春の女王は横たわってすやすやなさり、秋の女王は動きながらうとうとなさること
さて、夏の女王とくらべると、秋の女王はいささかばかり骨おりでした。
秋の女王の宝物は、すばらしきぺたんこ羊のローランです。その背にのって雪原をさっくりふんわりすすみます。
羊毛のおかげでちっとも寒くはありませんが、なにしろみなさまごぞんじのとおり、羊といういきものは、ひとに頭をぶっつける以外はねむっているかあくびをするかで、とてものんびりしているのです。
秋の女王もうとうとするうち、ようやく春ノ国につきました。
「春のおねえさまはどこかしら? ひょっとしてどこかの会合におでまし?」
ぺたんこ羊はなにもこたえず、ぺたぺた足跡をのこします。秋の女王は道案内をすっかりまかせてしまうことにしました。
廻リ国、そして夏、秋、冬ノ国とおなじように、春ノ国にも太陽王の発したおふれがかかげられています。
──春の女王を見つけ出し、再び春をもたらせよ。審問官、皮肉屋、変わり者、カドリールの踊り手、偽医者など、そなたが何者であるかに依らず、この探求に成功した暁にはトロフィーに加え、量・質を問わずなんでも望みの褒美を取らせる。できうる限りの早い解決を望む──
「女王はどうなのかしら、お父様はご褒美をくださって?」
秋の女王はおふれを読んでひとりごと。
「でも考えてみれば、望みどおりのものをなんでもって、いつものことじゃない。ねえ、ローラン?」
ぺたんこ羊のローランは低い声でメエェとこたえました。
またいくつかのおふれを横切りながら、ゆっくりゆっくりあるいたさきは、ちいさな澄んだ泉でした。いまは水晶のようにこおっていて、底までくもりなく見とおせます。
のぞきこんでみると、まあ、なんと。しずかでつめたい水のなかに春の女王がよこたわっているではありませんか。
秋の女王はびっくりぎょうてん。きっぱりとぺたんこ羊に命令しました。
「さあ、そのかたい頭がやくにたつわ。こおった泉をわってちょうだい」
ごつんとぺたんこ羊が水面に頭をうちつけると、あつい氷は音をたててわれていきます。
秋の女王はいそいで春の女王をひきあげました。そのびしょぬれのスカートのなかから、春の女王の宝物、泉のなかのばね足がえるがなんびきも転がりでてきましたから、秋の女王はそのかえるたちもていねいにすくってやりました。
「春のおねえさま、こんなところでねむっていたら風邪をひくわ。はやくあたたかくしてくださらなくちゃ」
よびかけても、春の女王もばね足がえるもすやすやしているばかりです。
秋の女王はじぶんのほおに手をあてました。
「とにかく、ここでじっとしている時間はないわ。行きさきは、ええと、いくつかあるわね。春のおねえさまのお城、わたしのお城、太陽王お父さまのお城、三月の塔。女王がねむっていても季節はめぐるのかしら? ……ええ、そのはずよ。そうでなかったら、夜中には季節がないことになってしまうもの」
そこまでかんがえて、ふたたびぺたんこ羊につげます。
「三月の塔にむかうわよ。おねえさまとかえるがふえるけれど、平気よね?」
ぺたんこ羊のうなずきをみて、秋の女王は羊毛のなかに、かちんこちんのばね足がえるをしっかりとうずめました。それから春の女王を羊の背にのせ、じぶんもおなじようにすわりました。
荷物のふえたぺたんこ羊は、きたときよりももっとゆっくり、かたつむりかもぐらのしっぽのように足をすすめはじめました。
ようやく春ノ国の国境が見えだしたころ。どこからかこんがりとおいしそうな匂いがただよってきました。と秋の女王がきづいてまもなく、ひゅうっと空からなにかがおちてきて、ポンッと春の女王の口にとびこみました。
春の女王は眠ったままちいさく口をうごかしていましたが、ほどなくぱっちりと目をあけました。
「ああ、ずいぶんよく寝たわ。あら、おはよう、かわいい秋」
おどろいてものも言えない秋の女王。その目のまえに、こんどはまばたきトナカイにのった夏の女王がまいおりました。
「ここにいたのね、かわいい秋、そして春のおねえさま! ふたりともパンをどう?」
夏の女王は手にしていたかごをさしだします。ふっくら焼けたちいさなパンがいっぱいです。
「ありがとう、いただくわ」とパンをもうひとつつまんだのは春の女王。
「パン? おねえさま、かわいい冬にはきちんと会えて?」
秋の女王は手をのばさず、かすかにまゆをひそめました。
「もちろんよ。このパンのつくりかただって、かわいい冬におそわったのよ。それから材料をあつめて、まぜて、こねて、焼いてきたの。そのときのはなし、きいてくれる?」
「ええ、それなら道々きくわ。三月の塔にいくところなの」
そういうわけで、まばたきトナカイも、ぺたんこ羊にあわせてゆっくりと地面をあるくことになりました。
夏の女王はさっそくはなしだしました。