弾丸パンの製法について、夏の女王がおおせになること
そうね、パンをつくるのは、ひとことでいうとかなりたいへんだったわ!
(夏の女王がそうきりだしたとたん、どこからかノビタキのさえずりがきこえました)
とくべつな材料が必要だったのだけれど、どうすればいいのかもわからなかったんだもの。とにかくあちこちさがしまわったわ。
たしか最初にみつけたのは、あごひげバター。納屋のすみっこで腕ぐみしてたわ。
だからわたし、こうたずねたの。
「ごきげんよう、りっぱなおひげのバターさん。パンをつくりたいのだけれど、ちからをかしてもらえないかしら?」
そうしたらバターはこたえたわ。
「やあ、ごきげんよう。そうしてあげたいきもちはやまやまだが、わしはここからうごけんのだ。寒さで壁にかたまってしまってな。どうしてもというならば、引きはがしてくれてもかまわんがね」
それならそうしようと近づいたところで、ふと心配になってたずねたの。
「ありがとう。失礼だけど、あなた、わるくなったりしていないわよね?」って。だってだいぶお年のようだし、全身に霜をいただいていて、バターというよりカマンベールチーズみたいだったんだもの。
とたんにあごひげバターはカンカンよ。
「なんだって! わしはわるくなどなっておらん。コウモリやネズミでもありゃしない。わしはバター、れっきとしたバターなのだからな」
でもそのおかげでするっと壁から引きはがせたわ。あごひげバターったら、ふくろにつめたあともおこりっぱなし。
つぎにさがしたのは脚つき卵。でもそんなの見たことないでしょう? わたし、うんとかんがえたの。
脚つき卵はきっと脚つきニワトリからうまれるのよ。
それで脚つきニワトリのいる農場をみつけに、あちこち飛びまわったってわけ。牛って冬にはそとにでていないのね!
クリームみたいな野原をとびこえて、なんとか小屋をみつけたわ。なかからニワトリのこえがするのをたしかめて、ノックしたの。
コンコン、コンコン! そこに脚つきニワトリはいらっしゃる?
きいてみたら、もう、たいへん。屋根がとびそうなわらいごえ。
「なにを言いなさる、おじょうさん。ニワトリにはたいてい脚がついているもんだ!」って。
ひとが知らないことをわらうなんて、失礼なはなしじゃない。あのときのわたし、あごひげバターにまけないくらいカッカしていたはずよ。
それでも脚つき卵がほしかったから、がまんしたわ。
「ごめんあそばせ。それならニワトリは卵をうむかしら? おひとつわけていただきたいのだけれど」
そうしたら小屋のなか、またおおわらいよ。しんじられる? わたし、こんどこそくるっとかえろうとおもったわ。ようやくそれがやんだとおもったら、ほんのすこしとびらがあいて、卵がひとつほうられてきたの。
ほんとうにひやひやしたのだけれど、雪がやわらかかったおかげで、おちた卵にはひびひとつなかったわ。
でもひろいあげてみたら、その卵、脚もなにもついていない、ただのつるりとしたしろい卵だったの。さすがにわたし、こらえきれなくてわめいちゃった。
「ちょっと、これはあんまりじゃないの! でていらっしゃい!」
さっきまであんなにわらっていた小屋、気味がわるいほどしんとしたわ。ニワトリのなきごえもきこえなくなって。
しばらくとびらをたたいたりよびかけてみたりもしたけれど、むなしいばかり。とうとうあきらめて、脚なし卵をあごひげバターとおなじふくろに入れて、その場を立ちさることにしたわ。
空のうえで、さあ、こんどはどうしよう。もう一軒農場をさがそうか、お城にかえろうか、ぼんやりかんがえていると、なんだかふくろがもぞもぞうごくの。
耳をすますとあごひげバターが「こりゃ、若造! そんなにころころうごくでない! そんなにわしをけるでない!」ってひっきりなしにいっていたのよ。
ふしぎにおもってふくろをのぞくと、卵からにょっきり二本の脚がはえて、いっしょうけんめいあるこうとしていたの。さっきまで脚なし卵だったのに!
いそいで農場までひきかえして、とびらのまえでおじぎしたわ。
「さきほどはたいそう失礼いたしました。すてきな脚つき卵をありがとうございます」って。
あいかわらずとびらのむこうはしずまりかえっていたけれど、ひとまず満足したからいよいよお城にとんでいったの。
おちゃを一杯のんでから、かわいい冬がおしえてくれたとおりにパンをつくろうとおもったのだけれど、材料をぜんぶボウルにいれてみたら、四人みんなでたべるにはまるっきりたりないじゃない。寒さつづきのせいで小麦粉だってほんのちょっぴり。
しかたないから、手近なものをどんどんくわえてまぜてみたの。
バター、帽子屋、小麦粉、文法、卵、雪、それにナツメグ。
オーブンで焼いたらきちんとパンになったわ。ほら、見てのとおり、ころころちいさい弾丸みたい。
無事にパンもできあがったから、こうしてとどけにやってきたの。
どう、とびきりいそいだからまだあたたかいわ!