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動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
1章 I Don't Want To Change The World
3/50

003 デブ、寄生されてた

 イケメンの後ろをずっと歩いて、実に三時間。これだけ歩いたのはいつぶりか。いい加減ヘトヘトで。そろそろ休憩させろと、何とか伝える手段は無いか考え始めたそのとき。


 「――――」


 金髪イケメンが、指を指す。木々の向こう、山の(ふもと)

 何だ、何か在るのかと。その先を見やって。


 「――あ」


 見えた。明らかな人造物の集まり。

 白い屋根、点の様に見える人間。

 でも、村と言うにはお粗末過ぎて。


 「――野戦、基地?」


 簡易的な、テントばかり。数百、いやそれ以上。

 鉄郎の人生では見かけたことの無いもの。碌に無い知識の端に、引っかかるとしたらそれが近い。

 こんなモノが作られるくらいだ、平時では無いのだろう。けれど、何か違う――


 (敵襲への、備えが無い?)


 塹壕とか、そんな上等なものでなくても。少なくとも、もうちょっとマシな備えがあっても良さそうなのに。

 そんなコトを考えて。


 「そうか――基地じゃなくて、キャンプだ」


 キャンプ。難民キャンプ。アフリカとか中東とか、その辺りを今まで気にしたことはなかったから、気づかなかったけれど。

 どうにも、陰鬱に見えるのもそういうことか。


 「じゃあ、もしかして――」


 此方が、いくら喋っても。目の前の青年の反応は無く。だから、構わず独り言を呟く。


 「――結構、やばいところに来ちまったのか」


 鉄郎の額を、冷たい汗が流れて。

 どくん、と。右手が一回、脈をうった。




 随分と、ジロジロ見られながら。俺達はキャンプの中を歩いた。眼差しに込めるものは人ぞれぞれだけれど。――イケメンへの其れは、心なしか非難的だったかもしれない。

 そして、テントに通された。汚いテントだ。何より臭い。中に居る人間の、生活状況が伺える。


 (結構、偉い奴に見えるけど)


 居るのは、椅子に座った爺さんと。周りに、おっさん、おっさん、金髪イケメン。

 まあ、どれも下っ端って様子じゃない。なのにこんなに汚く見えるのは――其れだけやべえってことだ。


 「――――」


 「――――――」


 おっさん1と爺さんが話しかけてくる。全然解らん。向こうも困った様子で、頭を捻っている。

 まあでも、其れなりに友好的な気がする。イケメンは助けてくれたし、余所者は問答無用で極刑でことは無さそうで。だから。


 「成田鉄平。なりた、てっぺい」


 自分を指差して、名乗る。コミュニケーションの第一歩は、自己紹介って相場で決まってる。


 「ヌリテ、トゥペイ」


 向こうが、復唱する。おう、大体合ってる。合ってるが、トゥペイは締まらんし何かやだ。


 「鉄平。てっ、ぺー!」


 「テッペー」


 オッケー。分かったようだ。

 今度は爺さんが名乗る。


 「コル」


 コル。コルか。まあ分かりやすくて良いな。次は――


 「リアリ」


 イケメンが、ポツリと呟く。リアリか。名前もソコソコいけてんなコイツ。

 でも、どうにも伏し目がちで、悲しげだ。目にも隈がかかってる。折角のイケメンが台無しだぞ。


 「――テッペー――――」


 「――――」


 そして、爺さんがおっさん1、2と話し始める。うーむ、こうなるともう分からん。

 イケメンに目配せしてみるけれど、元気なく笑うだけで何も返してくれない。悲しい。


 「せめて通訳がいりゃ良いのに――」


 そんな、無茶な願いなんか、言ったりして――




 『――通訳なら、此処に居るぜえ』


 テントに、日本語が響いた。自分以外で、初めての。

 でも其れは、都合よく同郷の人間が居たとか、そういうことじゃなくて。もっと(おぞ)ましい――


 『――宿を借りてる身だしなあ、ちょっとくらい手伝ってやるよ』


 爺さんとおっさんが、驚いたように此方を向く。イケメンは剣を抜いた。

 ああ、そうなるとも。全くもって正しい反応だ。何せ――




 鉄郎の右の手のひら。ドス黒く、ぶくぶく膨らんだ其れが、バックリ割れて――口となって、喋っていた。







 「何だ、何だよてめえっ!」


 『あら、ツレナイねえ。ご・主・人・様っ』


 「気色悪い言い方すんな!」


 右手の口が、げらげら笑う。その度に、汚え汁が糸を引いて。グロテスクにも程がある。


 「良いから質問に答えろっ」


 『オーケーオーケー。分かったよご主人様。でも悲しい言い方しないで欲しいねえ、さっき肌を重ねた仲だろう?』


 「肌って――やっぱりお前、あのスライムか……」


 『ご名答』


 まあ、予想通りは予想通りだ。だが、信じられんことでも有る。周りの爺さんもおっさんもキョトンとしてるし、この世界では普通ってワケでも無さそうだしな。


 「お前が何で……俺の右手に居るのかってのは想像が付くから聞かん」


 めっさ核みたいなん埋め込まれたしな。


 「そんで、何でその糞スライムが日本語を喋ってんだ」


 『そりゃあ、ご主人様の脳をトレースしたからに決まってんだろうさ』


 ちょちょいとね。巫山戯た口調で、スライムが言う。


 『元々、俺らの種族に知能なんて無い。だから、在るのは本能だけ。本能で他の生命に寄生して、そこで初めて意識が芽生える』


 「じゃあ、頭を狙って来たのも――」


 『そうさ、そっちに行けばまるごと支配できるからな。まあ、ご主人様が頑張っちゃうものだから、腕に行くしか無くなっちまった。脳のトレースなんかは、スキルだからどうにかなったけどねえ』


 ニチャリ、薄気味悪い笑みを浮かべる。


 「まあ、置いとこう。そんで、お前が何で協力しやがるのかも、この際聞かん」


 『あら、酷いじゃねえか』


 「無駄口叩くな。――で、だ。お前が日本語を喋れんのは分かったが、其れで何で通訳が出来る」


 『ああ、そんなコトかよお』


 馬鹿にするように、スライムが言う。


 『さっき言ったじゃねえか。スキルだよ、スキル。この世界でそういう呼び方をするわけじゃねえけど、まあどうでも良いね――』


 「スキル……か」


 『そうさあ、スキルだ。お前がスライムと呼んだ種族は、幾つかスキルを持ってる。増殖、治癒、寄生、そんで記憶のトレースだ。このトレースは、便利なもんで、ちょっとくらい離れていても使えるのさあ』


 だから脳に寄生出来なくても、ご主人様のトレースが出来たワケ。

 スライムが、そう語る。まあ、理屈は知らんが、言ってることは理解る。いろいろファンタジー過ぎて頭が追いついて無いが、まあしゃあねえ。


 『で、どうだい? 通訳、折角買って出たんだから、乗った方がトクだろう?』


 「糞が。まあ、腹立つが――」


 この際、頼れるものは猫でもスライムでも使ってやる。




 「――やってくれ」


 『オーケイ。分かったぜご主人様』


 先ずは、完全にヤバイ奴を見る目をしてる、目の前の現地人達の誤解から解かなきゃならん。

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