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19××年 ○月□日

19××年 ○月□日


東の海の傍に聳えた…ってこれはちょっと前書いたな。

私は今日も一日中眠気を抱えたまま奔走していた。

眠気を抱えたままというのは、あれだ。負傷兵たちの呻き声が雑音となって安眠を妨害してくるのだ。

そろそろ子守唄に聞こえてきてもいい頃合だというのに、私の聴覚はなかなか馴染まない。


(いびきまでかいて安眠できる某先輩はいろんな意味で偉大だと思う。見習わなくちゃ。絶対にああならないように)


そういえば昨夜運ばれてきた、地雷に右足を吹き飛ばされた少年兵の介抱は昨日以上に大変だった。

というのも、その少年兵は、腐った目をしたとてもありがたい政府の素晴らしいお計らいのおかげで、もとから少なかった薬品なんかの配給が大幅に減ったので、昨日は満足な手当てもできずに半ば放置されている状態だったのだ。

そして翌日である今日、私が泣き喚く少年兵のところに行ってみると、少年の傷口は化膿し腐敗し蛆に食われているという凄惨な状態になっていたのである。吐かなかった自分は偉いと思う。同期のやつらはやわいな。

予備の包帯も鎮痛剤もないので、結局のところ何もできなかったのだが。

ただそばについて、蛆を取っ払ってあげることしか。

腐肉をたらふく喰らって、丸々と太った蛆はそれでも貪欲に少年兵の傷口を貪り続けていた。


ぶちぐちゅぐちゅ…。


湿った肉を食む音が少年の呻き声以上に不快で不快で仕方がない。

申し訳ない顔をしつつも、私は遠慮なく蛆虫をひっ掴んではバケツの中にぶちこんで、じゃないや放り込んでいった。

一番最初に見たときは、蛆虫なんて幼虫みたいな白いぶよぶよした物体に触るのもいやだったが、毎日毎日こうして取っ払っていると治療するのと同じように慣れてしまうのだ。

 少年兵の悲鳴まがいの呻き声は無視を決め込む。といったところで、完全に無視できるわけもなく不快感とわけのわからない罪悪感で胸糞が悪かった。(あぁ、こんな汚い言葉を使うほどに私の精神は疲弊してるのね…ホロリ。頼むから休みをください先輩…マジで死にます。そのうち負傷兵に対して暴力振るう日が来るかもしれません。誰かに対するストレスと疲労と憤怒で)


そんなことを思いつつ、人の言葉とは思えない声を上げる少年兵に向かって私は口を開く。

「悲鳴上げる元気があるならまだまだ大丈夫ですねー?ホントに疲弊してるなら声すら出したくても出せなくなるもんですから」

そしてにっこりと笑ってやった。

結局どれだけとってもとっても別次元の穴が開いてんじゃないかと思うくらい蛆虫は次から次へと沸いて出てきて、全部とることはできないままタイムアップした私は違う患者のほうの看病に行ってしまった。


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