991.微妙に違う、ロイヤルストレートフラッシュ!
三人称視点です。
迷宮都市『ゲッコウ市』中区
……グリムが南門で戦い始める少し前……
「上空で範囲攻撃できるから、ちょうどいいわ! あれを実戦で使う時が来たわね!」
『クイーンピクシー』のニアは、そう言いながら飛行中の鶏魔物の群れに単身突っ込んだ。
襲い来る鶏魔物を『如意輪棒』で叩き落としながら、できるだけ群れの中央まで進む——
「必殺技をお見舞いしてあげるわ。この技を見ながら死ねることに感謝するのね! 行くわよ! ロイヤルストレートフラッシュ!」
発動真言を唱えながら、手のひらを前に突き出すニア。
すぐさま手のひらから、金、銀、青、紫、赤の光の玉が次々に飛び出す!
それぞれの光の玉は、その色を保ったままニアと等身大のカード形状になって、前方に静止した。
ニアが発動した技は、『ロイヤルピクシー』にクラスチェンジしたときに、『種族固有スキル』として身に付けていた『ロイヤルストレートフラッシュ』という技である。
『クイーンピクシー』となった今になって、初めて実戦で使う技なのである。
五枚のカードから、それぞれ特有の攻撃を発動する強力な『種族固有スキル』だが、制御が難しく、今のニアではこのような局面でしか使えない技なのだ。
そう……無差別に範囲攻撃しても問題ない局面でしか使えないのだ。
空中で群がって来ているのは鶏魔物のだけなので、四方に攻撃が飛散しても、他に被害が出る事は無いと判断したのだった。
「さあ、一気に行くわよ!」
ニアが手をかざして動かすと、五枚のカードはニア周辺から離れ、鶏魔物の集団の中で適度な距離をとって分散した。
「10の光撃、ジャックの嵐撃、クイーンの氷撃、キングの雷撃、エースの炎撃、ロイヤルストレートフラァァァァッシュ!」
発動真言とほぼ同時に、各カードはその場で横回転を始め、四方に向かってそれぞれが宿した属性の攻撃を拡散発射した!
——ビィィィンッ
——ザァァァァッ
——ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ、ビュンッ
——ガガァァァァンッ
——ボウゥゥゥッ
……ほぼ一瞬のことだった。
ニアの必殺技の発動によって、上空にいた百体近い鶏魔物は、瞬く間に駆逐された。
ニアが放った『ロイヤルストレートフラッシュ』は、カードに込められた五つの属性の攻撃が、一気に発動できる必殺技なのである。
『10の光撃』は、カードから十本の光線を発射して、焼き切る攻撃だ。
光量が強く目眩し効果もあり、アンデッドに対する特攻も持っている。
『ジャックの嵐撃』は、カードから砂塵が放射され、風に乗った砂の刃で切断する攻撃である。
『クイーンの氷撃』は、カードから無数の氷の礫を放射して、敵を粉砕する攻撃である。
『キングの雷撃』は、カードから幾つもの雷撃を発射して撃ち貫く攻撃だ。
『エースの炎撃』は、炎の衝撃波で焼き尽くす攻撃である。
おそらく……この技を発動させたニアの無双ぶりを相棒のグリムが見たら、唖然としたに違いない。
そして……「カードの色も違うし、そもそも絵柄マークが無いのに、“ロイヤルストレートフラッシュ”ってありなの!」とツッコミを入れるに違いない。
その後は、「ニアの技だけに、相変わらず滅茶苦茶なわけね」と自分を納得させることだろう。
◇
ニアが上空の魔物を殲滅している間に、『コボルト』のブルールは地上に降りている鶏魔物の対処に当たっていた。
彼女愛用の武器『青鋼盾 インパルスシールド』で、鶏魔物を撲殺しながら『種族固有スキル』を発動する。
「相棒犬召喚! パト、ラッシュ、来て! ラスとカルも来て!」
ブルールが、走りながら地面に向けて描いた円が赤く光り、転移召喚陣が現れる。
そして召喚陣から、二つの黒い影が飛び出す!
「アウォーンッ」
「ウウォーンッ」
「ミャーッ」
「クルーッ」
現れたパトとラッシュの背中には、珍しいオレンジの体色の『アライグマ』のラスとカルが乗っていた。
ブルールは、早くも『相棒犬』として、ラスとカルと契りを交わしていたのだ。
通常、『相棒犬』になるのは、犬や狼や魔犬であるが、それ以外の動物も適性があれば『相棒犬』にすることができる。
まだ子供のラスとカルも、『コボルト』の里での訓練で、高い適性を示していたのだ。
そして、ブルールがグリムの仲間になった時に、その『相棒犬』たちも、『絆』メンバーになっている。
それゆえに、『相棒犬』たちも『共有スキル』が使えるのである。
そのこともあって、幼いラスとカルでも戦いに耐えられるとブルールは判断したのだ。
むしろ戦いに加えることで、経験値を得てレベルを上げる機会にしたいと考えたのだった。
現時点では、直接魔物を倒すことができなくても、パトとラッシュと一緒に行動していれば、経験値を取得できる。
また『共有スキル』の回復魔法を使っての回復要員としても、活躍できるとブルールは考えた。
そして実際、念話でそう指示を出していた。
実際、パトとラッシュが走りながら魔物を倒し、背中に乗っているラスとカルが周辺で怪我をしている人たちに、回復魔法をかけるという連携で、多くの人々を救っている。
パトとラッシュは、いつものように首から下げている筒状装置の両側から短剣を伸ばし、走りながら斬りつける攻撃で、次々に鶏魔物を倒していた。
そして今回新たに、パトとラッシュにはラスとカルが騎乗するための専用の鞍が装着されていた。
これにより、ラスとカルは安定した騎乗状態を保つことができる。
それ故、動きながらでも、かなりの精度で回復魔法を人々にかけることができていた。
乗りながら両手を使うこともできる為、魔力切れの際には、鞍に仕込んである回復薬を器用に開けて飲んでいるのだった。
めちゃめちゃ強い犬に騎乗したアライグマの勇姿は、多くの人に目撃され……そして感謝されていた。
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