19××年 ○月☆日
19××年 ○月☆日
「出ていけぇー?先輩なにをとちくるじゃない、そんな笑えなさすぎる冗談はやめてほしいんですが」
「シスター。わたくしはとち狂っているわけでも冗談を言っているわけでもありません。ただ、戦場に出て兵士の治療をしてくださいといっているだけです」
あくまで落ち着いた口調で対応する先輩。
おしとやかで慈悲深く、誰にでも分け隔てなく接する彼女は、理想的なシスターといえないこともないが、今は確実に、自殺しにいけこのやろうって言ってるんじゃないでしょうか?このお方は。
「ちょ、え、あのですね、先輩?戦場に出て行けって?私はただのシスターなんですよ?ライフル銃ぶっ放すことも武術の達人でもなんでもないただのごくごく一般的な平々凡々としたシスターなんですよ?」
「ですから、戦場に出て行くのではありません。治療員として参加させていただくのです」
だからそれが戦場に出て行けってことなんだよ、この馬鹿。脳ミソ沸いてるんじゃないのかしら。
あーっ、憧れて損した。私の今までの輝かしい憧れを利子つきで返せ!
「治療員ってたってですね、私先輩のように傷口を縫うことなんてできませんし・・・」
「必要とあれば自ずと身につきます」
んなあほな。
この先輩、実はものすごく馬鹿なんじゃなかろうか。
「も、もし万が一天啓のように私に傷口を縫えるような技術が身についたとしても、戦場に言っては足手まといなんじゃ……」
「いいえ、医療班を渇望しているのが戦場なのです。ですからお役に立つことこそできるけれど、足手まといなど論外」
「………」
あれ、なんか話が噛み合ってない?
てか、あれ。なんかものすごく自分ピンチ?
やばいよね、暖簾に腕押し、糠に釘。仏の耳に念仏、じゃない、馬の耳にか…。
って、そんなことはどうでもいいんだけど、ものすごくやばいかもしれない。
この先輩ってこんなに天然だったっけ。
そもそも人の話し聞いてるのかこいつは。
「で、でもせんぱ…!」
「誇りに思いなさい」
肩に手をぽんと置かれ、笑顔で反論をねじ伏せられてしまった。
こ、このあま、実は全部計算ずくなんじゃ……ッ!
ヤバイッす。超絶ヤバイッす。この先輩の笑顔素敵過ぎの最強すぎです。
ナンデコノ世ニ笑顔ナンテユー超強力ナ兵器ガアルンデスカ神様アアアアアアアアアア!
心の中で天に向かって叫んでみたけれど虚しいだけだった。
てか、叫んでる場合じゃねぇ!どうにかして状況を打破して、戦場送りになることを断固阻止せねばッ。
「そう、わかってくれましたのね。すばらしいわ、あなたのそのやる気」
「は……?」
「わかってます。わかってますわよ。お国のために戦う勇敢なかたがたの手助けを直接にできるんですものね。えぇ、えぇ。本当に誇らしいことですわ。そして、あなたのそのやる気にわたくし、感激いたしました」
何故か涙ぐんですらいる先輩。
先輩はグッと私のこぶしを握ると………え?こぶし……?
気づけば私はガッツポーズをしていた。
否、これは気合を入れるために拳を握り締めただけなのだが、私の考えを全く知らない先輩にとってはガッツポーズだ。
「偉いわ!早速司祭様に報告してくるわね」
固まる私に先輩は優しく抱擁してから、そさくさと司祭様がいらっしゃる部屋のほうへと去ってしまった。
3秒のフリーズの後。
BGMのように鳴り響く追悼の鐘にも負けないくらいの大声で私は叫んでいた。
「ちょ、え、まッ!違うんですぅぁあっぁせんぱああああああああ――――ッい」




