三月の塔の上で二人の女王が立ち話をなさること
太陽王のことばどおり、夏の女王と秋の女王は、それぞれ冬の女王と春の女王に会いにむかっていました。
夏の女王がついたのは、三月の塔というところです。廻リ国でいちばんたかく、四人の女王は交替で三月ずつそこですごします。
夏の女王は塔のあしもとにとめた馬車から、琥珀のはしごをだしました。正式な名は「挑戦者のための琥珀のはしご」というのですが、それはさほど大事なことでもありません。
このはしご、はじめは夏の女王のうでのながさほどもありませんでしたが、ひとたび塔に立てかけると、なんとにょきにょきのびだして、あっというまに塔のてっぺん。
夏の女王はまるで野うさぎのようにかろやかに、すいすいはしごをのぼっていきます。
女王さまははしごなんかのぼらないものですって? いいえ、このはしごだけはとくべつです。
琥珀のはしごは塔をのぼるための宝物。けっしてつかれずどこまでもまっすぐいけるのです。
もちろんほかの女王たちも宝物をもっています。それがなにかは、あとのおたのしみ。
そうこうはなしているうちに、夏の女王はもうあんなにたかくまで。冬の女王の居室のまどをコツコツ、コツコツ、たたきます。
「だれかしら? ガチョウか長靴?」
まどがあいて、冬の女王が姿をみせました。
「どっちでもないわ、わたしよ!」と夏の女王はこたえました。つめたい風がそのほおに雪のつぶをぶつけます。
「あら、夏のおねえさま! 春のおねえさまをおいこしていらして?」
「そういうってことは、やっぱり春のおねえさまはまだなのね。ねえ、ところでこの寒さ、いったいいつからつづいているのよ?」
冬の女王は首をかしげて指おりかぞえはじめました。
「そうね、秋のおねえさまと交替したのが十一月のおわりごろ。それから十二月、一月ときて、いまは四月になりかけだから──」
「要するに、四か月とすこしってわけね!」
夏の女王は寒さに歯をならしてさけびました。おもたい雲のすきまから、わずかに太陽がさしました。
「こんなことたのむのも失礼だけど、ちょっとあたたかくしてもらえないかしら? あなたも見てわかるでしょ、どこもかしこもまっしろよ!」
「あいにくだけど」と冬の女王は肩をすくめます。
「それには歩いてもらうしかないわ。ついでに春のおねえさまもよんできてくれる?」
「なんてこと!」
夏の女王はぶるっと身をふるわせました。
「はるばるここまでやってきたのに、春のおねえさままでさがしにいかなきゃいけないの?」
すまなそうな顔をして冬の女王はこういいました。
「ごめんなさい、わたしのトナカイをかしてあげる。パンのレシピもおしえてあげる。だからおねがい、春のおねえさまをつれてきて」
声に応じて居室のおくからあらわれたのは、はずかしがりのまばたきトナカイ。冬の女王はトナカイの手綱をひいて、塔のうえまでひとっとびするのです。
「ごきげんよう、かわいいトナカイさん」
夏の女王は礼儀ただしく挨拶しました。トナカイは冬の女王のうしろで目をぱちくりさせていました。
つづけて冬の女王がパンのつくりかたを説明します。
「まず脚つき卵を割ってほぐすの。そこに小麦粉をシャワーみたいにざあざあふって。そうそう、バターがいちばん重要よ。あごひげバター、ビールみたいに苦いバター。それをみんなよくこねて、じっくり焼いたらできあがり」
「まって、まって!」
夏の女王は片手をあげてことばを押しとどめます。
「そんなにいわれちゃわからないわ。要するにそれ、どういうこと?」
冬の女王はささやきました。
「卵、小麦粉、バター。ぜんぶまぜて焼くだけよ」
そのとき、どこからか緑のはっぱがいちまい、ひらひらとまいました。
「よくわかったわ。ありがとう!」
夏の女王は琥珀のはしごをするするおりていきました。まばたきトナカイもまどからひらり。
「それじゃあ、はやく出発しましょう。でも春のおねえさまのところにはかわいい秋がいっているはずね。それならわたしはパンを焼いてまつことにするわ!」
夏の女王は琥珀のはしごをもとのとおりにちいさくちぢめて馬車の荷につみました。それから馬と馬のあいだにまばたきトナカイをつなぎました。
ぱしん、と御者のむちのおと。おどろいたまばたきトナカイは馬車もろとも空へかけのぼります。
夏の女王も家来も琥珀のはしごも、銀色にふる雪のなかをぴゅうぴゅうとんでいきました。