027 デブ、不安
「キコ、あのさ……」
『何?』
俺達は、北に歩く。亜人の言葉を確かめに。足取りは重い。
俺が乗り気じゃないてのもあるけれど。キコも、相当に疲労していて。
だから二人、足並みを揃えて進む。時間にも、余裕が歩くから。
「何か、俺にやって欲しいこととかさ、やるべきこととかさ。そういうのが有ったら言ってよ! 俺、何でも言うこと聞いちゃうから!」
だから、まだ見捨てないで。そこまでは、言えないけれど。
前にも思った。せめて、人の役に立ってから死にたい。キコに利用されて死ぬのは、一向に構わなかった。ただ、見捨てられるのは嫌だった。――ひとりぼっちには、なりたくなかった。
『……』
キコは答えない。
こっちを見すらしない。
「あれ、気に障ったならごめんよ。でもさ、思ったんだ。俺、ほんとキコに迷惑かけてばっかりだったから――」
『――黙って』
やっと、キコがこっちを見た。まっすぐ、俺を睨みつけて。
気に触ったなら、じゃない。気に障ったんだ。
思わず、調子の良さもたち消えて。押し黙ってしまう。
『――右腕に、なにか聞いたの』
そして、問いかけられた。
ちょっと、わざとらしすぎた。すぐに気づかれちまった。
隠し事、向いてないのかね。
「うん……」
『そう』
キコは素っ気ない。俺と暮らす目的、バレたから? なんか、でも、違うような気はするけれど。
そういや、素っ気ないのはいつものことだった。だからもしかしたら、彼女がいつもと違って見えたのなら、本当は自分自身のせいかもしれない――
「キコ。俺はさ、別に、キコのために死ぬのは構わないよ。さっきも言ったけれど、言うこと、何だって聞くし。それで、恨んだりもしない。だから、キコも気にしなくていい」
『……』
「けどさ――」
ああ、さっきからずっと、不安にかきたてられていて。
だから急に、変なことを言い出して。キコにも勘ぐられてしまって
そうなった理由、分かった。
「――キコ。俺は、何と戦えば良いのさ?」
魔人と、あんな化物と戦えるくらいになって。
それだけ、強くなったとして。
俺の敵、キコの敵。それって、何なんだよ。スライムは言った。キコは未だ隠してるって。
それが分かんなきゃ、闇雲になるだけだろ。
『それは――』
キコは、口を開いて。
『――言わない』
教えちゃ、くれないのか。
「どうしてだよっ!? もう、利用するために俺の世話係になったことだってバレたんだぞ!? なら、その理由まで吐いちまって良いだろっ」
『簡単。言いたくないだけ』
「意味分かんねえよっ。こっちはさ、ワケ分かんねえことばっかで頭がおかしくなりそうなんだよっ! これ以上、俺を混乱させないでくれよ!」
くそっ。何でさ。何で答えてくれないんだよ。
別に、ソレがどれだけとんでも無いことで。キコを恨みたくなるような何かであっても。――俺は、構わないのに。
「せめて、せめて! 騙してくれよっ。適当にそれっぽい理由付けてくれりゃ、ソレで俺は納得するよっ!」
そうしないと。心がぶっ壊れちまいそうだから。
『テッペイ』
「何だよ!?」
ああ、酷く興奮してしまって。キコにあたってしまう。
そんなことしたって、意味なんか無くて。でも仕方ないだろ。もうずっと、頭がぐちゃぐちゃなんだ。
それで結局キコは――
『――さっき、言った。言うことを何でも聞くって。だから言う。黙って、受け入れろ』
「え……」
そりゃあ、無いだろ。
『テッペイの気持ちは分かる。分かるけれど、私は言わない。ただ、言いたくないってだけで』
キコは淡々と、淡々と喋る。
『でも、テッペイのことは利用する。強くはなってもらうし、私の望む全てを果たせるようになってもらう』
その内容は、酷く傲慢で。
優しさとか、そういうの。一切見せてくれなくて。
『一つだけ教える。私の隠し事、大したモノじゃない。別に、言ったってどうこうはならない。でもテッペイには、そんな端したことすら知らずに死んでもらう』
それがまるで、決定事項のように。
いや、ようにじゃないか。キコの中ではもう、決まったことなんだ。
『――どうするの、テッペイは?』
くそっ、くそっ、くそっ!
そうやって言われちまえば、俺はっ……
「俺は、言ったぞ……」
そうだ。言った。キコも言ったじゃないか。
だから返事なんて最初から……
「……何でも、言うこと聞くって」
『そう』
「そうだよっ……!」
開き直ったわけじゃなかった。そう、出来たのなら良かったのだけれど。
ただ、そうとしか言えなかっただけ。色んなものを引きずったまま。
――それ以外は、言えなかった。
「……」
「……」
結局それから。轡を並べて歩いちゃいても。
もう、何も話しやしなくて。
(もう、よく分かんねえや)
心は、落ち着いた。またいつ、吹き出すか分からねえけど。
今はただ、義務感のようなものに突き動かされて。
(気まずい、よな……)
さっきは、どうかしてたと思う。
恐怖が、緊張が、焦りが。止まらなくなってしまって。仕方ないとは思わない。
もう、取り返しはつかない。俺とキコの関係は、いびつに歪んでしまった。
『大丈夫大丈夫。最初からマトモじゃないって』
「……」
コイツだけは、何も変わらず。
ただ、ちょっと腹は立つ。
『テッペイ、着いた』
「――ああ」
そうこうして。着いた。目的地。
盆地から三つ。山を歩き続けて続けて。
魔人に、言われた場所。辺りで一際高い、ピーク。
「明日か……」
面白いものとは、何だろうか。
獣達は、なぜ亜人の集落を襲ったのか。
――明日になれば、分かるのだろうか。




