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エピローグ

 こうして、諸悪の根源を倒した私達。

 説明をさせられることにはなったのだが、短期間にここに移動して色々とやらかしたせいで私は、その能力などについて散々質問攻めにあい、しかも両親に連絡という責め苦を味わっていた。


「く、良い事をしたはずなのに勝手に動いたといって叱られかかっている私」

「それだけ両親に心配されているのだろう。……俺も、戻ったら絞られる予定だから、今のうちにミシェルをあおるだけ煽っておこう」


 酷いことを口走っているグレンだが、何かを言い返したい衝動にかられながら私は、


「……グレン、ありがとうね。井戸の件は貴方が事前に手を打っていなかったら死んでいたかも」

「ああ、余裕だと思って油断してたから、これはそのうち足元をすくわれるなと思ったからな。ミシェルはそういう人間だし」

「……ねえ」

「なんだ?」

「もう少し素直になれないの? 私がお礼を言っているんだし!」

「事実は事実だからな」


 笑うグレンにこいつとこれ以上この話をしていても仕方がないと思った私は、


「それで従者のフィズは見かけないけれど、どうしたの?」

「フィズは久しぶりの超強力な拘束魔法を使ったので、筋肉痛で動けずにいる」

「あら、リアナと同じね。リアナもこの城で現在、筋肉痛で寝ているからね。やっぱりあの超弩級神聖魔法は今のリアナにはきつかったようね」

「そういえばミシェルはどうして筋肉痛にならないんだ? きつい魔法を使うとなるものだが」

「それが、凄く魔力が私は多いらしくて。もともとは常時魅了魔法キャンセルが働いていたらしいんだけれど、それを止めたら筋肉痛にもならなかったわ」

「……あの魔法、一人で打てたんじゃないのか?」

「無理よ。二人以上で増幅して個y激する魔法だから、リアナ、そう“聖女”がいないと無理」


 そこで、何かがミシェルの方に飛んでくる。

 それは妖精のミフィだった。


「ミシェル、死にかけたって本当ですか!?」

「大丈夫よ、グレンのお陰で」

「やっぱり死にかけたんじゃないですか! やはり私はミシェルから離れてはいけないようですね」

「そ、そこまで私は抜けていないし」

「……じー」


 妖精さんが冷たい目で私を見てくる。

 私は別の話に出来ないかと考えてから、


「そ、そうだ、町の人達はどうだった?」

「私やフィーアやアズフォード、そして料理人の活躍により死者はゼロです」

「……料理人?」

「フィーアのお兄さん達ですよ。それはもう、凄い戦いっぷりらしくて。子供たちも将来料理人になってフライパンや鍋で敵を倒せるようになるのだと言っていたとか。なので剣で活躍していた騎士団の人達が泣いていたらしいです」

「う、うん……そうなんだ……」


 微妙な顔になってしまう。

 相変わらず、この世界は変だなと思いながら私は、ふと思う。


「私の知っている物語の世界によく似ていると思ったけれど、私が死ななくても似たような展開になっていたのは、ユウが黒幕だったから。そして、危険な敵。“聖女”の記憶と能力が無かったらどうなっていたか」

「案外、この世界がその危機に反応して、ミシェルにその記憶を上手く思い出させてくれたのかもしれませんね。おかげで頭がアレなことにならずに済みましたしね」

「……」


 頭があれだと聞いて、微妙な気持ちに私はなった。

 けれど、上手くいったのでそれは考えないようにして、


「“闇の影”も学習するのね。速攻で私を倒しに来たし。でも何で“聖女”である私と接触してすぐに一斉に“黒の影”達を動かして混乱させなかったのかしら」


 それくらいの事は考えていそうな気がする。

 でも、彼女はそうしなかった。

 それを聞いていたグレンが嘆息する。


「気づかないのか?」

「何が?」

「ミシェルを殺した後に、あのユウは動いただろう? つまり、ユウはミシェルを殺したかったんだ。それさえ済めば後はどうでもよかったんじゃないのか?」

「……何だか私を殺そうとしたのは、ユウの“意思”に聞こえるわね」

「そうなんだろう」


 そこまで話して私は、やっぱりとんでもない女だったなと思う。


「そこまで私が羨ましくて、嫉妬に狂って……何をやっているのかしら」

「持っている者と持たざる者の感覚の違いもあるのだろう。そして、ないからこそ、その苦労すらも分からない」

「……面倒くさい」

「ミシェルは、本当に変な女になったな」

「どういう意味よ。でもあの感じ……まさかユウは本当にビレスが好きだったのかな?」

「そんな雰囲気ではあったな」

「趣味が悪いわね」

「ミシェルも昔はそうだっただろう? 化粧も騙されていたし。おかしいと思えよ」

「う……そ、そうだ、ビレスに関する話は聞いたかしら」


 都合の悪い話を変えるように私が告げると、グレンがすぐに食いついてきた。


「どうなったんだ?」

「王位継承権返上はなしで、地方の別荘でしばらくお休みだって。今回の件は全部ユウのせいという話になったわ」

「……浮気関係は全部ユウのせいなのか?」

「そんなわけないでしょう、ユウ以外にも何人も他の女がいたわけだし。それでさっき声をかけられたけれど、『女のせいにするのは最低以外でも何者もないけれどね。私にしたことは事実でしょう?ユウ以外にも女がいたし』っ言ったら、もう一度やり直さなおいかなんて言わなくなったわ」

「そう、か」

「嬉しそうね」

「当然だろう、俺はミシェルが好きなんだし。ミシェルはどうなんだ?」


 そこでグレンが私に聞いてくる。

 ここで聞いてくるのか、と思った。

 もう少し後でもいいのではと思った。


 時間が短すぎる、別の目的がある……時間稼ぎをして、答えを“保留”にする手はもう使えない。

 違う、私の中ですでに、答えは決まっていた。

 あの暗い井戸につきおとされて気を失って、それから初めて見た顔がグレンだった。


 あの時ほど、安堵したことはなかった。

 だからそろそろ素直に言ってもいいのかもしれない。

 そう思って私は口を開く。


「私は、グレンを愛しています」

「……珍しくもいシェルが素直だ。天変地異の前触れか」

「グーレーン―」

「そもそも、小さいときに俺はミシェルに告白しただろう。それで微妙な返事をされたんだよな」

「……あの、キノコ爆弾でおどろかせられたあれね」


 そう呟きながら私はどうしてああなったのか、思い出した。

 つまり、“全て”がグレンがあるいという事実。


「あの時私、グレンを“女の子”だと思っていたのよね」

「……俺は知っているものとばかり、思っていた」

「そして私は同性愛後者じゃないの」

「……そうだな」

「そこで、将来お嫁さんになってと言われたら断るでしょう! 普通!」

「ああ、そうだな。はあ、お互い勘違いをしていたという事でこの話は終わりにしよう。俺達はこれからの未来に目を向けるべきだ」


 そう言いだしたグレンを半眼で見ていた私はそこで、グレンに抱きしめられた。

 突然の行動に私は、頬が熱くなって動けない。


「な、何をするのよ」

「可愛い恋人を抱きしめて何が悪い?」

「う、うぐ。これからどうする気?」

「キスがしたい」


 甘くささやかれるように私は言われた。

 ちなみにキスなんて私はしたことはない。

 初めてである。


 そう凍り付きつつも、恐る恐る見上げると微笑むグレンの顔があって……ゆっくりとグレンの顔が近づいてくる。

 私はそこで、視界の端にとある人物がいるのと、上空からニマニマミフィが私の様子を見ているのに気づく。


「みんなが見ているんだけれど」

「俺も気づいた」

「見ている前でするのは、ちょっと」

「ああ、そうだな」


 そう言った会話をして私達が離れると、近くの草むらからリアナが飛び出した。


「いい所だったのに! そのままキスしちゃいましょう!」

「リアナ、筋肉痛で動けなかったんじゃ」

「治りました。料理人アインさんの秘伝のレシピだか何だかで、食べたらもりもりでした!」

「そ、そうなんだ……え?」


 そこで私はリアナに手を捕まれて、


「さあ、ミドリちゃん、約束通り新たな冒険に旅立ちましょう!」

「……そんな約束したっけ」

「いえ、確かミドリちゃんは、一つの事件を解決したら、何も言わずにその場を立ち去り新たな冒険に向かうのよ! と言っていました。だからまた冒険しましょう!」


 リアナが嬉しそうにそう誘ってくるが、私としては遠慮したかった。

 そこで今度は新たな人物が、


「リアナ、美味しいケーキを貰ってきたが、必要ないかな」

「ケーキ!」


 リアナが即座に反応する。

 現れたルーファスの手には紙に包まれたケーキがあり、リアナはそちらの方に行ってしまった。

 助かったと思っているとルーファスがこちらにやってきて、


「仲睦まじそうで何よりだ」

「ああ。そして今邪魔されたがな」

「運が悪い。それで、グレン、久しぶりに模擬戦でもしてみないかな?」

「……なぜ突然」

「いや、操られていたとはいえ、あそこまで簡単に倒されてしまうのは悔しくてね。リベンジの機会が欲しい」

「……いやだ」

「何故?」

「ミシェルとの時間が減る」

「ふむ、では、模擬戦をしてくれないのであれば、全力でミシェル嬢との仲を邪魔をする、というのはどうだろう」


 妙なことを言い出したルーファスに、グレンの機嫌が悪くなる。

 何をやっているのだと思っている私だが、後に、ルーファスのその言葉が本気だったと知る。

 そこでルーファスが、


「その話は置いておいて、ユウについてさらに調べたが、ごく普通の村娘であったらしい。ただ何かがあって、森に向かって、変わってしまったらしい」

「共感するものがある人間は、とりつきやすいからね。“闇の影”は」

「そしてあのユウが滅んで分かった事は、数十人の人間が直接、間接的に死んでいる」

「……でしょうね」


 あの“闇の影”はそういう物だったから。

 驚くに値しない話だわと私が思っているとそこで、


「とりあえずはこの王宮に紛れ込んだ“闇の影”は倒された。ミシェル嬢たちのお陰で」

「そうよ、私とリアナに感謝すべき」

「それで聖女の扱いをどうするかという話になったのだが、塔に幽閉という案も出ているのだがどう思う」

「もちろんその塔と城をがれきの山にして逃走かな。全員記憶喪失にしておけば、何の問題もないわね」

「出来るのかな?」

「やろうと思えばできるかも?」

「ではそうされると困るので、監視するだけにとどまるようにしておきましょう。リアナも」


 微笑み黒い事を言いやがったルーファス。

 やはり王子という人種はどこかが黒いと思う。

 そう思いながら、グレンを見上げるとグレンが微笑んだ。

 

 私はついそれに魅入られてしまう。

 どうやら私は……。

 そこでリアナに私は抱きつかれた。


「結婚したら遊べなくなりそうなので、今すぐ旅に出ましょう!」

「ま、まって、リアナ。貴族間の婚約期間は結構長いから」

「……本当ですか」

「そうそう」

「では今すぐ冒険に行っても大丈夫ですね!」

「いやいやいや。今日は休もうよ。疲れたから、私も」

「そうですか? 仕方がないですね」


 そう言ってリアナは去っていきルーファスもリアナを追いかけるようにいなくなる。

 その騒がしさが一気になくなるのを感じながら私は、


「こんな普通な日々が続いていくと良いね」

「そうだな。……だが現状では、普通とは言い切れない気もするが」

「……そうね」


 と返した私とグレンの予感は後日現実のものとなる。

 けれど騒がしくも穏やかな日々は、少しずつ私にとって大切なものになっていく。

 そんな日々の話は、また別の話。


 “悪役令嬢”と呼ばれるはずだったミシェルはもうどこにもいない。

 こうして“悪役令嬢”として登場するはずだった私の物語は、ひとまず終わりを告げたのでした。


ここまで読んで頂きありがとうございました。短編の受けが良かったのもあり、話の大まかな構造を作って、色々と趣味を放り込んでこんな形になってしまいました。自作品では珍しく、悪役の狂気が最後の方は多めになっています。今までとは違ったテイストを目指して今回は書いてみましたがいかがでしょうか? さて、今後は番外編も書けたらなと思っています。また、この主人公のミドリちゃん編も現在書いておりますので、よろしければ読んで頂けると嬉しいです。それでは、ここまで読んで頂きありがとうございました。また何か書きましたらよろしくお願いします。

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