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動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
1章 I Don't Want To Change The World
5/50

005 デブ、ヒロインが出来る

 「なんか、とんでもないところに来ちまったな……」


 割り当てられた、テントの中。何が有るわけでもない空間。

 この部屋は、リアリのものだ。追い詰められたような顔をした、彼。今は出払っているけれど。


 『とぼけちゃってぇ、とんでもないのはご主人様だろっ? 異世界人なんか、超絶最高ウルトラレアだぜっ!』


 「うるせえから黙ってろ」


 ぎゃは、と。騒ぎ立てる右手をあしらって。


 「これからどうすっかな……」


 また、鉄平は呟く。

 何でか、未だに現実味がない。漠然とした不安はあるけれど。


 (元の世界、やっぱり帰れないんだよな)


 あの後、コル爺さんに聞いても。少なくとも既知な方法は無いと言われたのに。そうか、としか思わなかった。

 いや、今日は色々なことが有りすぎた。思考が追っついてないのだろう。


 「寝るか」


 『あら、リアリは待たなくても良いのお?』


 「今日は疲れた。リアリも許してくれんだろ」


 『薄情な男だねえ』


 糞スライムと適当に会話して。床に寝そべる。布地越しに伝わる地面の感触は、思ったよりもダイレクト。でもまあ、寝入るのに、困る程でも無い。


 (ああ、やっぱり、眠く――)


 気付いたときには、鉄平は微睡みに包まれて。




 夢を見た。

 昔の思い出だ。

 高校の時、初めて日本一になった時の記憶。

 皆が、拍手で俺を称えて。

 両親は、泣いたりなんかしていて。

 だから俺は、色んなモノが報われた気がしてた。

 だから俺は、其れからも頑張り続けた。

 なのに、俺の右手にはもう、円盤は無くて。


 ただ――疼くばかり。




 「――――」


 『――起きな、ご主人様。呼ばれてるぜ』


 「……ああ、そんな素敵なゲロボイス、朝から聞きたくなかった……」


 これも夢だと、誰か言ってくれ。

 一発で眠気も吹っ飛んで、鉄平は起床した。


 『いやあ、そんなに褒めるなって。其れよりもぉ、リアリくんが朝飯のときに用が有るんだって!』


 「ああ、了解」


 誰も褒めちゃいないが、そんなの構う奴じゃ無いのは、昨日でよくわかった。

 リアリがやってくれたのだろう。上から掛けられていた毛布を、畳んで隅に置いて。どうやら、配給になってるらしい飯を取りに行く。

 ――外は未だ、早朝も良いところだった。


 『ごめんね……このくらいの時間じゃないと、目立つからさ――』


 ――君も、僕も。リアリが、陰気臭く言う。

 俺は目立つのもオーライカモンなのだが、リアリも嫌なら仕方ない。

 ぶらぶら、朝の散歩がてら。配給テントへ向かう。


 「そういやリアリ、朝飯のときの話しって?」


 『ああ……テッペイに世話係を付けることになったから、紹介したかったんだ』


 「世話係?」


 『うん。世話係兼、観察役。僕はそんなに、一緒に居られないから』


 あら、随分親切なこった。しかも、早い。こんな状況、執政もマトモに回っちゃいないだろうに、どうやったんだろうか。


 「昨日の今日で、どっから見つけて来たのさ?」


 『……向こうから、申し出が有った』


 「は? おいスライム、お前翻訳間違えてんだろ」


 『残念ながら、正しいぜえ』


 ――背中に、悪寒が走った。




 朝飯のは、芋と野菜のスープだった。前はここに、パンがついたと言ったけれど。小麦も畑も無くなったらしくて。どうにか、キャンプで生やせるもので作ってるとか。


 (まあ、食えるだけマシだ。いざとなれば、蓄えもある)


 自分の腹を見ながら。


 「結局、志願者って何さ……?」


 『僕の、一応知り合い。キャンプを連れて歩いた時に、見てたらしい。其れで、アイツは何だとか、昨日の夜にそういう話になった』


 「なるほど……」


 リアリの、知り合いなら。まあ、そんなに悪いヤツじゃないだろうか。でも、不安が拭いきれない。たらりと、背中に汗が伝う。

 身の丈190あるガチムチデブを見て、この人世話したいって思うやつがいるか? いや、いない。いても、マトモなはずが無い。


 「で、どういう奴?」


 『職業は、兵隊。元の部隊が壊滅したから、今は使い走りみたいになってしまった、ね……』


 「お、おう」


 はい、出ました軍役。鍛え抜かれた体を持て余した、戦士。其れがもう、俺を求めるとか、もうそういう事じゃん。

 いやまだ、ただの親切な人の可能性が有る! きっとそうだ、そうに決まってる。


 「ち、因みに理由の方は……」


 『何か、一目惚れらしい』


 「ド直球じゃねえか畜生!!」


 前略、お母さん。貴方の息子は、見知らぬ土地で娘になるかもしれません。でも、心配しないでください。元気にやっていきます。世界も滅ぶそうですが。かしこ。


 「ねえ、リアリさん。会わなくても良い……?」


 『申し訳ないが、観察役でもあるから。これは決定だよ』


 「そでございますか……」


 『そろそろ、来るんじゃないかな……』


 ああ、願うなら。一分先の未来が、永遠に来ないでくれ。

 そんな望みが、叶うわけも無く。


 『ああ、居た。アレだ』


 リアリが指さした先。其処に居たのは、


 「え」


 確かに、腰に差したナイフ。ブレない歩み。様相とか、佇まいとか。戦士の其れで、ある気がするけど。でも、その姿は間違いなく――




 「――女の子おおお!?」


 『ああ、キコって言う』


 なんてこった。とんだミスリードをしちまった――テッペイの頭は、そんなことを考えながら。

 拳は、天を向いていた。

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