19××年 ○月+日
19××年 ○月+日
神様は素晴らしく公平なお方だ。
誰にも平等に『生』と『死』を与えてくださる。
本当に、尊敬できるくらいに、殺したいくらいに、羨ましいくらいに、殴りたいくらいに平等で立派だ。
私は僅かな食料とも呼べない食料の乗ったトレーを持ったまま、先輩のシスターと向かい合っていた。
「殺せ、と。そう仰るのですか?先輩」
「いいえ。ただ、助かる見込みがある方に少しの食料と薬をまわして差し上げなさいと言っているだけですよ?何を馬鹿げたことを口にするのですか、貴女は」
「ば…ッ!」
馬鹿げてるのはあんたのほうだよ!このクソババアッ!
という淑女にあるまじき言葉は何とか空気の塊として飲み下した。
危なかった。そんなこと言った日にゃぁ身一つで戦場にほっぽり出されるだけだ。
こんな馬鹿みたいな台詞で自分の人生を棒に振るほど自分は浅はかではないつもりだ。たぶん…。
「ば?」
しかし先輩はまったくぜんぜんこれっぽちも甘くなかった。
耳ざとく私の言葉になったかなってないかくらいの言葉を拾って、ご丁寧にわざわざ聞き返してきやがった。
「ば、ば、えーっと、バババババズーカ砲の音がよく響きますねーッ!」
苦しい。苦しすぎる。そして猛烈に恥ずかしい。なんだこの言い訳は…。今から3秒前の過去に行って私を殺してこなきゃ。恥ずかしすぎて憤死しそうだ。
先輩が思いっきり馬鹿にしたように「はぁ?」と聞き返してきた。
やばい、殴りたい。どうしよう。何このいかにも殴ってやりたい!ッて思わせるような顔は!こんなの人類が作る表情じゃないわっ!
カタカタと食器が震えこすれ合わさる音が聞こえてきた。
やばい危ない危険だ。なんか色々と自分は限界なのかもしれない。
だから私は慌てて言葉を紡いだ。
「いえ、えーっと、で、この食料をC室の患者さんがたに差し上げればよろしいのですね?」
「えぇ、今日からずっと、ですよ。わかりましたね?よろしく頼みましたよ」
「はい」
にっこり笑顔で一言簡潔にお返事。
うん、ばっちり。今日も私はよいシスター。
先輩は「よろしい」と頷き、きびすを返し持ち場へと戻っていった。
私は彼女が突き当たりの廊下を曲がり、絶対に確実に何が起こっても彼女が戻ってこないことを確信してからようやく貼り付けていた笑顔をはがす。
はが………せないっ!?
「え、なんで?!力入れすぎたからっ!?」
今自分は確実に、笑顔と驚愕と怒りとが入り混じったわけのわからない不細工な顔になっている。
こんなので殿方の前に出て行けとっ!?
嫁入り前の純真無垢な乙女に対しての仕打ちにしてはあんまりです神様ッ!




