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19××年 ○月ω日

ちょっと神様の存在を信じてもいいかと思った。

私はほぼ4日に及ぶ旅の末、奇跡的に隣町にたどり着いていた。

隣町はそれはもう活気的で、今までのことが夢のようである。

素晴らしく不平等な世界に乾杯だぜくそったれ。

それでも、どこかに影があるのは戦争のせいだろうな。

さて、町についたのはいいもののとりあえずどうしようか。

今の私の格好はそこらへんの浮浪者並みにひどい。

ボロボロの尼服はすでにボロ雑巾だ。

それに、ここ数日お風呂にも入っていないので垢まみれだし、荒野を歩いてきたので砂まみれでもある。

髪がパサパサだよ!女の命なのに!潤いがかけらも感じられないなんて…ッ。

ヒソヒソと小声で私のほうを身ながら耳打ちをして笑っていらっしゃりやがるご婦人方は、もしかしなくても私の身なりのことを言ってやがるのだろう。

私の身分を聞いて、喚いて騒いで泣きながらひざまずいて命乞いしてショック死するといい。

まあ、身分証明になるモノがないので、誰にも信じてもらえないだろうが。

そもそも名乗る気ないし。

なんだか、阿呆らしくなってきて私はとりあえず、この市場らしいところを抜けることにした。

どこかに井戸があったら、それで身を清めたい。

せめて首から上だけでも……。

頭痒いし。ああ、なんで私がこんな目にあわなきゃならないんだコンチクショウ。

あんなにも日頃の行いがいいというのに…っ!世の中理不尽なことだらけだぜ。

私のような不幸な人間に恵みを与えることができないほど神様は忙しいのか!

というか、人間なんていう恵みを与えることができない形だけが己の分身である物体を作るより、

どっかの全知全能で末っ子であり長男である神様みたいな力のある物体を大量に作れよ!

人間みたいにポコポコ量産してまえ。神様ならきっとできる。

何せ人間の分身なんだから。や、違う。神様の分身が人間だか……うん?あってるのか?

いや、うん、あってるな。うんうん。

悪態を吐きつつ適当に散策しながら歩くと、すぐに門が見えた。

狭っ!この町狭っ!

なのに、この出歩いている人たちだけでも百人ちょっとの人口密度は、ちょっとばかしおかしいんじゃないか。

………仕方ない。どうやら井戸もみな占領されているらしいし、外で川を探すしかないようだ。

この町での生計の立て方については、それから検討しよう。

私はとりあえず、外にでて川を探してみた。

人がいるところには、真水が必要だ。

ソレもこれだけの人数となるとたくさんの。

だから井戸以外の水源も近くにあると踏んだのである。

少し町から離れると幸いにも、私の読みどおりにすぐ近くに小さな湖があった。

背の高い葦がたくさん覆い茂っている。

幸運なことに人影はない。

ちょっと悩んだ挙句、私はそのまま湖に飛び込むことにした。

暑いし風邪を引くことはあるまい。うん。

何より体中砂だらけの垢だらけなのは我慢ならない。

それでも一応、火を起こしておく。

こんなことができるのもすべて昔取った杵柄……。自慢しても何にもならないな。

寧ろ淑女でこんなことをできる人なんて私だけじゃなかろうか。

すごいのかすごくないのか…。はあ。

っと、ため息はいけない。弱気はだめだ。幸せが逃げていく。

もうすずめの涙くらいしか残ってない気がするけど!

満足できる大きさに火が成長すると、私は湖に飛び込んだ。

ひんやりとした湖が、私が飛び込んだ弾みにちょっと濁る。

水浴びをしていた水鳥たちが一斉に飛び去ったことに、

申し訳なさを少し覚えつつも、私は広くなった湖を泳いで見た。

気持ちいい。

なんだか嫌なことが全部流されそうだ。

背面泳ぎをしながら、空を仰ぐ。

透き通るような青い空。

昨夜みた螢惑は見えないけれど、たぶん今も宇宙では瞬いている。

あの人は、私の今の姿を見て苦笑なさっているだろうな。たぶん、兄様と一緒に。

一通り満足するまで泳ぐと、私は焚き火の傍で暖を取った。

膝を抱えるようにして背を丸め、なんとなく思考をめぐらしているといつの間にかうとうとしてしまっていたらしく、完全に意識を取り戻したのは日がほとんど落ちかけている頃だった。

すでに焚き火は完全に消えている。


「っくしゅ」


……風邪、ひいた?

いや、ありえない。そんな漫画みたいな…。

大体一日で引くもんじゃ


「っくしゅ」


……………そうだもんな。私は箱入り娘だもの。体が弱くて当然。

これ以上悪化してはかなわないと、私は慌てて立ち上がると

なけなしの荷物を持って町へ引き返した。

それから、残っていた救急箱をお金に換金し、古着と少々の食糧を買って、私は一番安い宿屋のベッドともいえない硬いマットの上に寝転がっていた。

どうも、けが人が続出しているらしく存外、救急箱の中身はお金になった。

教会に感謝である。

寧ろあの燃え盛るジープからあの救急箱を抱えて脱出した私に感謝。

もとはといえば、こんな馬鹿みたいな苦労をする羽目になったのは教会のせいなんだし。

思い出したら腹が立ってきたので、私が知る限りのボキャブラリーを駆使して罵倒し尽くしてやる。

ちょっとすっきりした、かも。

やっぱり、物理的に倒さねば気がすまないな…。

はったおすなんて淑女のすることじゃないけれど、まあ、緊急事態だし。うん。

何より、今まで我慢してきたんだからちょっとくらいならばお天道様も見逃してくれるはずさ。

ポジティブシンキング万歳。


「っくしゅ」


なんだこのタイミングは。天罰か?神様はなんでもお見通しだという啓示ですか?!

だったら、とっとと助けてくれ、と思う。

私何にも悪いことしてないもの!少なくともこんな目にあうようなことは!

だからとっとと救いやがってくださいっ神様ッ。

なんて、言ってるうちは多分神様は救ってくれないだろう。

私よりひどい目にあっている人がたくさんいるということも、わかっている。

まあ、でも心の中でそう思ってもいいじゃない。

神様罵るくらいしかストレス解消できないし。


「っはあー」


深呼吸。

今日はもう寝よう。

疲れたし、明日のことは明日考えればいい。

そう思うと急に眠気が襲ってきた。


          明日はいい日でありますように。


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