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動けるデブの異世界生活  作者: 大和ミズン
1章 I Don't Want To Change The World
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001 デブ、異世界に来る

 みなさん、こんにちは。俺は成田鉄平(なりたてっぺい)だ。

 幼い頃から、やんちゃ坊主。動くことが大好きで。動いたら腹が減るから、飯を食うことも大好きで。すくすく育ち、気付けば身長は190センチ、体重は128キロ。日本人じゃあ、ちょっと見ないくらいの恵体に。


 (まあ、コンプレックスは持っちゃいません)


 この身体でビビられる事はあっても、舐められる事はないし。多少身体は重くても、其処らの奴らよりも運動神経は良い。所以、動けるデブと言うやつだ。一つ欠点を上げるとすれば。


 (女子には全くモテなかったが)


 仲の良い女友達は居たが、其れだけ。彼女いない歴二十一年。ああ悲しい。勿論、童貞。素人童貞にクラスアップしようか何回か迷った。


 (けど、な)


 そんな余裕は、無かったのも事実。何せ、こちとらスポーツマン。何も考えずに、ぶくぶく太ってたワケじゃない。というか、ソップじゃ無いだけで体脂肪率はそんなに高くない。どんなに醜くても、自分のベストの体を作り上げる。其れだけ、本気でやって来た。


 (そうだ――大会に行く所だったろ)


 そう、大会。日本選手権。高校一年のときからやっている、陸上の。

 とは言っても、走ったり跳んだりの方じゃない。専門は、円盤投げ。投擲全般、触っちゃいるが。大学三年の今日まで、基本其れ一筋だ。


 (今年は、絶好調だった)


 其れはもう、最高に。大学入ってから、日本の一番ばっかりとっちゃ居たが。其れでも、今年は段違いに調子が良かった。


 (ウン十年前からの、日本記録。やっと破ってやろうと思ってて)


 60メートルと、22センチ。日本陸上界に残る、最古の日本記録。

 俺は、今日。其れを破るつもりだった。自信はあった。何せ、練習じゃ62メートル超えを叩き出して。61メートル台も、何度も投げた。プレッシャーには強い。寧ろ、客が居る方が盛り上がる。もう、成功する未来しか見えなくて。


 「だからさ。今日くらいは気合を入れて。朝早くに家を出て――」


 いつも通りに自転車に乗って。駅の方に向かって。

 この時間の人通りは少ねえなあとか、思ってたら。目の前が、急にチカチカしだして。




 「――なんで、こんな山の中に居るんだよッ!!」


 肌で感じる熱気は、真夏のそれと同じくらい。目の前に広がるのは、森、森、森。あんまり、見かけたことの無いような、変わった形の木々の中。地面に突き刺さるアスファルトの、止まれの文字だけが、現実味を与えて来て。


 「くそっ。マジかよ……」


 全くもって意味は理解らないけれど。どうやら俺は――飛ばされたらしい。多分、異世界に。







 「やっぱりここ、地球じゃねえよなあ」


 「ゲーッ、ゲーーッ!」


 目の前に居る、目玉の飛び出したカラフルな鳥の鳴き声を聞きながら、考える。

 こんな鳥、どこの図鑑でも見たことがない。いや、こんなのが存在してたら、もっとニュースとかびっくり動物大集合スペシャルみたいなやつに出てくるはずだ。


 「どうしたもんかな……」


 こういう時は、下れば良いのか、登れば良いのか。

 動かないってのは却下だ。遭難が周りに知られていない状況でそんな事をしても、餓死するのが関の山だろう。


 「普通に考えれば、登りかね……」


 上に出れば、辺りも見渡せるし。(いたずら)に下れば、最悪は転落死だ。

 そう考えて、上を目指す。斜面は比較的緩やかだ。尾根にでも上がれば、まあなんとかなるだろう。


 「これで頂上が開けて無かったら、もうどうしようもねえな」


 その可能性も、十分ある。けれど、他に手段が有るわけでも無いし。


 「久しぶりのハイキングだ」


 ポケットから、一本100キロカロリーの固形食品を取り出して貪る。

 水と食料、長く見積もって二日分ってところだろう。大会用に、多めに用意したのが良かった。しかしこんなところに飛ばされるのが分かってたら、もっと持ってきたのに。イヤ、そんなの理解るワケは無いが。


 「ああ、独り言は虚しいな」


 基本、喋りたがりだ。

 会話の相手がいないのは辛い。


 「誰かいねえかなあ」


 そんな呟きも、森に吸い込まれて。


 「誰か居るなら出ておいでーー!」


 時折、叫んでみても。もちろん誰の返事も無く。

 仕方ないから、一人ぼっちで山登り。先が見えない不安は有るけれど、止めるわけにもいかなかった。




 「――はあっ」


 そうやって、二時間くらい。舗装どころか、山道もない中の行軍。幾ら体力がある方だと言っても。慣れない山中、いい加減に足も腰も、堪えてきて。


 「あーーー! 頼むから誰か出てきてくれえっ!!」


 痺れを切らして、叫んだとき。


 ――がさっ。


 「誰か居るのか!?」


 茂みの奥、姿は見えないけれど。

 でも、音が聞こえる。やった、もしかしたら、声に気付いて来てくれたのか――そう思って。




 ――にちゃあ。


 「そう、上手くは行かねえか……」


 目の前に現れたのは、大型犬くらいの塊。薄汚れた黒の、粘液を滴らせる。ブヨブヨとした体を引きずって。

 ちょっと、記憶に有るのとは違うけれど。その姿は――


 「――チュートリアルはスライムって、鉄板すぎるだろ!!」


 望んでいた邂逅相手は、思ってたよりもずっと(おぞ)ましい姿だった。

新作書き始めました。慣れない転移モノですが、頑張ります。更新頻度はかなり遅いです……

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