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動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
1章 I Don't Want To Change The World
6/50

006 デブ、勘違い

 『キコだよ。よろしく』


 「成田鉄平、鉄平って呼んで! よろしくっ!!」


 テンション高めに、自己紹介をして。差し出して来た手を、優しく掴む。ああ、小さい、体温高い。

 キコは、自分と同じくらいの歳だろう。体は小柄で、茶色の短髪がよく似合う。何より――可愛い。


 (俺にも、春がやって来た……!)


 苦節二十一年、ようやくだ。お袋に伝えれば、血の涙を流す勢いで喜ぶことだろう。こんな女の子が、俺に惚れたなんて――


 『基本的に、テッペイはキコと一緒に暮らして貰う』


 『今日からお願い。じゃあ、行きましょ』


 「わお、積極的! 君となら何処へだって行くけれど、行き先くらい教えてくれるかな?」


 『来れば理解るから』


 「そうか、じゃあ行こうっ!!」


 少し冷たい気もするけれど、そんなところも魅力的。

 言われるままに、着いて行く。


 『じゃあ、僕は失礼する』


 空気を呼んだのか、リアリも此処までらしい。

 ああ、此れから二人っきり、至福の時が訪れる。

 スタスタ歩くキコの後ろ、狭めの歩幅で歩いていけば。


 「――ん?」


 何だろう、辺りの雰囲気が、変わる。居住区から、もう少しぴりっとした空間。外で、テントが並ぶばかり、人も未だいないのに。

 何が違うのだろうかと、周り、よく見回して。


 (そうか。地面が、傷んでる)


 傷を付けて、放ったらかしてような。まあ、此処はグラウンドじゃない。其れでかまわないのだろうが。

 でも、この傷の付き様は――


 「なあ、キコ。此処って訓練場か何かか?」


 『当たり。ソレで、此処が目的地』


 「ここが――?」


 てっきり、キコの部屋にでも連れてってくれると思っていたのに。

 しかしまあ、わざわざ訓練場くんだりに連れてくるってことは……


 『ねえ、テッペイは使える武器とかある?』


 「いや、無いな。強いて言えば円盤だけど……」


 『そう。円盤は無いから、適当に持ってくる』


 そう言って、キコは近くのテントへ入った。少しばかり経って、戻ってきたキコの手には、一振りのロングソード。木製の、ようだけれど。


 『鉄平は強くなれる。だから、頑張ろう』


 「ちょっと待てっ!! 薄々感づいちゃ居たけれど、さも当然の如く俺が戦闘訓練することになってるの何で!?」


 甘酸っぱい何かとは違うなあって思ってたけどっ。


 『テッペイ、やらないの……?』


 上目遣いの眼差しで問われる。くそっ。そんな目で見られたら――




 「――やるに決まってるじゃねえかっ!」


 『いや、それで良いのかご主人様……』


 珍しく、スライムがマトモなことを言ってるけれど。

 男にはやらないきゃいけないときがあるんだ。







 ――振りかぶる、木剣。鉄平は、型など知らぬ。知らぬから、キコの教えをよく聞いたし、生来の運動能力もある。寄生された右手も、握力の低下は無く。ならば、袈裟に斬り込むこの一閃は、決して軽いものでは無かった。

 ただ今は、模擬の戦の時間である。一通り、鉄平は振り方を習い。ならそろそろと、勉強がてらで。


 「オオオオオオオオオオオ――」


 響く、咆哮。円盤を投げるときからの癖。

 軸の右足で、思い切り地面を踏み切って。体が飛び出す。剣先が跳ね上がる。


 「――!」


 対するキコの反応は、迅速だった。半身に構え、鉄平に短剣(ナイフ)の切っ先を向ける。

 装飾も無い、意匠も無い。柄から刃を伸ばすだけの代物。けれど――


 ――ギイイィィィン!


 接触、刃が鳴る。あり得ざる(・・・・・)金属音。衝突と同時に、キコは回転し――


 「がああっ――」


 ――衝突のエネルギーが、まるごと逸らされる。美しい軌跡のまま、流されて。

 鉄平は呻いた。全体重を乗せた一撃が、アチラへ流されたのだ。腕も、胴も、予定の動きを果たせぬ。無理な(たい)を取らされ、安定が崩れて。


 「ふ――」


 「――がはっ」


 後頭に、柄の一撃。トドメ、鉄平が地面に崩れ落ちた。

 

 (強い……敵わねえ……)


 心中、音を上げる。

 無理もない、元々予想はしていた。仮にも兵役、仮にも戦士。ガタイで負けても、技術で負けぬ。素人に過ぎない鉄平程度、相手にならぬのは道理であった。でも――


 「何で、受け止められるんだ……」


 ――そう。体重差は、絶対差。膂力(りょりょく)の違いは真っ直ぐだ。小兵(こひょう)が正面受け止めて、流せたりなんか出来やしない。それも、道理で在るはずで。


 『うん。ズル――してるから』


 キコの返答(かえし)も、納得が行くと言えば、そういうものか。


 


 「――魔道具?」


 『そう。人間は、魔法は使えない。でも、魔力の乗った素材なら扱える。それで作ったのが魔道具』


 これとかね――。キコが、ナイフを掲げる。

 なるほど、(いぶか)しい金属音も、受けのカラクリも、そういうことか。


 「へえ、そういうのがあるのか……」


 『でも、誰もが何でも使えるとか、そういうわけじゃない。殆どの魔道具が、選ばれなければ只のガラクタ』


 「じゃあ、俺が魔道具を貰っても、意味が無い可能性の方が高いのか……?」


 『うん、多分』


 そんなに、便利なもんでもないらしい。


 『一応、魔道具がどういうものかを教えておきたかったから、実際に見てもらった。ごめんね』


 「いや、全然構わないよ! 俺のことを思ってやってくれたんなら、オールオッケーさ!」


 『ご主人様、気持ち悪るっ……』


 おい、通訳中に自分の感想を挟むな糞スライム。

 まあ、なんやかんや魔道具ってものも分かった。戦い方を教わるのだって、悪いものじゃない。これから、何に巻き込まれるのか分からないから。

 真相が一個分かったので、ついでに他の真相も聞いとくか。


 「それで、結局何でおれの世話係になりたいと思ったんだ?」


 リアリから聞いた話の、まんまでは無さそうだし。


 『幾つか有るよ。一つは、このまま放っといて、顔の知ってる人が死ぬのが嫌だったから』


 戦争は、終わらないし。顔、覚えちゃったから――キコの言葉に、悲しみが宿る。

 そういえば、前に居た部隊は壊滅したとか、リアリが言っていたな。


 『二つ目は、スカウト。テッペイは多分、良い戦士になると思う。お腹のお肉が、ちょっと多いけれど』


 むにゅ、腹を摘まれる。むう、腹は仕方ないだろう。

 それを置いといても、まあこれだけのガタイだ。戦士としても恵まれてるのかもしれない。――ああそれか、一目惚れって。


 『三つ目は……世界が滅ぶ直前だから、折角だし』


 「折角……?」


 『内緒』


 あら、誤魔化された。けれど、なんとなくあらましは分かったし。

 それじゃあ、改めて尋ねる。


 「じゃあキコは、俺に何を望んでる?」


 『――』


 キコは一回、目を閉じて。




 『強くなること。突然、魔人に襲われたって、一人で生き延びれるぐらいに』


 そうか。やっぱり、優しい子だ。俺のこと思ってくれているのは確か。なら、俺も応えるしか無い。


 「――分かったよ。強くなる。幸い、努力とかそういうのは好きだし、得意だ」


 当面の指針は、決まった。

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