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動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
1章 I Don't Want To Change The World
4/50

004 デブ、予想外

 「ああーーっ、骨が折れた……」


 『すまないね、テッペーくん』


 なんとかかんとか、自分の現状を伝え終わって、一息つく。うんこスライムの通訳越しに、コル爺さんに謝られながら。

 俺の右手の正体については、向こうもすぐに思い当たった様で。だからこそ、俺がマトモじゃねえと思われた。そりゃあ、脳に寄生して操るスライム。頭を侵されて居ないほうが珍しい。


 『うん。君が他の世界から来たっていうのは理解る。そういうのは今までも、稀にはあったからね』


 其れで、今はその話。俺が他の世界から来たって話。

 意外にも、向こうの反応は穏やかで。なるほど、無い話じゃあ、無いのか。


 「じゃあ、他にも居るのか。俺みたいな異世界人」


 『いや、居ない。もしかしたら居るのかも知れないけれど……居ないだろね。モノとか瓦礫は偶に来るけれど、人なんて殆ど来ない。其れに、生きた人(・・・・)が来るのは、初めて見る』


 「生きた、人……」


 詰まりは、他の来訪者は――

 ぞっ、と。首筋に寒気を感じる。


 『だから、君の言う地球って世界のことは理解らないよ。ただ――ね』


 コル爺さんが、少し申し訳なさそうに。


 『最近は、飛来物も増えてた。こういうコトがあっても、おかしくは無いと思ってるよ。じゃあ、改めて――』


 重い口、開く。他の奴らも、目を伏せて。




 『――滅びゆく世界へ、ようこそ。テッペーくん』


 自虐気味に、そう言った。







 「――滅びゆく、世界……」


 一瞬、スライムの翻訳ミスを疑った。でも、違うらしい。


 『うん。この世界は滅ぶ。別に、とんでもない敵がいて、そいつに滅ぼされるとかじゃなくて。もう、寿命なんだ……』


 寿命。言ってることが理解らない。星の寿命とか、聞いたことは有るけれど。そういうことだろうか。

 そう思って、聞いて見るけれど。


 『理解らないけれど、違うと思うよ。もっと直接――世界が先に滅び始めてる』


 「いや、すまない。何を言ってるかさっぱり……」


 何だ、世界の滅びって……


 『そうだね……外、出てみようか』


 そう言って、コル爺さんは席を立った。イケメン……いや、リアリが入り口の仕切り布を(めく)る。

 コル爺さんに続いて、俺も外へ出て。ああ――外はすっかり、暗くなっている。気温も、結構寒い。


 『君の世界の星空って、どうだったかな?』


 コル爺さんに聞かれた。まあ、都内だったからな。あんまり綺麗には見えなかった。其れこそ、こんな田舎と比べたら――


 「――え」


 『そうか、多分綺麗だったんだろうね。――此処に比べたら』


 星が、無かった。昼間、外は快晴だった。夜になって、急に雲が掛かったとか、そういうことは無いだろう。

 でも、無い。星が。目を凝らせば、薄く、微かに光る恒星はある。でも、其れは弱々しく瞬くばかり。とても、田舎で見る空の輝きでは無い。


 『昔は、もっと見えたんだよ。私が小さい頃は、何倍も。古い資料の天体図なんかだと、もう、無限のように有ったらしいね』


 「でも、無くなった……」


 『そう、無くなった。始まりは、700年くらい前みたいだね。星が消え始めた。謎の飛来物が増えた。其れで、段々そういうことが増えて――』


 此れは、おかしいと。人々が口にし始めたとき。




 『――世界に、穴が空いたんだ』




 「あ、な……」


 俺は、ただオウム返しをするばかり。

 脳の処理速度が、追いつかない。


 『地面に穴ぼこ空いたとか、そういうワケじゃないよ。空も、海も、空間全体が無くなってる。無かったことになってる。在るのは、不思議なうねり(・・・)ばかりだ。今度一回、見てくると良い。あんまり近づくと良くないけれど、望遠鏡で覗くくらいなら大丈夫さ』


 「わ、分かった」


 取り敢えず、承諾はして。

 其れで、疑問を尋ねる。


 「どれくらい、残ってるんだ……?」


 『どれくらいかなあ。ウチの国の多分半分くらい。其れだけ残して、みんな穴になっちゃったと思う。最初はゆっくり、何年も掛けてだったんだけどね。ここに来て、急に加速し始めちゃった』


 「じゃあ、そこに居た人達は……?」


 『飲み込まれたよ。今いる人間の生き残りは、ここ以外に、あと二つのキャンプがあるだけ。つい最近までは有ったんだよ?大っきい都市。其処に、世界の生き残りの殆どが集まって、どうにかしようと頑張ってたんだ。予測が外れて、まるごと無くなっちゃったけどね』


 キャンプ、三つ。其れが最後の生き残り。

 其れが今ある、文明の全て。


 『この世界は、大体こんな感じだね』


 『――コル様、其れだけじゃ、無いでしょう……』


 コルの話、終わろうとして。横槍が跳んできた。イケメン、リアリだ。

 ああ、そうだね――コル爺さんから、詫びを貰って。


 『人間の生き残りは、キャンプ三つ。其れで全部だけどね、居るんだよ他にも。獣、魔物、亜人、其れから――魔人。みんな数は減っちゃったけどね』


 亜人に、魔人。スライムが、俺の理解る言葉に直してくれてるのだろう。

 少なくともそいつらは、人間とは呼ばれて無くて。


 『自分の種族を生きながらえさせる、少しでも。其れは本能だよ。でも、其れには土地が足りない。今の住処が、まるごと吹っ飛ぶ可能性もある。みんな、穏やかに余生を過ごすって道は……無かったのさ』


 ああ、察した。狭い中、違う種族達が閉じ込められて。

 そうなったらもう、蠱毒の壺とか。その類だ。


 『――この世界の危機に、僕らは戦争をしている』


 ああ、やっぱり。

 なんて、救われない。




 『――楽しそうだろ、ご主人様ぁ?』


 ――グチュ。最後にスライムが、反吐の出そうな声でそう言った。

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