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動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
4章 Right Now
29/50

029 デブ、気まずい

 「北の方で、()が空いたって……」


 「獣も最近多いし、もうここも駄目なんじゃねえか?」


 あれから、一月。

 キコの持ち帰った情報は、統制されて。民衆には伏せられていた筈だった。

 でも、いつまでもは隠しきれない。すっかり広まって。皆、口々に。


 「思ったより、落ち着いてるな」


 『慣れっこなんだろ? いちいち慌てるほど、みんな元気ねえだろうしな』


 「理由が残念すぎる……」


 一人、いや、二人かもしれない。右手と会話しながら、キャンプを歩く。目的は無い。

 キコとのトレーニングは、相変わらず続けてるけれど。それ以外の時間、一緒に居ることはあまり無かった。飯と、寝るときだけ。それだけ一緒に居れば、十分長いかもしれないけれど。


 (ついこの間まで、離れる事が無かったからな……)


 随分、寂しいような気もする。

 気まずくて離れているのは、俺だけれど。


 『女々しいねえー』


 「さらりと思考を読むな!」


 俺にプライバシーは無いのか。


 『まあでもさあ。なんやかんや、会話はしてるワケじゃない? ご主人様も怒ってるわけじゃないなら気にすることないでしょうよ』


 「いやまあ、そうなんだけどさあ……」


 その通りでは、ある。

 俺は別に、怒っちゃいないんだ。普段の軽いノリで、そのまま突っ切ってしまえば良いはずなのに。


 「どうにもさあ。キコも俺の事を避けてるみたいなんだよねえ……」


 『あら、気づいてたのね』


 「お前知ってたのかよ」


 そりゃあそうか。多少の感情は、離れていても分かるらしいし。


 「とう言うわけで、やっぱり気まずいのよ」


 だからこうして。ぶらぶら歩いている。時折、後ろ指を指されながら。

 自分の右腕と話す大男の姿は、そう見ても不審者で。それも仕方ないが。


 (騒がれることは減ったな)


 一時期は、結構あったのだけれど。

 やっぱりそれも、慣れたのだろうか。陰口くらいは、叩いてそうだが。

 そんなとき。


 『おいご主人様。彼処に見覚えのある奴らがいるぞ』


 「ん?」


 見覚え――?

 スライムの言う所、視線を送る。其処には、子供たちが何人か。知りはしないけれど、懐かしい、手遊びをやっている。――ああ、その輪の中に。


 「あの時の姉弟か」


 亜人の騒ぎのときの姉弟。この手で抱えて、救えた命。

 あまり、気に留めることは無かったけれど。こうして笑っている所を見れるのは、悪いもんじゃないな。


 『おっ。こっちに気づいたな』


 まさに、手遊びの真っ最中だった姉のほう。此方に気づいて、驚いた様子で。狼狽えながら、此方に意識を向けようとしているけれど。

 残念、相方の子を放るワケにも行かず。


 「まあ、また今度だな」


 わざわざ、あの輪の中に入る必要も無いだろう。

 じゃあねと、軽く手を振って。ゆっくり、立ち去る。

 うん、良いものが見れて良かった。


 『で、どこ行くのよ?』


 「いや、決めてねえし。取り敢えず、端っこでも目指すわ」


 獣の来る数は、どんどん増えてるという。柵や、堀。折角作ったんだ。様子を見てもバチは当たらないだろう。

 それも、ひと目見てしまえば終わりなわけだけれど。

 

 「よし。ランニングでもすっか」


 この間から、体力不足が露呈している。きっちり、筋持久力も鍛えねばならぬと、ほぼ毎日走っていた。

 一月もやれば、何となくはマシになった気もする。


 「よーい、どん」


 『自分でそんなこと言って、ご主人様は寂しくないの?』


 水を差すんじゃねえよ元不定形。寂しいに決まってるだろ。

 横槍を無視して、駆け出す。

 一定のリズム。一定の呼吸。しんどいくらいを、きっちり保って。


 (俺、強くなってんのかな……)


 走ってる間は、考え事がよく捗る。

 でも、体とは反対に。頭の中は、後ろ向きなことの方が多くて。


 (キコとのトレーニングは、ちゃんとやってるけれど。試合になると、前とまるで変わらず。偶に、魔獣とかと戦うことも有ったけれど、助けが居ないと、不安さは拭えない)


 何か、マンネリになっている様な気もする。

 いや、鍛錬てのはそんなに簡単じゃない。10センチの飛距離を稼ぐのに、何ヶ月かかることも有った。

 高々一月其処らで、成長することを求めるなんて。贅沢な望みという他無い。


 (でも、焦りはするさ)


 何せ、タイムリミットが解らない。

 明日には、キコの恐れるものが来るかもしれない。キャンプにまで、穴が空いちまうかもしれない。


 「変化が、欲しいな」


 思わず、口に出る。

 例えば、違う誰かと試合するとか。どうにも、キコ相手だけじゃ、バリエーションが悪い。

 そもそも、キコは剣を使わない。其れなりには、修めてるみたいだけれど。手本が見れないのは、ちょいしんどい。


 『そうねえ。ご主人様がそう思う気持ちも、よく分かるよ俺』


 「珍しく同意してくれるのはありがてえんだが、この間まで本能オンリーだった魔獣さんに何が分かるんだい?」


 『偶にはこんな、むさ苦しいデブ以外にも寄生したいって思うもの』


 「右手ごと摩り下ろすぞ粘体野郎ッ!!」


 てめえが襲ってきたんだろうが。


 『やあ……ご主人様、こわいっ』


 「何言ってもおめえの声ゲロ吐き続けてるような汚さなのは変わんねえからな! あと前から思ってたけど、通訳のときに感情込めるのマジやめろ」


 特にキコのとき。素敵で可愛いクールボイスが、コンポスト突っ込んだみてえに訳されるとこっちまで腐りそうなんだよ。


 『ひどいご主人様だねえまったく。あと、着いたぜ端っこ』


 「お前に非道いとか言われたか無い。――っとまあ、もう着いちまったのか」


 喋りに夢中になってれば、道中も案外苦じゃ無いな。其処は、スライム野郎にも感謝しとくか。誠に不本意だが。


 『あら? 今日は何か、知り合いによく合うねえ』


 「は、また?」


 そんなに、知り合いなんて居ねえんだけど。

 とまあ、スライムの言うところの方、見やって。――ああ。


 「リアリ……」


 なんやかんやで、久しぶり。

 黄金の髪を風に靡かせて。見張り台の上、憂い顔の美青年が立っていた。

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