めでたくふたたび季節はめぐり、しばしおくれて曜日もめぐりはじめること
夏の女王がはなしをおえるまでに、春の女王と秋の女王はひとつずつパンを食べました。
ゆったりとぺたんこ羊の背にゆられる春の女王が、はっときょろきょろしはじめました。
「あら、わたしのばね足がえるたちはどこかしら」
「そこにいるわ、春のおねえさま」
秋の女王のこたえをきき、春の女王は羊毛のなかをさぐってばね足がえるをみんなそとにだしました。
かえるはまだぐっすりねむっています。
「この子たちもおこさないといけないわね。ねえ、かわいい妹たち。すこしちからをかしてもらえないかしら?」
夏の女王と秋の女王はぴったりとうごきをあわせてうなずきました。
春の女王はばね足がえるをてのひらにつつんでつづけます。
「この子たちをおこすためには歌がいるの。おたまじゃくしをただしくならべるのよ。その歌は楕円の海のさんごが知っているわ。ねえ、ひとりはわたしを三月の塔につれていって。もうひとりは歌をみつけてきてくれる?」
「それならわたしは、春のおねえさまといっしょに塔へむかうわ。かわいい冬にまばたきトナカイもかえさなくちゃいけないし」と夏の女王。
「そうしたらわたしは海へいけばいいのね」と秋の女王。
「おねがいよ、ふたりとも」
まばたきトナカイとぺたんこ羊をとめて、春の女王はそっと雪に足をおろしました。
ねむりこんでいるばね足がえるとともに、夏の女王のうしろにすわります。
「よろしくね、かわいい夏。たのんだわ、かわいい秋。そして、まっていてね、かわいい冬」
トナカイはまつげにふった雪の結晶にぱちくりしてから、まっすぐ空へかけのぼりました。
ぺたんこ羊は秋の女王をせなかにのせて、楕円の海へとあゆみます。
ゆっくり、ゆっくり。秋の女王がうたたねしても、太陽はまだしろくあかるくかがやいています。
潮のひびきに秋の女王は目をあけました。ひらひらふる雪をのみこんで、まっさおな楕円の波がゆれうごきます。
秋の女王はよびかけました。
「ごきげんよう、さんごのみなさん! かえるをおこすうたをごぞんじ?」
波のおとにまじって返事がありました。
「旗がほしいの? 海草でもいそぎんちゃくでも、おすきなものを摘んでおゆきよ!」
「ちがうわ、かえるよ! かえるのための歌がしりたいの!」
底ふかくまできこえるよう、秋の女王は声をおおきくしました。けれどもすっかり塩漬けになってしまっているさんごは、またも聞きまちがえをおこしました。
「歌のかけら? それならおやすいごよう!」
秋の女王が訂正するひまもなく、「いち、にの、さん、はい!」ときこえ、海じゅうのさんごがいっせいに歌いだしました。
ごらん、海はすっかりひんやり
くらげはしゅわしゅわ、さんごはうたう
だんだんとたのしくなってきたさんごたちは、つぎつぎ歌をうたいます。
はじめはあきれていた秋の女王でしたが、礼儀ただしく、一曲がおわるごとに拍手をしてやりました。海の底からうれしそうなあぶくがぷくぷくうかびます。
四曲目か六曲目はこんな歌でした。
ケロケロケロ、かえるがおきる
池のこおりも見るまにとける
おきるかえるは水をける
ケロケロケロ、かえるがおきる
秋の女王はひときわおおきく手をたたきました。
「すばらしいわ、アンコール、アンコール!」
さんごたちは気をよくして、ふたたびおなじようにうたいました。
曲がおわりかけるたびに秋の女王がもういちどとせがむものですから、さんごたちはいよいようれしくなって、かえるをおこす歌を声もかぎりにひびかせました。
さんごの合唱は楕円の海をこえ、泉をこえ森をこえ、とうとう三月の塔までとどきました。
もちろん塔のてっぺんの冬の女王や、塔のねもとの春の女王と夏の女王の耳にもはいりました。
ケロケロケロ、かえるがおきる
池のこおりも見るまにとける
おきるかえるは水をける
ケロケロケロ、かえるがおきる
ねむりこんでいたばね足がえるは、さあ、まるい目をぎょろっとあけて、またたくまに春の女王のための輿をこしらえました。
春の女王が腰をおろすやいなや、目にもとまらぬいきおいで輿をひきます。
ぴょんぴょんはねて、ながい階段もなんのその。春の女王はまるで雲にすわっているようにかんじました。
「まっていたわ、春のおねえさま!」
「ごめんなさいね、かわいい冬!」
三月の塔の頂上で、春の女王と冬の女王はしっかりとだきあいました。
まっしろな雪はみぞれになり、とうめいできれいな雨になってぴちゃぴちゃとわらいました。
まばたきトナカイにのって冬の女王が塔をおりると、そのあしもとからやわらかな草がはえてひろがり、いちめん花のかおりでみたされました。
季節がめぐったおいわいに、太陽王は廻リ国と春ノ国、夏ノ国、秋ノ国、冬ノ国のお城のものをみんなまねいて、三月の塔のねもとで豪華絢爛なパーティーをひらきました。
春がもどった功績をたたえて、四人の女王がのぞんだごちそう ──プリン、あめ玉、生ハムにジンジャーエール── がたっぷりと宴席にならびます。
春の女王も居室のまどからかおをのぞかせて、ほがらかにはなしにくわわります。
太陽王はいすにゆったりとしずみこみ、ぐびりとおさけをのみました。
「四人とも、よくぞりっぱに役目をはたした。さすがは朕のじまんのむすめだ。それにしても、触れにだれも応じなかったというのは、いったいぜんたいどうしたことだ?」
「それは太陽王陛下がずっとはたらいていらしたからでございます」とすすみでたのは御付きの男。レモネードをひとくちのんで、もったいぶって言いました。
「春の女王陛下をさがすあいだは、廻リ国も四ツ国もずっと太陽王陛下の日、つまりは日曜日のままだったのでございます。一日でもわたくしにまかせていただければ、おつきの日、すなわち月曜日になったでありましょうに!」