……弟たちを頼むよ」


 ムーディーはそう言ってなだめると、円陣の中心に娘を降ろした。

 そして一緒に円陣の中に入っている女性の使用人に目配せをして、子供たちを託したのだった。


 子供たちや戦闘能力のない使用人を取り囲むようにムーディーと私兵、男の使用人たちが戦闘態勢を取る。

 だが突然の魔物の襲撃に、武器を取る間もなく、満足な装備ではない。

 ムーディーは、私兵が常備している小型の弓を借り、空中の鶏魔物に狙いを定める——


 ——ビュンッ


 ——ドスッ


 弓が得意なムーディーは、見事に鶏魔物の胸に命中させたが、威力不足で一撃で倒すことは出来なかった。

 普段使っている弓が使えないことに臍を噛んだが、すぐに切り替えて私兵から渡された剣を抜いた。


 地上からも襲いかかってくる鶏魔物を、私兵たちとともに斬り倒す。


 だが思ったよりも、苦戦を強いられていた。

 ムーディーも訓練された私兵たちも、一対一の状態なら鶏魔物に遅れを取るような事は、なかっただろう。


 しかし、守るべき対象がいて、円陣を組んで自由に動けない状態の中で、群れで襲われるという状況は、非常に戦いづらいものだった。

 地上から攻めてくる鶏魔物たちも、飛び上がって勢いをつけて突進してくるので、後ろに通さないためには、真正面から攻撃を受けて立つしかないのである。

 最初の一体を斬り倒したとしても、次々に攻撃されるので、必然的に押され気味の戦いになるのだ。

 その波状攻撃の勢いに押され、くちばしや爪で怪我を負っていった。


 皆満身創痍になりながらも、子供たちや女性たちを守るために、気力を振り絞り、立ち上がって武器を構えていた。


 だがそんな先の見えない戦いに、追い打ちをかける大きな影が、羽音と風圧とともに現れた。


「な、なんだあれは!? あの大きさ……もしや……キング……?」


 血に霞む視界の先に、敵影をとらえたムーディーは、絶望を宿した声を上げた。


 恐怖の羽音と共に現れたのは……鶏魔物の上位種『イビル・キングチキン』だった。


 体高三メートルを超える巨体が放つ風圧だけで、傷だらけの私兵たちは、何人か後方に飛ばされた。


 鶏魔物は、冒険者の間では雑魚魔物と認識されているが、そんな雑魚でも数の暴力で恐怖の魔物となっていた。

 それに加えて、珍しいその上位種であるキングが現れたのだ。

 いかに弱い鶏魔物とは言え、キングは、トップランクの冒険者でなければ倒せない強敵である。

 現に、この『イビル・キングチキン』は、レベル48もあった。


 着地したキングは、ひとかたまりになっているムーディーたちをロックオンしている。

 そして……無慈悲に動き出した——


「「「キャャャャャッ」」」

「お父様っ」


 たまらず悲鳴をあげた女性使用人とルージュ。

 ムーディーは、咄嗟に子供たちに覆い被さるようにキングに背を向けた。


 迫り来るキングチキンに、その場にいた誰もが、死を覚悟したその時——


「友達をいじめる奴は、ゴッチンなのだ!」

「ルージュをいじめちゃダメなの! お仕置きなの!」


 ——ゴンッ

 ——ザンッ


 ——ドスンッ、ドッドッドッドドォォォ


 少し場違いな子供の声が響いた後に、大きな衝撃音がした。


「リリイ! チャッピー!」


 娘の声に促されるように、ムーディーは振り返った。


「……え、……」


 目の前の光景に、ムーディーは言葉を失う。


 そこには、頭を粉砕され両足が切断されたキングチキンが転がっていたのだ。


 そして他の鶏魔物たちを、ハンマーと大型ブーメランを持って、踊るように屠りまくる女の子が二人……。

 ムーディーは、夢でも見ているのかと目を擦った。


「魔物は、私たちが倒します。皆さんは、これで怪我人の手当てをしてください」


 魔法カバンから、ケースに入った大量の魔法薬を出したのは、ニアからリリイとチャッピーのお目付役に指名されたアイスティルだった。


「き、君は……?」


 尋ねるムーディーに、アイスティルは軽く首を横に振る。


「詳しい話は後です。今は体勢を立て直して、戦える人は戦ってください! まだまだ魔物がいっぱいいますから!」


 そう言うと彼女は、周囲の鶏魔物の殲滅に動き出した。


 入れ替わるように……至近距離にいた魔物たちを倒したリリイとチャッピーが、ルージュに近づく。


「ルージュ、大丈夫なのだ?」

「もう心配ないなの〜」


「リリイ、チャッピー、ありがとう」


「まだ数が多いから、油断はできないのだ」

「そうなの〜。ルージュを守るために、内緒の魔法道具を使うなの〜。リリイ、やろうなの〜」

「オッケーなのだ! きっとグリムも許してくれるのだ」

「そうなの〜。人命優先なの〜」


 そう言うとリリイとチャッピーは、魔法カバンから、絵本を取り出した。


 彼女たちの愛用の魔法の絵本である。

 リリイは、『はらぺこにじむし』の絵本に魔力を流す。

 同様にチャッピーも、『ドリとドラ』の絵本に魔力を流す。


 すると二つの絵本は、魔力を帯び……宙に浮かびながら開いた。

 この魔法の絵本は、発動者が物語を読み上げると、その通りのストーリーが展開するという特別な魔法道具なのである。


「にじむしは、リリイのことが大好きなのですなのだ。だから、リリイのお友達を守るのですなのだ。襲ってくる魔物を、糸を吐いて、どんどんやっつけちゃいましたなのだ!」


 リリイが作ったストーリーを読み上げると……絵本のページから四匹の『にじむし』が飛び出し、ルージュたちを守る円陣の外側に等間隔に着地した。

 中型犬サイズとなった虹色の芋虫たちは、空から近づこうとする鶏魔物に向けて、糸を吐き出した!

 糸に捕らえられた鶏魔物は、体の自由を失い次々に落下していく。


「ドリとドラは、怒ってるなの〜。チャッピーのお友達を守るなの〜。ドリは、魔物をドリルで殴りつけて、さよならしちゃうなの〜! ドラは、ハンマーで魔物をボコボコにしちゃうなの〜!」


 チャッピーの『魔法の絵本』からは、サングラスをかけた二体の服を着たモグラが飛び出した!

 青い服を着ているドリと、赤い服を着ているドラは共にチャッピーと同じくらいの身長で、手に武器を持っている。

 電動ドリル形状の武器と銅鑼を鳴らすときに使うようなハンマーを持っているのだ。


 二体は、『にじむし』たち同様、円陣の周囲に位置し、襲いくる魔物を迎撃する体勢をとった。


「ルージュ、そして皆さん、この子たちが守るから、安心してなのだ!」

「その間に、チャッピーたちが魔物を全部やっつけてきちゃうなの〜」


 リリイとチャッピーは、ルージュたちに一方的に告げると、魔物の殲滅に向けて走り去ってしまった。


 この辺は、彼女たちが大好きなグリムの行動と少し似ているのかもしれない。

 そしてその後の無双っぷりも……当然似ているのだった。




 


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次話の投稿は、8日の予定です。


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