020 デブ、お前の隣に
『テッペイ、次それ運んで』
「イエス、マムっ」
キコに言われて、力仕事、重い運びもの。
亜人の被害、そんなには無かったて聞いたけれど。それでも、やられた所は其れなりに。
テントも幾つも駄目になって、柵なんかも殆ど壊れて。人出は、いくら有っても足りなかった。
『其処の一山、運び終わったら休憩』
「あらま。未だ未だ働けるよ、おれ」
『勿論、仕事も未だ未だある。でも、キリが良いときは休む』
「わかり申した」
そうだな。休むときは休む。何にしても、それがいっちゃん大事だもの。
両手に、木材を引っ掴んで。残りをぱぱっと運び込みに行く。
「――――」
鉄平が離れてからも、キコはあちこちに指示を出して。
一向に手が空く様子は無い。
「こんなところでも、矢面に立つもんなんだな」
『まあ、こういうのは兵士の役目でもあるけれどねえ。でもさあ、其れをキコちゃんがってのは、違和感あるよねえ。しかも、指示まで出しちゃってさあ』
「だよなあ」
使い走りとか、何とか。言ってたけれど。未だ若い、しかも女性兵で。性格も、向いてるとは思えない。
どう考えたって、その領分を超えた働きをしている。
「おいおい、理解るもんかねえ」
『その前におっ死んじまわなけりゃな』
「笑えないから止めてっ!」
この間、死にかけたばっかりじゃん。
本当に怖かったんだからっ。
『おっと、あんまりくっちゃべってると、キコちゃんに叱られちゃうよ』
「あっ、既にこっちをジト目で睨んでらっしゃるっ!」
ちゃっちゃと積んで、休みに入ってしまわなきゃ。
気合を入れ直して、キビキビ働く。積み終えたら、キコの方に戻って。
「じゃあ、休憩入るねー」
『おつかれ。私は用があるから、もう少しで居なくなるけど。休憩終わったら、指示仰いで働いてて』
「あいあいさー」
また、別の所に駆り出されるのか。大変だなあと、考えながら。
取り敢えず、水を飲みに行くことにした。
「死体の処理は終わりました」
「ご苦労」
速やかに、報告をして。男が下がった。工兵隊の指揮官である。
応じたのは、コル。このキャンプの長。
「一先ずは安心ですかね……」
「其れでも、魔獣は来るだろうがな」
側近の言にも、コルは安心したりはしない。
間違いなく、来る。血の匂いを嗅ぎつけて。其れだけの血が、この戦で流れた。
「次に、例の件ですが……キコ」
「はい」
キコが、前に出る。
其れを、色眼鏡に見る者は居ない。皆、其れが当然だと認識している。
「見張りは全滅。他殺によるもの。争った形跡は有りません」
いつもよりは、丁寧な言葉づかいで。キコは一息に話しきる。
其れを聞いて、集まった面々は。皆、神妙な面持ちになって。
「魔術の形跡は?」
疑問を口にしたのは、先の戦いで、前線指揮を担った男。名を、アモット。
「ない。皆、刃物で急所を切られただけ」
「そうか……。人か魔人かは、分からんな」
そう言って、アモットも口を噤んだ。
「私は、魔人だと思う。ただの勘だけど」
「其れじゃあ、結論は出せんしな」
此度の議題の、最も重要な事項がそれであった。見張りが殺され、亜人の侵入を許し。
にも関わらず、次の手は来なかった。むざむざ、亜人の鎮圧を許させた。
「何が目的だったのか……」
コルの呟きを皮切りに、次々と意見が飛ぶ。
亜人の仕業か、他キャンプの人間の仕業か。内通者は居たか。何を望んで殺したのか……
でも、これといった予想は立たない。それぞれに、一応の対策を立てつつ。結局は、情報が足りないという結論に落ち着いて。
「暫く、調査が居るな」
結局の、結論はソレ。
見張りの部隊を、抵抗もさせず全滅せしめ。自らの痕跡すら残さない。そんな相手が、近づいてきている。
放置するワケには、いかない。
「明日中に、調査隊の編成を致します」
「頼む」
側近が、返事をして。
本日の議題は、一先ず終わり。
「皆、ご苦労だった。復旧状況は逐一報告しろ」
コルの一言で、会議は終了した。
皆、それぞれの考えを口にしながら。テントから出ていく。
ただしキコは、最後の一人が出払うまで居残って。
「――私は、どこに行く」
いつもの、不躾という他無い言葉遣い。
残ったのは、コルとその側近だけ。自分より、立場が上な人間しかいないの筈なのに。
「調査隊とは別に動いて頂きましょう。今回の亜人の襲来、そのものに気になる点が有りますからね」
「分かった」
反対に、コルは敬語を使って。敬う心は、けして見えないけれど。
キコは軽く返事をして。自分も、出口へと向かう。ただひとつ、この場を離れる前に――
「――それと。何でこの場に、リアリは居なかった」
問いかける。いつもの無表情。
その言葉を受けて、コルはくすりと笑った。角度によれば、嘲笑っても見える表情。
「別件で、動いて貰っています。なんせ、亜人の残党は未だ出ますから」
「……そう」
端から、期待はしていなかったのだろう。そっけなく返して、出口を潜る。
キコの役目は、使い走り。言われれば何でもやる。やるのだけれど。
「――死んで、やるもんか」
決意を、一つ。口に出して。
キコは、テントを離れた。




