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動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
4章 Right Now
27/50

027 デブ、不安

 「キコ、あのさ……」


 『何?』


 俺達は、北に歩く。亜人の言葉を確かめに。足取りは重い。

 俺が乗り気じゃないてのもあるけれど。キコも、相当に疲労していて。

 だから二人、足並みを揃えて進む。時間にも、余裕が歩くから。


 「何か、俺にやって欲しいこととかさ、やるべきこととかさ。そういうのが有ったら言ってよ! 俺、何でも言うこと聞いちゃうから!」


 だから、まだ見捨てないで。そこまでは、言えないけれど。

 前にも思った。せめて、人の役に立ってから死にたい。キコに利用されて死ぬのは、一向に構わなかった。ただ、見捨てられるのは嫌だった。――ひとりぼっちには、なりたくなかった。


 『……』


 キコは答えない。

 こっちを見すらしない。


 「あれ、気に障ったならごめんよ。でもさ、思ったんだ。俺、ほんとキコに迷惑かけてばっかりだったから――」


 『――黙って』


 やっと、キコがこっちを見た。まっすぐ、俺を睨みつけて。

 気に触ったなら、じゃない。気に障ったんだ。

 思わず、調子の良さもたち消えて。押し黙ってしまう。


 『――右腕に、なにか聞いたの』


 そして、問いかけられた。

 ちょっと、わざとらしすぎた。すぐに気づかれちまった。

 隠し事、向いてないのかね。


 「うん……」


 『そう』


 キコは素っ気ない。俺と暮らす目的、バレたから? なんか、でも、違うような気はするけれど。

 そういや、素っ気ないのはいつものことだった。だからもしかしたら、彼女がいつもと違って見えたのなら、本当は自分自身のせいかもしれない――


 「キコ。俺はさ、別に、キコのために死ぬのは構わないよ。さっきも言ったけれど、言うこと、何だって聞くし。それで、恨んだりもしない。だから、キコも気にしなくていい」


 『……』


 「けどさ――」


 ああ、さっきからずっと、不安にかきたてられていて。

 だから急に、変なことを言い出して。キコにも勘ぐられてしまって

 そうなった理由、分かった。


 「――キコ。俺は、何と戦えば良いのさ?」


 魔人と、あんな化物と戦えるくらいになって。

 それだけ、強くなったとして。

 俺の敵、キコの敵。それって、何なんだよ。スライムは言った。キコは未だ隠してるって。

 それが分かんなきゃ、闇雲になるだけだろ。


 『それは――』


 キコは、口を開いて。


 『――言わない』


 教えちゃ、くれないのか。


 「どうしてだよっ!? もう、利用するために俺の世話係になったことだってバレたんだぞ!? なら、その理由まで吐いちまって良いだろっ」


 『簡単。言いたくないだけ』


 「意味分かんねえよっ。こっちはさ、ワケ分かんねえことばっかで頭がおかしくなりそうなんだよっ! これ以上、俺を混乱させないでくれよ!」


 くそっ。何でさ。何で答えてくれないんだよ。

 別に、ソレがどれだけとんでも無いことで。キコを恨みたくなるような何かであっても。――俺は、構わないのに。


 「せめて、せめて! 騙してくれよっ。適当にそれっぽい理由付けてくれりゃ、ソレで俺は納得するよっ!」


 そうしないと。心がぶっ壊れちまいそうだから。


 『テッペイ』


 「何だよ!?」


 ああ、酷く興奮してしまって。キコにあたってしまう。

 そんなことしたって、意味なんか無くて。でも仕方ないだろ。もうずっと、頭がぐちゃぐちゃなんだ。

 それで結局キコは――


 『――さっき、言った。言うことを何でも聞くって。だから言う。黙って、受け入れろ』


 「え……」


 そりゃあ、無いだろ。


 『テッペイの気持ちは分かる。分かるけれど、私は言わない。ただ、言いたくないってだけで』


 キコは淡々と、淡々と喋る。


 『でも、テッペイのことは利用する。強くはなってもらうし、私の望む全てを果たせるようになってもらう』


 その内容は、酷く傲慢で。

 優しさとか、そういうの。一切見せてくれなくて。


 『一つだけ教える。私の隠し事、大したモノじゃない。別に、言ったってどうこうはならない。でもテッペイには、そんな()したことすら知らずに死んでもらう』


 それがまるで、決定事項のように。

 いや、ようにじゃないか。キコの中ではもう、決まったことなんだ。


 『――どうするの、テッペイは?』


 くそっ、くそっ、くそっ!

 そうやって言われちまえば、俺はっ……


 「俺は、言ったぞ……」


 そうだ。言った。キコも言ったじゃないか。

 だから返事なんて最初から……


 「……何でも、言うこと聞くって」


 『そう』


 「そうだよっ……!」


 開き直ったわけじゃなかった。そう、出来たのなら良かったのだけれど。

 ただ、そうとしか言えなかっただけ。色んなものを引きずったまま。

 ――それ以外は、言えなかった。




 「……」


 「……」


 結局それから。轡を並べて歩いちゃいても。

 もう、何も話しやしなくて。


 (もう、よく分かんねえや)


 心は、落ち着いた。またいつ、吹き出すか分からねえけど。

 今はただ、義務感のようなものに突き動かされて。


 (気まずい、よな……)


 さっきは、どうかしてたと思う。

 恐怖が、緊張が、焦りが。止まらなくなってしまって。仕方ないとは思わない。

 もう、取り返しはつかない。俺とキコの関係は、いびつに歪んでしまった。


 『大丈夫大丈夫。最初からマトモじゃないって』


 「……」


 コイツだけは、何も変わらず。

 ただ、ちょっと腹は立つ。


 『テッペイ、着いた』


 「――ああ」


 そうこうして。着いた。目的地。

 盆地から三つ。山を歩き続けて続けて。

 魔人(アピス)に、言われた場所。辺りで一際高い、ピーク。


 「明日か……」


 面白いものとは、何だろうか。

 獣達は、なぜ亜人の集落(コロニー)を襲ったのか。


 ――明日になれば、分かるのだろうか。

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